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「グローバリゼーションと国家」
から猫氏の行動を考える

 猫さんの五輪出場に関して、議論を大まかに色分けすると、以下のように総括できると思う。

 反対派は「カンボジアに住んでいないのに、代表として出ていいものか」、「売名行為以外のなにものでもない。カンボジア国民に失礼だ」というものだ。賛成派は、「猫氏は実際にタイム改善の努力をしているのだから良いのでは」、「カンボジアと日本の架け橋になってほしい」というものである。

 なかには、カンボジア国籍やオリンピック出場権取得の方法を疑問視する声もある。「国籍取得と五輪出場権をカネで買ったのではないか」という、確かな根拠の無い、誹謗中傷に近い批判もある。

 猫さんの国籍取得の方法や五輪出場権取得の方法などについては、背景が定かではないので、踏み込んで議論をしない。ここでは、「グローバリゼーションと国家」という視点から、海外に住む人間としてこの問題を考えてみたい。

国籍と愛国心の関係

 海外で暮らしていて感じるのは、国籍変更なんて当たり前だということだ。

 「日本国籍を捨てたから日本を愛せない」、「日本国籍を堅持しているから、日本を愛している」というロジックは全く成り立たないし、時代錯誤もいいところだと思う。

 私の中国の友人で、フットワークを軽くして、多くのことを成し遂げるために、国籍をアメリカやイギリス、シンガポールやカナダに変更して、「祖国が国際社会で輝けるために」努力をしている人はたくさんいる。

 彼らは皆こう語る。「私には祖国が二つあるんです」と。国籍は変わっても、心の軸足は常に生まれた国にあり、二つの祖国のために、架け橋になるために汗を流すということだ。これが売国行為だと言うのであれば、その理由をぜひ教えてほしい。

 私は昨年度、台湾で『愛国奴』という本を出版した。私が「愛国奴」に下した定義は、「知らぬ間に御国を売っていく人たち」だ。無責任に、何の根拠もなく他国やそこの人たちに誹謗中傷を与え、結果的に国家社会の利益・イメージを損なう言動をしている人たちのことを指す。日本で、ただ感情に任せて、「中国人は出ていけ」、「外国人は引っこんでいろ」と罵倒したり、中国で、「愛国無罪」を主張し、日本の大使館やレストランにモノを投げつけたりする人は、典型的な「愛国奴」である。

 私にも二つの故郷がある。人生の原点・伊豆と、成長の原点・北京である。

 伊豆に対しては言うまでもないが、己に真の意味での自信と愛国心を獲得させてくれた北京には本当に感謝している。人間は外を向いて、外に出てみて初めて祖国を愛するようになるものだと知った。日本に閉じこもっていては見えない日本があることを教えてくれた。

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加藤嘉一 [国際コラムニスト、北京大学研究員]

1984年静岡県生まれ。英フィナンシャルタイムズ中国語版、香港<亜州週刊>、The Nikkei Asian Reviewコラムニスト、北京大学研究員、復旦大学新聞学院講座学者、慶応義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。2003年、高校卒業後単身で北京大学留学。同大学国際関係学院大学院修士課程修了。自身のブログは6100万アクセス、中国版ツイッター「新浪微博」のフォロワー数は133万人以上(2012年4月2日現在)。中国で多数の著書を出版する一方、日本では『われ日本海の橋とならん』(ダイヤモンド社)などを出版。2010年、中国の発展に貢献した人物に贈られる「時代騎士賞」を受賞。趣味はマラソン。

 


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