「陸援隊」の針生裕美秀社長の記者会見では、逮捕された運転手、河野化山容疑者とのいびつな雇用関係などが次々と明らかになった。群馬県警のこれまでの捜査と針生社長の説明が食い違っている点もみられ、新たな疑問も浮かんだ。
「河野(容疑者)が集金した客の代金を当社に入れてもらっていたのは事実だ」。針生社長は、河野容疑者が「河野交通」の屋号で中国人観光客向けのツアーを企画し、経費を差し引いたツアー料金を受け取っていたと明かした。河野容疑者は自ら所有するバスを運転し、運行収入を独自に得ていた。
ただ、「河野交通」に会社としての実態はなく、河野容疑者は日給1万円を受け取る非正規雇用の運転手として陸援隊に所属していた。実態は道路運送法が禁じた「名義貸し」の可能性が高い。針生社長は「日雇いではない」「名義料はもらっていない」と否定するが、売り上げの取り分など依然として不明点は多い。
県警の調べに対して、河野容疑者は「夜(の運転)は陸援隊に入ってから。不安だった」と供述している。
だが、針生社長は会見で「夜間に長距離トラック、バスの運転経験があると聞いていた。千葉−大阪間を運転したこともある」と、河野容疑者の運転経験に問題はなかったとの認識を示しており、両者の証言は割れている。
河野容疑者は、仮眠のため石川県白山市のホテルに滞在していた8時間半を全て仮眠時間に充てず、自分のバスの修理手配をしていたことも県警の捜査で判明。自ら所有するバスの修理に気をかけるあまり、十分な睡眠時間が取れず疲労を蓄積した可能性がある。針生社長が、こうした“副業”の勤務実態をどこまで把握できていたか疑問だ。
一方、県警の取り調べは中国語の通訳を介して行われており、捜査幹部は日本語能力に疑問を呈すが、針生社長は「もう日本に住んで長いので不自由することはない」と強調した。
会見では同社がツアーの詳細な運行計画を把握しないままバスを運行させていたことも明らかになった。
通常、旅行会社から発着場所や時間を記した「配車指示書」を事前に受け取ることになっていたが、針生社長は受注を仲介した千葉県内のバス会社からファクスが届かず、道路運送法規則で作成を義務づけられた「運行指示書」を作らずにバスを運行させていたとしている。