28日から実写映画が公開されるヒットマンガ「テルマエ・ロマエ」の作者ヤマザキマリが、初のエッセー「望遠ニッポン見聞録」(幻冬舎)を出版した。世界各地で暮らした体験が軽妙につづられ、古代ローマと日本の風呂を結びつけた「テルマエ」の奇抜な発想の源泉が垣間見える。
ヤマザキは17歳で、油絵を学ぶためにイタリアに渡った。14歳で欧州を一人旅した時に出会ったイタリア人の「マルコじいさん」に誘われたのが縁だった。
美術学校に通ううちに詩人と恋に落ち、10年にわたる同棲(どう・せい)を始める。待っていたのは、電気水道もたびたび止まる極貧生活。一方、当時、日本はバブル。観光客やブランド品の買い付け業者など、幸せそうな日本人が大挙してやってきた。すかんぴんの身で眺めていると、「心地よさと拒絶が一体化した」と振り返る。
妊娠して、このままではダメだと、詩人と別れ、手に職をつけようとマンガを描き始める。いったん日本に帰ったが、数年すると、また海外生活が始まる。
旅行でイタリアを訪れ、マルコじいさんの孫と意気投合し、結婚したのだ。研究者の夫の仕事に合わせ、息子も一緒に、シリア、ポルトガルを経て、今は米国のシカゴに暮らす。
エッセーでも、シリアの女性下着事情、早朝からジム通いする米国の老人など、各国の風俗が活写される。でも、最も書きたかったのは、異国暮らしだからこそ分かった、「悪いも、良いもひっくるめた日本人の面白さ」だ。
「テルマエ」は、そんな海外生活のたまもの、と言えよう。古代ローマおたくの夫から知識をもらい、情け深いポルトガルのお年寄りに、古き良き日本が重なり合った。何よりも、「お風呂に入れないので、絵を描いて疑似体験しているんです」。(宮本茂頼)