目覚めは最悪だった…… まったく思い出せないが、かなり悪い夢を見たらしい。 気持ち悪いくらい全身がべったりと嫌な汗をかき、パジャマはもちろん布団も湿り気を帯びている。 真夏だってこうはならないのに。 シーツ、替えなくちゃ…… のそのそと起きだして脱衣所へ向かい、汗臭くなったパジャマを脱いで熱めのシャワーを浴びる。 「んっ!」 ヒリつく熱さを伴った水滴が肌を叩く。 身体の細胞一つ一つが開いて、嫌な気持ちを洗い流してくれるような気がした。 あの日でもないのにこんなに嫌な気分になることなんて、滅多にない。 こんな気持ちのまま英理に会うわけには、いかないな。 お気に入りのボディソープで念入りに身体を洗ってシャワールームを出て、冷蔵庫から缶のアクエリアヌを取り出して一息に飲みほした。 冷たい液体が全身を巡って火照った身体を心地よく冷やしていく。 カーテンを開けて朝の光を浴びて、ようやく嫌な気分を振り払うことができた。 学校へ行こう。 駅まで行けば、今日も英理が待っている。 私の、大切な恋人の英理が。 「里彩〜」 駅の改札には既に里彩が来ていて、はじけるような笑顔を私に向けた。 まぶしい…… 彼女の笑顔を見て最初に浮かんだ感想がそれだった。 子犬のような屈託のない笑顔からは、嬉しいという感情以外読み取れない。 きっと私に会うのが待ち遠しくて、いつもより早い時間からここにいたのだろう。 待ちきれない様子で私のもとに駆け寄ってきて、キラキラした瞳で見つめて、この娘はなんて可愛いんだろう。 「おはよう英理!今日も可愛いぞー!」 そばまで来た英理をぎゅっと抱きしめた。 「きゃっ!も〜里彩〜」 仲のいい女の子同士はよくくっついたり抱き合ったりしている。 私の学校でもよく見る光景だ。 「えへへ。おはよう、英理」 「うん、おはよう里彩」 何気なくかわされる朝の挨拶。 昨日まで当たり前のように行われていた日常の行為一つがこんなにも愛おしい。 恋の力って偉大だなって、つくづく思ってしまった。 恋の力って偉大だなって、つくづく思ってしまった。 正確には両想いの力、かな。 朝から私の頬は緩みっぱなしで、少し困ってしまった。 しょっちゅう遅れることで有名な路線も、鮨詰め状態の満員電車も、階段の多い乗り換えも、英理と一緒だとまるで苦にならない。 電車を待っている間は二人の時間が増えて嬉しいし、ぎゅうぎゅうの車内ではわざと抱き合うようにして公然といちゃつけるし、乗り換える時の移動はずっと手をつないで歩いて…… 私たち、両想いになれたんだなぁって、幸せをかみしめていられて、何もかもが輝いて見える。 新浜共立女学園は偏差値が高いことのほかに制服が可愛いことでも有名だ。 今の季節だと、オフホワイトのボタンダウンシャツにニットのベストを重ね、淡いベージュのスカートを合わせたスタイルが基本になるけど、シャツはオフホワイト・ピンク・水色と三種類あり、ベストもオフホワイトとグレーの二色がある。 冬なるとジャケットを着るほか下もスカートとスラックスの好きな方を選ぶことができる。 実のところ英理はあまりスカートが好きではないらしく、スカートが基本なこの季節でもスラックスを穿いている。 この学校は授業こそ厳しいが服装に関してはあまりうるさいことは言われない。アクセサリーなんかに対する規制も比較的ゆるく、おしゃれに寛容なところが受験生からはポイントが高い。 私も英理にはスカートよりもパンツスタイルのほうが似合っていると思っている。 エンジのジャケットを羽織って背筋を伸ばして立つと、まるでどこかの王子様のように英理はカッコよくなる。 これで胸元にリボンかネクタイでもつければ完璧なんだけどな。 でもってそのネクタイを私がつけてあげたり、「英理、タイが曲がってるよ」って直してあげたり、ベッドの上で外して……手首を軽く縛って…… 「里彩、どうしたの?ニヤニヤして」 英理に話しかけられてハッとする。気が付くと学校は目の前で、同じ制服を着た女の子たちが次々と校門をくぐっていくのが見える。 シャツとベストの色に違いはあるけれど、基本的に同じ制服の女の子が何十人と目に入る中、やっぱり英理が一番かわいくてかっこいいなって思ってしまった。 英理はもちろん可愛い女の子だけど、同時にボーイッシュなカッコよさも併せ持っている。本人もそれは自覚しているようで、女の子女の子した可愛いチュニックやスカートよりも、黒や白の襟付きのブラウスや細身のデニムを着ることが多かった。 一方私は完全に真逆で、かわいいものが大好きで、英理とは対照的なファッションになることが多かった。 時々お互いの着ているものを交換して、まったく方向性の違うファッションを楽しんだりもしていた。 そんなとき私は英理が着ていた服についた彼女の匂いにクラクラして、ファッションを楽しむどころじゃなかったんだ。 「里彩!」 「……っ!」 「もう、またボーっとして」 「ごめん……」 「私といるの、退屈かな……?」 英理が一瞬見せた寂しそうな不安そうな表情に、私はたまらない気持ちになって、「もう!そんなわけないじゃん!」って、思わず抱きついた。 「わっ!もう、みんな見てるよ」 「仲いいね〜お二人さん」 話しかけられて振り向くと、背の低い女生徒と背の高い女生徒が私たちを生暖かい目で見ていた。 「上月先輩、おはようございます」 英理が背の低い方の女生徒に話しかけた。 「この間は本、ありがとうございました」 「どういたしまして。あんなのでよかったら、いつでも言ってね。それよりお二人さん、輝かしき青春を化学部で過ごす気は……あいたっ!」 「もう、誰彼かまわず勧誘するのはやめなさいって、言ったでしょ」 背の高い女生徒が上月先輩の頭に手刀を振り下ろした。初めて話す人だけど…… 「ごめんねー二人とも……って、あなた…………」 申し訳なさそうな表情で私たちに向けた視線が、英理を見て固まった。 「ねえ、あなた……もしかして……」 「英理の顔になにかついてますか?」 たぶん先輩であろう女生徒と英理の間に少し強引に割り込んだ。 「あ、ううん。そうじゃないんだけど……」 「二人は会うの初めてだっけ?私の幼馴染の、湯上谷千紗だよ。千紗、こっちは高峰英理ちゃんと羽角里彩ちゃん。明日の化学部の後輩だよ〜」 「羽角さんと、高峰さん……ね……」 上月先輩の聞き捨てならない発言に突っ込みをいれることもなく、湯上谷先輩は怪訝そうな表情で英理を見ている。 「英理、行こっ。チャイム鳴っちゃう」 「あ、ちょっと!……すみません先輩、また今度」 キョトンといている英理の手を引いて、私たちは校門をくぐった。 私の英理をあんなにじろじろ見つめて……あの湯上谷先輩って人、私あんまり好きじゃないかも! 「………………」 「千紗?どうしたのそんなに怖い顔して」 「……ねぇ、未来ちゃん。あの高嶺さんって娘に本を貸したって、言ってたよね」 「うん。言ったけど」 「その本って……もしかして……」 「ふぃふぁぁさぁ」 「口の中のものなくなってから喋りなよ」 昼休み、屋上で私たちは二人っきりで昼食を摂っていた。 基本的に屋上は立ち入り禁止になってはいるけど、私たちは先生の目を盗んでお弁当を食べたり、お菓子を食べながらだべりに来ていた。 ここならほとんど人は来ないから、英理と二人っきりになれるし、晴れてる日は気持ちいいしで、私にとってお気に入りの場所だった。 「んんっ。里彩はさ、あの湯上谷先輩のこと、嫌い?」 「ん〜嫌いってわけじゃないんだけど……」 「私も初めて会ったけど、そんなに悪い人には見えなかったけどなぁ」 「だって英理のこと、なんか見てたし……」 「……もしかして、焼きもち?」 頬がかぁっと熱くなっていくのを感じる。 「焼きもちなんかじゃ!……だって、普通初対面の人をじろじろ見たりしないでしょ?」 「ん〜まぁ、そうだけどさぁ」 英理は少し考えた後、何かを思いついたように、 「湯上谷先輩って、上月先輩と付き合ってるんじゃない?」 「んぐっ!」 おにぎりがのどに詰まった。 胸を叩いていると英理が慌ててお茶の入ったペットボトルを渡してくれる。 「んくっ、んくっ……ぷはっ」 「そんなに驚くことかなぁ」 「だって!あの二人の何を見たらそんな……」 「仲良さそうだった。あとは女の勘」 「それだけ?!」 「それだけ」 「そんな曖昧な……んっ!」 私の口は言葉を発する前に英理の唇でふさがれた。 「ん……っ、もう」 「大丈夫だよ、私が好きなのは里彩だけだから」 「だから……焼きもちじゃ……」 「違うの?」 違う……と言いたかったのだけど、今度は私をじっと見つめる英理の瞳に言葉をふさがれた。 「私が好きなのは里彩だけだよ」 大事なことだから、そう言って英理の瞳が閉じられ、柔らかそうな唇が再び私の唇と重なる。 「ん……」 お互いのぬくもりを確かめ合う、軽いキス。 「キス……好き?」 「……うん」 キスの余韻で英理の目はトロンとして、かすかに頬が赤く染まっている。 今なら簡単に落とせるかな。 「英理、私の目を見て……」 英理のあごを人差し指で軽く持ち上げて優しく囁く。 「じっと見つめて」 「ぁ…………」 「だんだん頭の中がぼんやりしてくる……考えることがおっくうになってくる……」 英理の瞳から意志の光が消えて、うつろな表情になっていく。 一度深くかけたせいか、ずいぶん簡単にかけることができた。 「英理は深〜い深〜い催眠状態になっちゃった。とっても気持ちいい……自分からどんどん沈んでいっちゃう」 「はい……気持ち……いい」 トロンとした表情でぽそぽそと話す英理に、私は背筋がぞくぞくするような興奮を感じた。 ああ……可愛い…… 普段あんなにかっこいい英理が、今は私の言いなりになってるなんて……このまま押し倒してしまいたいっ! でも、学校でコトに及ぶのはちょっと……それにできれば初めては私か英理の部屋がいいし、今はキスまでで…… そこまで考えて、昨日キスしたときの英理の様子を思い出した。 ……替えなんて、もってきてないよね。 「英理、パンツを脱いで」 私が命令すると、英理はぼんやりした表情のまま緩慢な動きでスラックスを下し、ピンクのかわいらしいパンツを脱いだ。 その際見えてしまう女の子の部分は今は精神衛生上よろしくないので、どうにか視線を逸らした。 「英理はオナニーはしたこと、ある?」 英理はコクンと頷いた。 ああ、押し倒したい…… 「じゃあアソコの感覚は知ってるよね」 そっと英理の唇に指を這わせながら次の暗示を与える。 「英理、あなたのおクチはアソコと同じ感覚になるよ」 「アソコと……同じ……?」 「そう。いい?」 人差し指で英理の唇をなぞりながら、 「唇が大陰唇、おクチの中が小陰唇、舌がクリトリスになるの。ただし、私が触った時だけね」 「里彩が触った時だけ……はい……」 「うん。じゃあ、だんだん意識がはっきりしてくるよ。すっきりと目覚めることができる……」 目の前で手を振ると、だんだん英理の瞳に光が戻ってくる。 「さぁ。目を覚まして」 パチンと指を鳴らすと、英理はハッとしたような表情になった。 「あれ……私?」 不思議そうに瞬きをする英理の頬に手を添えて、 「英理……」 人差し指を彼女の唇に当てた。 「んっ……」 ピクンと体が震え、頬が赤く染まる。 「んっ……んんっ」 円を描くように唇に指を這わせると、切なそうな声と熱い吐息が漏れて私の指をくすぐった。 人差し指と親指で唇を軽く摘んであげるとピクピクと身体が震えて、その様子がかわいらしくて、つい何度も摘んでしまう。 「英理、おクチを開けて」 私に言われて、英理は少しだけ唇を開いた。 その中にゆっくりと人差し指を入れると、途端に全身がこわばり、緊張しているのが伝わってきた。 「ふ……ふぅん……」 英理のクチの中はあったかかくてやわらかくて私の指先を大いに楽しませた。 口内をかき混ぜるように舌と頬の内側を弄ると、英理は顔を真っ赤にしながら「ぁぅぁぅ」と喘ぎながらも気持ちよさそうな声を上げた。 そのうち私が動かさなくても、英理の方から私の指に舌を這わせてちゅぱちゅぱと音を立てながらおしゃぶりするようになった。 口の周りを唾液でベトベトにして、一心不乱に私の指を求める英理の姿は何とも淫靡な光景だった。 また、指をなめるという行為がフェラチオを連想させて、一層私を興奮させた。 たまらなくなった私はそっと指を引き抜き、英理の唾液でふやけたそれを口に含んだ。 英理が食べていたお弁当のハンバーグの味がして、なんだか嬉しくなった。 同時に本人を味わいたくなって、物欲しそうな顔で私を見つめる英理の唇に自分の唇を押し当てた。 「んっ!んんっ」 しがみついてくる英理の身体を支えながら舌先で唇を割り込んで口内に侵入し、彼女の舌をとらえた。 「んんっ!んん〜っ!」 英理の舌はあたたかくて不思議に柔らかくて、そこだけ別の生き物みたいにうごめいて、その官能的な感触はそれだけで気持ち良かった。 私でもこれだけ気持ちいいのだから、クリトリスの感覚を与えられた英理の快感は相当なものなのだろう。 さっきから力いっぱい私にしがみついて、盛りのついた獣みたいに私を求めてくれる。 いいんだよ英理……欲しいものは何でもあげるから……永遠の幸せを約束するから……あなたはただ、私だけを好きでいて…… 「んんん―――――っ!!!」 不意に英理は大きな声を上げて身体を痙攣させると、私にもたれるように倒れこんだ。 「はぁ……はぁっ……はぁっ…………」 イッたんだ…… 全力疾走したあとみたいに息を乱す英理を見て、私は何とも言えない幸福感に包まれた。 下の方に目をやると、ほとんど生えてない英理の割れ目はぐっしょりと濡れて、太腿まで愛液が垂れていた。 「脱いどいてよかったね」 私がからかうと、英理の頬がかぁ〜っと赤くなった。 「ティッシュあるよ。拭いたげようか?」 「……自分で拭く」 拗ねたような声で応えると私からポケットティッシュを受け取って、股間の名残を吹き始めた。 「あの……あんまり見ないでほしいんだけど……」 「ヤダ」 まぁ事後の処理なんてあんまり見られたくないよね。 何となく気恥ずかしいもん。 でも、だからこそ見たいんだ。この気持ち、わかってほしいなぁ。 「もう、知らないっ」 プイッとそっぽをむきながら、結局ポケットティッシュを一個使い切って後始末をして、脱いだパンツとスラックスを穿いて服の乱れを直すところまでじっくり観察し終わったところで予鈴が鳴った。 慌ててお弁当箱を片付けて階段を下りるとき、顔を真っ赤にした英理が消え入りそうな声で私に言った。 「ねぇ、里彩……今日、家言っても……いい?」 「お邪魔……します……」 私の部屋の前に立った時の英理の様子は、数え切れないほど何度も来ているとは思えないくらい緊張していた。 「……どうぞ」 かく言う私も彼女のことは言えないくらいドキドキしていて、なんとなく声が震えているのが自分でもわかった。 昨日こんな事もあろうかと部屋は掃除しておいたし、変なところはないはずだけど、世の中のカップルはみんなこんな思いをしながら“初めて”を経験していくのだろうか。 鞄を置いていつものように部屋の真ん中に置いてあるテーブルを英理と囲む。 普段なら学校のことや昨日のテレビのことを話しながら課題をやるために教科書やノートを出すところだけど、今日に限って二人とも無言で鞄を開けることもない。 …………気まずい。 「あ!の……飲み物、とってくるね!」 「う……うん!」 気まずい空気に居た堪れなくなって、私は慌てて部屋を出てリビングに向かった。 ああ〜もう!なんなのよぉ〜 顔が火照ってたまらない。 こうなることがわかってて昼休みの行為に及んだわけだし、その覚悟もしてたはずなのに、いざその時がきてみるとなんという及び腰!情けないったらありゃしない。 とりあえず昨日買った『GOO』の新商品と、『おさつスナック』をトレーに乗せて部屋へと戻った。 「おまた〜……せ?」 ドアを開けて目に入った光景に、私の体は凍りついた。 英理は私が部屋を出る前のようにテーブルのそばにいなくて、ベッドに腰かけて私を待っていた。 「お……おかえ……り」 顔を真っ赤にして絞り出すように言うと、そのままうつむいてしまった。 そうなると私も応えないわけにはいかない。 持ってきたトレーをテーブルに置くと、英理の隣に座った。 片手で英理の肩を抱くとビクッと身体を震わせた。私の方を見ようともしない。 英理の身体は緊張でガチガチにこわばっていて、その唇は微かに震えていた。 なんとか英理の緊張をほぐさないと……そうだ! 私は立ち上がると、部屋の隅にある電子ピアノの楽譜置き場からメトロノームを取り出した。 それをベッドのスタンド置き場に置いて、リズムテンポを一番遅く設定した。 「英理、これを見て」 留め具をはずすとカチッ……カチッと規則的に音を刻みながら振り子が左右に揺れる。 「よ〜く見て……じーっと見つめて」 「う……ん」 「力を抜いてリラックスして……メトロノームの音と呼吸を合わせて」 最初ぎこちなかったのが、だんだんと身体から力が抜けてきて、呼吸もゆっくりになっていく。 「そう……いい子ね……」 優しく背中をさすってあげると、英理はますますリラックスしたようになっていく。 瞳は振り子の動きを追って右、左、右、左と規則的に動いている。 「振り子の音が心に沁みこんでくる……少しずつ心が深〜いところに沈んでいく……」 英理の表情がぼんやりしたものに変わり、自分の意志で、というよりは惰性で振り子の動きを追うようになっていく。 「頭の中がぼーっとしてくる……身体が楽〜になっていく……考えることがめんどくさい……振り子に身をゆだねて……そう、それでいいんだよ……なんにも怖くない」 すっかりトランス状態になった英理はまるでお人形さんのようにうつろな表情で振り子を見つめていた。ただ機械的に振り子を揺らして音を出すだけのメトロノームに魅入られてお人形さんになってしまう恋人に、なんだかとても背徳的な興奮を感じてしまう。 「ほぅら、英理は催眠術にかかっちゃった。この音が聞こえている限り、催眠術はとけない。英理はずっと夢の中……でも、この音が聞こえなくなると、英理の催眠はとけて正気に戻ります。いい?」 「…………はい」 ぞくっとした。 ただ英理が返事をするだけで、私は息が荒くなるのを抑えられない。 「英理、ここはあなたの恋人の里彩の部屋です。ですが、この部屋にはあなたしかいません」 「私しか……いない……」 「しかも恋人のベッドに座っています」 「里彩の……ベッド……」 「想像してください。いつもあなたの恋人がパジャマを着て、眠って、恋人の匂いと寝汗がしみ込んだ布団に座っています」 「里彩の……汗……はぁ……はぁ……」 たちまち頬が赤く染まり息が荒くなる。 昼休みの行為でできた流れが英理の理性を溶かしていく。 あとはもう溺れるだけだ。 「布団の匂いをかいでみようか」 「うん……はぁっ」 英理は掛布団を手繰り寄せるとそのまま自分の顔を埋めて、すぅすぅと匂いをかいだ。 「どう?どんな感じ?」 「里彩の……匂い……はぁ……ぁぁ……」 英理の顔は真っ赤に染まり、瞳は欲情でうるんでいる。もうひと押しだ。 「エッチな気分になってきたでしょう?そのままオナニーしちゃいましょう」 「オナニー……でも……」 さすがに人の部屋で自慰行為をするのは気が引けるのか逡巡してしまう。 「大丈夫。里彩は戻ってこないよ。ここは英理ひとりしかいません」 「戻って……こない……私、ひとり……」 「ほ〜ら、我慢できない……したくなる……したくなる……」 「はぁ……ん……」 少し背中を押してやるとすぐに欲望を抑えられなくなったらしく、英理はベルトをはずし、スラックスに手を入れて股間をいじり始めた。 「はぁ……はぁ……あっ…………んっ」 股間からはくちゅくちゅといやらしい音が聞こえ、相当興奮しているのがわかる。 「里彩……あっ……里彩ぁ……」 私の名前を呼びながら私の部屋で私の布団の匂いをかぎながらオナニーする英理……たまらない! 「『好き』っていいながらスルと、もっと気持ちよくなれるよ」 「はぁん……好き……里彩、大好きぃ」 股間のうごめきがだんだん激しくなる。 「どこを触ってるの?言ってごらん」 「ふぁ……おまんこに、指……入れて……かき回して……」 「英理はクリよりもナカがいいの?」 「クリも好きぃ……ああっ……でも……ナカ……くちゅくちゅってぇ……んあっ!」 そっかぁ、ナカの方がいいかぁ。参考にさせてもらおう。 「はぁっ……ああっ……気持ちぃ……ああっ……好きぃ……里彩ぁ、好きだよぉ…………」 「私の名前と『好き』って言うごとに気持ちよさがワンランク上がるよ」 「ああっ!里彩、好きっ、好きぃ!」 腰を前後に振りながらすっかり理性を失った様子で英理はひたすら快楽を貪っていく。 「そろそろイキそう?いいよ、イっても」 「ああん!好きっ!好きぃ……里彩、好きっ!里彩っ、里彩っ、好きだよぉ〜里彩っ里彩ぁ〜好き好きすきぃ!里彩ぁ〜、里彩ぁ〜!大好き!大好きっ――――――――――――――っ!!!!!」 「英理…………嬉しい」 「っ!!!!っは!…………はぁっ…………はぁっ…………はぁ〜」 英理の身体が硬直したかと思うと、急激に力が抜けてうつろな瞳で荒い呼吸を繰り返している。 私の存在が、英理を気持ちよくしたんだ。 「はぁ…………はぁ…………里彩……大好き」 うっとりとした表情で絶頂の余韻に浸る英理を少しいじめたくなった。 律儀にリズムを刻み続けるメトロノームを持ち上げ、振り子を止めて留め具を付けた。 「えっ……?!」 途端にカチカチという音が消え、英理を催眠の世界に引き留めていた要素が消える。つまり…… 「や……いやあぁぁぁっ!!!」 英理の催眠がとけて、自覚する。 恋人の部屋で、恋人の布団の匂いをかぎながらオナニーをするという変態的行為を、実は恋人の目の前でしていたということを。 「くすくす、すごかったね〜英理」 「やだやだやだ!!見ないで……見ないでぇ」 「見ないで、って言われてもね〜もう事後だし」 「やっ!!やだ……やだよぉ〜」 羞恥心で慌てる英理には、いつものキリっとした王子様のようなカッコよさは微塵もない。 だけどそれが普段とのギャップを感じさせて、一層私の性欲を刺激した。 「ごめんなさい……里彩、ごめんね……私、こんな……嫌いにならないで……お願い……」 半ば混乱しながらも私に嫌われたくない一心で許しを懇願する英理の姿に、私の我慢も限界を迎えた。 「いいんだよ、英理……」 そっと英理を抱きしめながら、優しく耳もとで囁く。 「嬉しいな、英理が私のことを想いながらこんなに気持ちよくなってくれるなんて」 「やあっ……言わないでぇ」 英理は頬を染めてイヤイヤするように目を逸らすと、私の胸元に顔を埋めてしまった。 だけど私はそっと身体を離して両手で頬を挟むようにして目線を合わせた。 そのまま泣き顔に近い英理の唇にキスをした。 「んっ!」 英理の身体に力が入るけど構わずに口内に舌を侵入させ、彼女のそれと絡ませる。 「んんっ……んむぅ〜」 たちまち力が抜け、私のなすがままに舌を弄ばれる英理。 可愛いなぁもう。 「んちゅ……んんっ……」 存分に彼女の口内を味わい尽くして唇を離すと、二人の唇に名残を惜しむように銀色の糸が架かった。 そのまま見つめあってキスの余韻を楽しんでると、 ブ―――――ッ ブ―――――ッ 英理の携帯電話が鳴った。 マナーモードにしてあるらしくあまり気にはならないが、 「英理……電話……鳴ってる……」 一応言ってみた。水を注されることこの上ない。 でも英理の言葉は、さらに私を喜ばせた。 「いいじゃん。放っとこう」 「………………」 「出ない?」 「…………うん」 「千紗は心配のしすぎだよ」 「そうだけどいいけど……あの二人、仲良さそうだったから。私だって、未来ちゃんのこと……」 「あ、あ〜ね〜」 「もし、高峰さんが、催眠にかかってるとしたら……」 「どうするの?」 「………………」 「英理の身体、キレイ……」 お互いに着ているものを脱ぎ捨てて、ベッドの上で向い合せになる。 スレンダーで胸はあんまり大きくないけど(本人結構気にしてる)無駄なお肉のついてないスタイル、スラリと伸びた足は普段はスラックスに隠れてあまりお目にかかれないけど、今は惜しげもなく私の視線にさらされている。そしてその付け根にある女の子の割れ目は先ほどのオナニーで桜色に染まって蜜で潤っていた。そしてこれだけ大人っぽい身体なのに、その部分はほとんど毛が生えていない。そのアンバランスな取り合わせがまた魅力的だ。 「あんまり……見ないで……」 そう言って恥ずかしがりながらも、胸も股間も隠さずにさらけ出してくれることが嬉しい。 「無理だよ……こんなにキレイな身体を見るな、なんて……絶対無理……」 「ぅぅ……だから、あん!」 花の蜜に吸い寄せられる蝶のように、英理の胸のピンクの突起に口づけた。 「やっ……ちょっとぉ」 「えへへ、もう固くなってる。オナニーしてたからかな?」 「やぁっ!」 英理はプイッと横を向いてしまうが、自らの行為で発情してしまった身体は私が与える快感を拒めない。 空いてる方の乳首を指ではじくと、そこは既に勃起していて官能的な弾力を感じさせた。 「ぁぁ……ぁん」 私に聞かれているせいか喘ぎ声が控えめになる。 そのうち我慢できなくしてあげるからね。 「敏感だね」 「やん……そんな、ぁ……吸っちゃだめぇ」 「さっきは触ってなかったけど、自分でするときって、胸触る?」 「そんな……」 「答えて」 少し強めに摘んであげると、英理の身体がピクンと跳ねた。 「あうっ!触る……触るよぉ」 「へぇ〜じゃあさっきは寂しかったんじゃない?全然触ってもらえなくて。英理のおっぱい可愛そー」 乳首を転がしながらマッサージするように乳房を揉んであげると、英理はうっとりとした表情を浮かべた。 「こういうのはどう?」 四本の指で乳首を摘むようにして、乳輪をくすぐるように愛撫してやると、英理はたまらなさそうな声をあげた。 「ぁあっ!……それ、いいっ」 両方のおっぱいを同じようにしてやると、英理は身をよじって快感に耐えている。 目線を下にやると、いつの間にか英理の足は軽く開かれていて、割れ目の奥の秘密の場所が見えていた。 ピンク色の秘所は愛液でテラテラと光り、ヒクヒクと切なそうに動いて、まるで私を誘っているように見える。 「里彩ぁ〜」 英理の私を呼ぶ声で、私が英理のアソコに見とれていたことに気付いた。 もしもあのまま催眠誘導されていたら、あっさりと堕ちていただろう。 英理のアソコを見ながら催眠に……いいかもしれない。 英理の顔を見ると、もうたまらないといった表情で私を見つめて、 「ねぇ……お願い……最後まで……」 なんて可愛いことを懇願してきた。 もちろん私も途中下車なんてするつもりはない。 身体を離して英理の片足を持ち上げると太腿の間に自らの足を入れ込み、女の子の部分を重ね合わせる。 「あっ!なに……これ……」 英理が戸惑ったような声をあげる。 「わかる?どんなふうになってるか」 愛液でべっとりのアソコとアソコが重なり合い、腰を動かすとくちゅっ、くちゅっと粘着質な音がする。 「やぁっ!恥ずかしい」 英理は頬に手を当てて目を逸らしてしまう。 「ダメだよ目を逸らしちゃ。ほら、よく見て。私のおまんこと英理のおまんこがキスしてるよ」 「ぅ……ぁぁ」 顔を真っ赤にして恐る恐るといった感じで下半身に目をやり、「ひゃう!」とかわいらしい悲鳴をあげてまた目を逸らしてしまう。 そんな恥ずかしがりやな英理を見ているのも楽しいのだけど、 「英理〜これ、な〜んだ」 そばに置いておいたメトロノームを持ち上げる。 「っ!それ……」 英理が認識すると同時に留め具を外す。 メトロノームは再びカチッ、カチッと規則的な音を奏でる。 たちまち英理の表情がトロ〜ンと溶けていく。 「さぁ英理、私たちは今、ナニをしているの?説明しなさい。詳しく!わかりやすく!具体的に!」 「ぁぁ……そんなぁ」 「ほらっ」 少し強めに腰を押し付けると、うまい具合に英理のクリトリスを刺激した。 「ああっ!私と……里彩の、おまんこが……くっついて……気持ちよくて……ああっ!今、クリトリスが……擦れて……すっごい、気持ちいい……私のクリトリス、おっきくなって……敏感に……」 「ふぅん、じゃあこうやってクリトリス同士を擦り合せたら、どうなるのかな?」 「ああん!そこ……いいっ!もっと、もっとぉ〜」 「んあっ!やば……これ、私も……っ、いいっ」 「私っ……また……イキそう……っ」 「いいよ、英理っ……一緒に……イこっ」 腰の動きが速くなっていく。 ぐちゅぐちゅとおまんこを擦りあわせる音が大きくなり、加速的に快感が増していく。 「もう……だめ……イクっ!ああっ!!!」 「私もっ……あっ!ああん!!!」 快感の波が下半身から全身に広がり、私たちは同時に絶頂に達した。 「はぁっ……はぁっ……んっ」 持っていたメトロノームを布団の上に倒すと振り子が布団と本体の間に挟まって止まった。 催眠がとけても英理はうっとりとした表情で天井を見上げていた。 「英理、好きよ……」 気怠い身体を起こして英理の横に寝転ぶと、英理は嬉しそうに笑って手を握ってくれた。 「私も……好き」 指を絡ませるようにしてお互いの手の感触を楽しんだ。 なんだかくすぐったいような、照れくさいような、そんな甘酸っぱい気持ちでいっぱいになった。 きっと、これが幸せ、っていうのかな? こんな時間が、ずっと、続くといいな。 思えば、その日はなんだかいつもと様子が違った。 「先輩に呼ばれたから」という理由で英理と一緒に登校できなかった。 昼休みも同じ理由でご飯も一緒に食べられなくて、なんとなく、不愉快な気分だった。 「英理!」 最後の授業のチャイムが鳴って皆が帰り支度をする中、私は真っ先に英理の席に行った。 「一緒に帰ろ。今日、家に行ってもいい?」 「ごめん……ちょっと先輩に呼ばれてて……ホンっとごめん!」 その時の私は余程不機嫌な顔をしていたのだろう。 申し訳なさそうな英理の表情が印象的だった。 「一緒には帰れないけど、家くるのは大丈夫だから」 「待ってようか?」 「悪いよ。これ」 英理は可愛いくまのキーホルダーのついた鍵を手渡した。 「今日家にだれもいないから。先に行っててくれるかな?」 「……いいの?」 「うん。他の人ならともかく……里彩だし」 その一言で私の機嫌は一気によくなった。 途中英理の家の近くの本屋さんで雑誌を立ち読みして適当に時間をつぶしていると、英理からメールが来た。 今から学校を出るとのことで、20分後くらいに着くかな。 英理から渡された鍵を使って家に上がり、英理の部屋に入った。 何度も来たことがある英理の部屋。 ここで宿題をしたりおしゃべりしたり、お互いに催眠術をかけあったりもした。 でもまだ、ここでエッチをしたことはない。 今日は、できるといいな。 そういえば一人で英理の部屋にいるのも初めてかもしれない。 そう思うと、なんだか家探ししたい衝動に駆られた。 秘密の日記帳とか、ないかしらん? 「里彩……来てる?」 そう思っていたら英理が帰ってきた。 「おかえり〜」 部屋のドアを開けた英理をそう言って迎えた。 「……英理?」 英理の様子がヘンだ。 顔も目もちっとも笑っていない。 「ちょっと、話があるの」 「う、うん」 ただならない様子に私は頷くしかできなかった。 英理は私から目を離さずに後ろ手でドアを閉めると、部屋の鍵を閉めた。 「今日ね、湯上谷先輩と上月先輩に呼ばれてたの。『あなたは催眠術にかかってるから、解いてあげる』って言われて」 体中の血液が凍った気がした。 「そんなことあるわけない、って思ったよ。私にそんなことできるのは里彩だけだもん。でも、里彩がそんなことするわけない。ちゃんと約束したから……後催眠も、健忘催眠も……やらないって……なのに!!」 パシン 何が起こったのかわからなかった。 いきなり目の前に火花が散って、私はその場に倒れこんだ。 頬が焼けるように熱い。 英理が泣きそうな顔で震えながら私を見ていた。 英理の右の手のひらが微かに赤くなっていた。 私は英理に叩かれたんだと理解するのに、だいぶ時間がかかった。 「酷いよ……酷いよ里彩っ!!!」 胸倉をつかまれて無理やり引き起こされた。 「どうして?!ねえ、どうしてなの?!!私っ……信じてたのに……どうしてこんなこと!!」 英理は泣いていた。 私のことを怒っているというよりも、約束を破られていたことが悲しくて仕方がないという風だった。 「信じられないよ……裏切り者!!!大っ嫌い!!!!」 “大嫌い” その一言が、鋭く私の心を抉った。 こんなにも激昂した英理を、私は知らない。 私を見下ろす英理の目からこぼれる涙が頬にあたって、その熱さに激しく動揺した。 どうしよう……どうすればいい……? 【開き直ってもう一度催眠をかける】 → “英理と里彩〜後編・上書き保存” へ続く 【ひたすら謝って想いを伝える】 → “英理と里彩〜後編・そして私たちはキスをする” へ続く
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