記者の目:軽微な罪重ねる「累犯者」問題=長野宏美
毎日新聞 2012年05月08日 00時55分
軽微な罪を重ね、社会と刑務所を行き来する「累犯者」の現状を知ろうと2年前から取材を始めた。彼らの中には知的障害や高齢などの事情を抱えている人が少なくなかった。悪循環をどうすればいいのか。司法と福祉が連携を深め、小さくてもいい、社会の居場所を一つ一つ作っていくしかないと思っている。
◇司法と福祉連携し居場所作れ
取材のきっかけは、09年に始まった裁判員制度。社会部の記者として各地の裁判を傍聴する中で、市民の裁判員が被告の更生(立ち直り)を願う場面を多く目にし、「裁かれた後」を追跡する必要があると感じた。知的障害者や高齢者の犯罪は「特殊な世界」と漠然と考えていたが、42.7%に達している再犯者率(10年の法務省調べ)を下げるには、彼らの存在を無視することはできないと知った。住む場所や定職もなく、万引きや無銭飲食に手を染める。犯罪を契機に福祉とのつながりも切れている人が多い。
服役中に記者と文通を始めた元塗装工の男性(67)は車上荒らしで5回服役。出所後すぐに路上生活になり、わずか1カ月後に刑務所に戻るつもりで盗みを働いた。「生活保護を考えたことは?」。接見した弁護士が尋ねると「漢字が苦手で書類を書くのは大変だから」と答えた。生きるには生活保護受給より窃盗の方がハードルが低かった。