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原子力を考えるとき、使用済み核燃料をどう処理するかという難題は、避けて通れない。
日本では、そのすべてを再処理し、プルトニウムを取り出して使う「全量再処理」を大前提にしてきた。核燃料サイクル路線と呼ばれるものだ。
しかし、原発を減らしていく時代に、この路線の存続理由はどんどん失せている。
むしろ、プルトニウムを持ち、それを利用することの問題点が大きくなっている。
いま、政府の原子力委員会は原子力大綱の策定作業を進めている。そのなかで、再処理路線からの撤退を明確にすべきだ。
■核不拡散への貢献を
第一の理由は、核拡散の防止である。
唯一の被爆国の日本は、福島での原発事故で改めて放射能禍の恐ろしさを知った。その一方で、世界ではイランの核開発疑惑が深まり、北朝鮮による新たな核実験への懸念も強まっている。核廃絶を唱える日本としては、事故を契機にいま一度、原子力利用が核拡散につながらない方策を熟考するときだ。
核兵器をつくるには高濃縮ウランかプルトニウムが要る。これ以上の核拡散を防ぐため、ウラン濃縮施設は国際管理とし、再処理は停止する。それを日本が率先し、各国に賛同を働きかけるべきである。
日本は非核国で唯一、商業規模(大規模)の再処理施設を持っている。韓国も再処理に意欲を見せるが、91年の北朝鮮との共同宣言で、両国ともウラン濃縮、再処理施設を保有しないことになっている。韓国内には北朝鮮が合意を破っており、もはや宣言にはしばられないとの意見がある。
日本が再処理路線をやめて、韓国にも同様な方針を促す。それが、朝鮮半島の非核化の実現や、北東アジア全体の安全・安定に資する道だと考える。
米国は核拡散の結果、兵器用核分裂物質がテロ集団に渡ることを強く警戒している。日本が新たな核不拡散政策を先導すれば、米国の安全保障にもプラスになる。同盟の双方向性を高める効果も期待できる。
■経済的にも不合理
日本は余剰のプルトニウムを持つことへの、国際的な視線の厳しさももっと自覚しなければならない。
事故後、プルトニウムを混ぜたMOX燃料の原発での利用計画は先行きが見えなくなった。このまま再処理に突き進めば、余剰プルトニウムが増えるばかりだ。日本にその意図がなくても、いずれ日本が核保有にいたるのではないかとの懸念が海外でふくらみかねない。日本のプルトニウムがテロ集団に狙われる危険もゼロではない。
撤退の第二の理由は、経済的に見合わないことだ。
原子力委員会の小委員会が、核燃料サイクルに関するコストを比較した。これまでどおりの全量再処理▽再処理をしないで地下に捨てる「直接処分」▽再処理と直接処分の併存、の3シナリオで計算した。
その結果、直接処分のコストは、全量再処理よりも約3兆円も割安になった。
そもそも、核燃料サイクルの主要施設である再処理工場(青森県)、高速増殖原型炉もんじゅ(福井県)とも、故障続きで本格稼働できないままだ。政府はふくらむ経費に甘かったが、もはやそれもできない。
再処理によって高レベル廃棄物の体積が減るとされるが、高レベル以外の廃棄物の体積は逆に増える問題も抱えている。
■核のごみは中間貯蔵
再処理からの撤退は、「政策変更コスト」に正面から向き合うことを抜きには進まない。
たとえば、再処理をやめると六ケ所再処理工場の運営会社や地域経済は困るだろう。工場の廃止や業務転換などのために、電力会社がこれまで再処理のために積み立ててきた基金を使うことも一案だ。
いざ撤退となれば、使用済み核燃料の扱いが問題になる。最終処分のあり方を決めるまで、とりあえず数十年間保管する中間貯蔵施設を電力会社ごとにつくるなど、代替策の具体化が求められる。
小委員会は来週、再処理の未来についての複数のシナリオとコストの一覧をまとめて、原子力委員会の新大綱策定会議に提出する。策定会議は複数シナリオを並べて、今月中にも最終決定機関で、関係閣僚が集まるエネルギー・環境会議に見解をあげる。
それを受けて、同会議が「国民的議論」を経て、核燃料サイクルのありようを含めた原子力政策を夏ごろに決める方針だ。
これまでの議論では、「政策決定を数年間、遅らせる」といった留保シナリオ案もある。だが、将来的にもサイクルが抱える本質的な問題は変わらない。いまこそ路線を転換し、新たなエネルギー戦略を描くときだ。
日本は、原子力を整理する時代に移行すべきである。