「Project syndicate」

米中新時代を築く時

米国は中国の市場を、中国は米国の技術を必要とする

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2012年5月9日(水)

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マイケル・スペンス氏は情報と市場の関係に関する研究でノーベル経済学賞を受賞。米ニューヨーク大学スターン経営大学院教授、米スタンフォード大学フーバー研究所シニアフェローなどを務める。

 中国と米国は大きな構造的変化に直面している。中国が安い製品を作り、米国がそれを買うという幸せな時代が終わることを、両国は恐れている。

 特に、多くの人が懸念するのは、この変化の末に米中が正面からぶつかり合うのではないか、ということだ。もし、そうなれば、勝者はどちらか一方でしかない。

 不安は理解できる。しかしその不安は、前提が間違っている。世界の現実は構造的に進展し続けている。中国の成長と規模を米国と比べてみるといい。急速な技術の進化は製造プロセスを自動化し、雇用を製造業から他の産業へ移した。発展途上国の所得拡大で、世界のサプライチェーンも進化した。

 このような現実を踏まえたうえで新たな関係を築いていけば、米中両国がともに利益を得ることができる。また、そうしていかなければならない。

世界の「工場」から世界の「市場」へ

 両国にとって、古いモデルは30年間、有効に機能してきた。中国の成長は、労働集約的な輸出産業が支えてきた。輸出産業の競争力は、米国や欧州諸国から技術と知識を得ることで一層高まった。一方、中国は官民ともに巨額の投資を続けてきた。高い貯蓄率のおかげだ――このところ高すぎるが。輸出主導の成長と投資が相まって、多くの中国人の所得が拡大した。

 対する米国の消費者も、中国製品の輸入がもたらす製品価格の下落で大きな恩恵を得た。これは同時に、米国の労働者をより付加価値の高いビジネスにシフトさせた。結果として米国民の所得も増大した。

 多国籍企業が利用する世界的サプライチェーンは、効率性と複雑さを増してきた。その形は、比較優位の概念に沿って、変化してきたのかもしれない。世界のサプライチェーンは、全体に東から西へと流れた。途上国が生産する低価格品を、欧米が求めていたからだ。

 しかしこのモデルはあらゆる面で変わり始めている。米中両国にとっての利点は、コストではなく、成長へと移りつつある。サプライチェーンは双方向に流れるようになった。中国市場における需要は、ただ拡大するだけでなく、所得の増大に伴って、質の高いモノやサービスを求めるようになった。


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著者プロフィール

マイケル・スペンス氏

情報と市場の関係に関する研究でノーベル経済学賞を受賞。米ニューヨーク大学スターン経営大学院教授、米スタンフォード大学フーバー研究所シニアフェローなどを務める。



このコラムについて

Project syndicate

世界の新聞に論評を配信しているProject Syndicationの翻訳記事をお送りする。Project Syndicationは、ジョージ・ソロス、バリー・アイケングリーン、ノリエリ・ルービニ、ブラッドフォード・デロング、ロバート・スキデルスキーなど、著名な研究者、コラムニストによる論評を、加盟社に配信している。日経ビジネス編集部が、これらのコラムの中から価値あるものを厳選し、翻訳する。

Project Syndicationは90年代に、中欧・東欧圏のメディアを支援するプロジェクトとして始まった。これらの国々の民主化を支援する最上の方法の1つは、周辺の国々で進歩がどのように進んできたか、に関する情報を提供することだと考えた。そし て、鉄のカーテンの両側の国のメディアが互いに交流することが重要だと結論づけた。

Project Syndicationは最初に配信したコラムで、当時最もホットだった「ロシアと西欧の関係」を取り上げた。そして、ロシアとNATO加盟国が対話の場 を持つことを提案した。

その後、Project Syndicationは西欧、アフリカ、アジアに展開。現在、論評を配信するシンジケートとしては世界最大規模になっている。

先進国の加盟社からの財政援助により、途上国の加盟社には無料もしくは低い料金で論評を配信している。

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