マイケル・スペンス氏は情報と市場の関係に関する研究でノーベル経済学賞を受賞。米ニューヨーク大学スターン経営大学院教授、米スタンフォード大学フーバー研究所シニアフェローなどを務める。
中国と米国は大きな構造的変化に直面している。中国が安い製品を作り、米国がそれを買うという幸せな時代が終わることを、両国は恐れている。
特に、多くの人が懸念するのは、この変化の末に米中が正面からぶつかり合うのではないか、ということだ。もし、そうなれば、勝者はどちらか一方でしかない。
不安は理解できる。しかしその不安は、前提が間違っている。世界の現実は構造的に進展し続けている。中国の成長と規模を米国と比べてみるといい。急速な技術の進化は製造プロセスを自動化し、雇用を製造業から他の産業へ移した。発展途上国の所得拡大で、世界のサプライチェーンも進化した。
このような現実を踏まえたうえで新たな関係を築いていけば、米中両国がともに利益を得ることができる。また、そうしていかなければならない。
世界の「工場」から世界の「市場」へ
両国にとって、古いモデルは30年間、有効に機能してきた。中国の成長は、労働集約的な輸出産業が支えてきた。輸出産業の競争力は、米国や欧州諸国から技術と知識を得ることで一層高まった。一方、中国は官民ともに巨額の投資を続けてきた。高い貯蓄率のおかげだ――このところ高すぎるが。輸出主導の成長と投資が相まって、多くの中国人の所得が拡大した。
対する米国の消費者も、中国製品の輸入がもたらす製品価格の下落で大きな恩恵を得た。これは同時に、米国の労働者をより付加価値の高いビジネスにシフトさせた。結果として米国民の所得も増大した。
多国籍企業が利用する世界的サプライチェーンは、効率性と複雑さを増してきた。その形は、比較優位の概念に沿って、変化してきたのかもしれない。世界のサプライチェーンは、全体に東から西へと流れた。途上国が生産する低価格品を、欧米が求めていたからだ。
しかしこのモデルはあらゆる面で変わり始めている。米中両国にとっての利点は、コストではなく、成長へと移りつつある。サプライチェーンは双方向に流れるようになった。中国市場における需要は、ただ拡大するだけでなく、所得の増大に伴って、質の高いモノやサービスを求めるようになった。