現在、別冊少年マガジンにて『超人学園』 を絶好調連載中の石沢庸介先生にインタビュー。地元の宇都宮で描くことについての考えや、使っている作画道具のことなど、マンガを実際描くときに直面しそうな事柄について、いろいろ聞いてきました!
「マンガと精神状態は直結していると思うんです」
4月某日。長く電車に揺られてやってきたのは、栃木県の宇都宮。好天にも恵まれ、ともすれば観光気分になってしまいそうな気持ちを抑えて、我々は石沢先生の仕事場に向かった。
着いた仕事場の間取りは、広めの2LK。リビングにあるのは、整理された作業机 ①。その周りには知り合いの方が作ってくれたハチのフィギュア②が飾られていたり、「オスカ」と名づけられたモモンガ (昼は就寝中)③がいたりと、『超人学園』ゆかりの品々に囲まれながら、話を伺った。
――本日はよろしくお願いします。まず、石沢先生は現在宇都宮で執筆されているわけですが、連載が決まると東京に出てくる方が多いなかで、なぜそのような選択をされたんでしょうか。
石沢「宇都宮にいれば家族や友達がいて寂しくなかったからです。東京に出たほうが便利だろうとは思いました。いちばん悩んだのはアシスタントさんを探せるかどうかということでしたが、たまたま出身大学の学生さんたちがアシスタントとして仕事してくれるということになり、それならばということで宇都宮に残ることを決めました」
★石沢先生は宇都宮市内にある、宇都宮文星短期大学イラスト・マンガ科の出身。
――新人漫画家のなかには地元で描きつづけるか、それとも東京に出てくるか迷っている人がたくさんいるんですが、石沢先生の考えはどうですか?
石沢「私の場合は、東京に出たら友達もいないなか一人で描くことになるんだろうな、さびしくてノイローゼになってしまいそうだな、と思ったので宇都宮に残ることにしました。アシスタントさんに困るとか、必要な事情がなければ地元に残ってもいいと思います」
――事情が許すなら地元で、ということでしょうか。
石沢「もちろん私が知っている人のなかにも、自分を追い詰めてギリギリで勝負したいから上京するという人がいて、そういう人は本当に強くて凄いと思います! ただマンガを描いていると、作品の内容と描く人の精神状態は直結していると感じるんです。だから自分のメンタルを良い状態に保てる環境にいるのが、いちばんいいんじゃないでしょうか」
――石沢先生の場合は地元にいるのが、『超人学園』というマンガにとっていちばん良い環境だったということなんですね。
「こぼれたインクがフローリングに広がったときは、漫画家をやめようかと思いました」
――石沢先生が作画するときによく使っている道具を教えていただけますか?
石沢「まずこれが、主に使っているミリペン④です」
――Gペンなどの付けペンではないんですね。最初からミリペンで描いていたんですか?
石沢「いちばん最初にマンガを描いたときは、イラスト画を描くのに使っていたペン(サインペン)で描きました。“Gペンというものがあるらしいぞ”という、フワッとした噂は聞いたことがありましたが、うちの周りにはマンガの教本を置いている本屋さんもなかったので、そのままにしていました(笑)」
――付けペンのほうがさまざまな種類の線が描けて便利だと言われますが、ミリペンに不便は感じませんか?
石沢「実はGペンを使ってみたことはあるんですよ。たとえば読み切りの『オハナ迷彩』はGペンで描きました。でも自分の筆圧が高いせいか太い線ばかりになってしまって、あまり便利だと感じませんでした。それに付けペンは自分の性に合わない感じがして…。そもそもインクを付けて描く、というのがなんとも億劫なんです。いちどインクをこぼしてドバアッとフローリングの床に広がってしまったときは心が折れかけて、漫画家をやめようかと思いました」
★ 『オハナ迷彩』は2007年12月発売の増刊号「マガジンドラゴン」に掲載された読み切り。『超人学園』に出てくるヨシノの原型となった、軍曹・ソメイヨシノ⑤が登場する。 →作品はこちらで読めます!
――石沢先生が漫画家をやめなくて良かったです(笑)
石沢「いまではGペンも便利なんだろうなあ、と思います。やはりミリペンでは一定の線しか引けないので、太い線を描きたいときは何度も重ねて描く必要があって手間がかかるんです」
――Gペンの場合は、使い始めのペン先/ほどよく使ったペン先/使い終わりに近いペン先、などを用途によって使い分ける漫画家さんがいますよね。ミリペンの場合はどうなんですか?
石沢「そうなんですか!? 私もおんなじですよ! 使い終わりに近い、描きにくくなったペンを、アシスタントさんに言ってわざわざ取っておいてもらうんです。登場人物の頬の赤らみや校舎の木目を描くときにいいんです。あと点描のときにも使うかな」
★ 左のほうが使い終わりに近いペン⑥。ペンの先にあるインク部分が違う。
――石沢先生はアシスタント経験もないんですよね。マンガの描き方はすべて独学で習得したんですか?
石沢「大学の授業で教えてもらったことはあります。でもコマの余白の幅をタテとヨコで変えるとか、いろんなルールがあって、“もーなんて面倒臭いんだ!”と心が折れかけました」
★ 一般的にコマとコマの間の余白は、タテ幅を狭くヨコ幅を広くとったほうが読みやすくなる。
――そうして基本を習ったあとは、ご自身でいろいろ研究して描いているわけですね。
石沢「たとえばこの間はコピック(※編集部注 カラーの着色などによく使われる画材)の灰色⑦を、影を付けるために使ってみました。でも印刷したときにムラが出たりしたので、使うことはあきらめました。また最近はPCを使った作画にも挑戦しています。新しいペンタブレットを手に入れて使っているんですが、とっても楽しいです」
――別冊少年マガジン6月号(5月9日発売)に掲載されるセンターカラーも、デジタルで作画したものですよね。紙に描くときといちばん違うのはどういう点ですか?
石沢「難しいのは、画面で見た色とプリンターで出てくる色が違うことです。どのくらいに合わせて描くか、いろいろ試行錯誤しているところです」
「挙げだしたらキリがありません」
――2009年の春に『超人学園』の連載が決まったときから数えて、もう3年が経つわけですが、以前と比べて変わったのはどんなところですか?
石沢「そんな、変わったところを挙げだしたらキリがありません(笑)」
――たとえば、ということで(笑)
石沢「まず最初に原稿を持っていったときに、担当さんにコマ枠が太すぎる⑧と言われました。たしかにあの時はマッキーで描いていましたからね。あと、担当さんから“セリフが入っていないところがある”という連絡があって、原稿のコピーを見てみたら月だった。なんてことも…」
――そう言われてみると、初期に出てくる背景の月⑨はみんな満月ですね(笑)
石沢「そうなんですよ(笑)。しかもその月の大きさに合わせて、ペットボトルのふた/五百円玉/掃除のコロコロの芯を使って、円を描いていたという…。いや、円のテンプレート(※編集部注 さまざまな大きさの円が描ける円定規)があることは知っていました。知ってはいたんです。でも買いに行くヒマがなかったんです」
――では過去の話はこの辺までにして、これから先、将来の目標をお願いします。
石沢「漫画家であり続けたいです。そしていろんなことにチャレンジしていきたいです」
――『超人学園』の将来はどのようにしたいと思ってらっしゃいますか?
石沢「『超人学園』ですか? うーん…(しばらく考えて)いや、分からないです(汗)」
――いえ、大丈夫です! どんな物語になっていくのか楽しみにしています。お忙しいなか時間をとっていただき、どうもありがとうございました!
石沢先生の描く『超人学園』は別冊少年マガジン(毎月9日発売)にて大人気連載中。特に5月9日発売の6月号はセンターカラーで登場します!
また同じく5月9日には、最新単行本第8巻も発売開始。描きおろしの番外編も収録されています!
石沢先生が直筆カット⑩を執筆してくれました。
描いている様子を連続写真で特別公開します。
ちなみにスミベタを塗るのに使っているのはコピックの黒です。
ムラが少なくて使いやすいけれど、オスカ4~5人分のベタを塗ったら、なくなってしまうそうです…。
連続写真を見てみたい方は →こちら!