キーン コーン カーン コーン チャイムの音で俺は我に帰った。 また授業中、ずっと小林さんを見続けてしまっていた。 思春期の少年が罹る恋の病というのは恐ろしいもので、50分の授業時間も彼女を見つめていればほぼ一瞬のうちに過ぎてしまう。 俺こと増島恵介(ますじまけいすけ)も例外ではなく、恋の病の恐ろしさを余すことなく味わっていた。 「きりーつ!礼!」 日直の掛け声で先生に礼をすると、ついさっきまで静かだった教室はあっという間に喧騒に包まれる。 同年齢の40人近い男女がテレビや芸能人、近日中にあるテストや成績、志望校といったありふれた、それでいて多種多様な話題が飛び交う。 「みゆ〜さっきの授業なんだけどさ」 俺が見つめていた小林さんもクラスメイトの別の女の子に話しかけられて喧騒の中に取り込まれていく。 「この例題の解き方なんだけど……」 「ここはね、xの代入に問題文の式を使うといいよ」 「小林さん、4限の課題私当たりそうなんだ。答え合わせしてくれない?」 何人ものクラスメイトに囲まれて、彼女の姿が見えづらくなる。 彼女を視界に収めることができないならこの時間に意味はない。 俺は机に突っ伏して深夜アニメによって削られた睡眠時間の確保を目論んだ。 「増島、ちょっといいか?」 クラスメイトの男子に話しかけられて、目論見は失敗に終わった。 「なんだよ……」 話しかけてきたのは小池という特に仲良くもなく、かといって悪いわけでもない。話しかけれられれば挨拶くらいはするようなヤツだった。 「明日の日直だけどさ、お前代わってくれないか?ちょっと明日用事はいっちゃってさ」 「あしたぁ〜?」 日直なんてものは俺たちにとって害悪以外のなにものでもない。 ろくに話もしない女子と一日ペアになってやれ日誌を書けだ黒板を消せだ職員室にプリントを取りに来いだと面倒くさいことこの上ない。 無論ほっといたって出席番号順に公平に回ってくるのだから、暇人の俺は別に代わってやってもいいんだが、まだまだ先だと思っていた面倒ごとが急に明日になると思うと気分が重い。 今だって今日の日直の黒田と古賀さんが黒板を消している。 二人とも肩にチョークの白い粉がついて嫌そうな顔をしている。制服が紺色だから目立つんだよなあれ。 断るか。面倒ごとはなるべく先に……。 「ん?」 「どうした?」 うちの日直は基本的に出席番号順。今日の女子の日直は古賀(こが)さんということは……。 女子の出席番号を脳内でリピートする。 間違いない。明日の日直は小林さんだ。 「分かった。代わろう」 「ありがとー!助かるわ!神様仏様恵介様!」 「やめろって」 両手をあわせて拝みつつ礼を言いながら小池は去っていった。 礼を言いたいのはこちらだ。 こんないい機会を提供してもらえるなんて。 小林心結(こばやしみゆう)。 クラスメイトの女の子で俺の片思いの相手。 温厚な性格で美人というよりは可愛いの部類に入る顔立ち。 成績は学年でも上の上といった具合でとても頭がいい。 その面倒見のいい性格と優秀な学力のせいで、休み時間になるとやれ宿題見せてだのさっきの授業でわからないところがなどクラスメイトに囲まれてしまう。 そんな人気者な彼女に恋をしたがいいが、いままでほとんど話したことはない。 日直なら1日を通して二人で行動することが多いし、放課後日誌を仕上げるときは二人っきりにもなれる。 お近づきになる絶好の機会だと思ったね。 日直の相方が俺になったことを小林さんに伝えるために彼女の席に近づいた。 彼女は友達にさっきの授業のことを訊かれていて、「流石みゆっち!天才〜」などと言われて「えへへ〜」と照れた笑いを浮かべていた。 可愛い。可愛すぎる。そこの女子、俺と替われ。 「小林さん、ちょっといい?」 小林さんは、「ん?」と笑顔を浮かべたまま振り向いた。 そのくりくりとした瞳を向けられて、軽く胸が高鳴ってしまう。 「明日の日直だけど、小池がなんか用があるとかで俺と交代したから」 心の内を悟られないように努めて冷静な態度を装いながら俺は要件だけを伝えた。 「そっか。じゃあ明日よろしくね」 小林さんは屈託のない笑顔を向けてそう言った。 「うん、よろしく」 それだけ言って俺は自分の席へ戻り、机に突っ伏す。 周りから見れば、俺が休み時間の間こうして寝ているのはいつものことなので不自然な様子はないが、俺の心の中は緊張でいっぱいだった。 心臓はバクバクと脈打ち、ギュッと握り締めた手のひらからはベッタリと嫌な汗が滲んでいる。 口調に変なところはなかっただろうか。怪しい態度はとっていないだろうか。 ちらっと彼女の方を見ると、俺のことなど見向きもしないで友達と談笑している。 その様子から俺に対するマイナスの感情を読み取ることはできない。 とりあえずの失礼がなかったことと思って俺はホッとする。 視線をそらして教壇を見ると、次の古文の先生が来ていた。 素敵に眠くなる授業で定評のある老教師は俺たちに関心などないように教科書をめくっていた。 まぁ俺も普段なら睡眠時間に充てるためでしかない授業だが、今日に限っては明日の計画を立てるために有効活用させてもらうとしよう。 な に も お も い つ か な い そりゃそうだ。 今日まで俺は彼女とほとんど話したことすらない。 遠くから見つめてるだけの典型的な片思い。 そんな今日明日で状況を大きく変えることのできるアイディアなど浮かぶわけもない。 「はぁ……」 ため息をついて居間のソファにごろりと寝転がってテレビを見る。 今テレビでは、『社会に出よう!』とかいう番組をやっていた。 社会問題になっているニートや引き篭りの若者をあの手この手で就職させたりアルバイトさせたりして社会に出そうというのが番組の趣旨だ。 シュールなその内容に反し、視聴率は結構高く人気もあるらしい。 今回はニートの男性に催眠術をかけてハローワークに連れ出そうという企画らしい。 テレビではスーツを着た女性が男性の目の前で振り子を揺らしている。 男の瞳は振り子を追って左右に揺れ、ゆっくりと瞼が閉じていく。 いかにもヤラセ感漂う作りだが、第三者として傍観する分にはなかなか面白い。 そのあと男性は工事現場の仕事にありつき、額に汗して働き始めた。 『労働って素晴らしいですね!毎日のご飯が美味しいです!』 おいおい……ついさっきまで『働きたくないでござる』とか言ってたヤツのセリフかよ。 まぁこんなに簡単に人の心を操ることができたら人生面白いんだろうけどな。 テレビを消して自分の部屋に戻る。 ……催眠術、ねぇ。 もしも本当にあんな風に人を操ることができたら? 小林さんの心を、俺の自由にできたら? あまりに突拍子のないアイディアに思わず苦笑する。 まさか、できるわけない。 俺は催眠術や暗示について勉強したことがあるわけでも、知り合いに使える人がいるわけでもない。 どう考えたって無理。ありえない。 ……ありえない、が……。……………………。 俺はノートパソコンを取り出して、電源を入れた。 調べてみると、催眠術や暗示というものは特別難しいものでもなければ如何わしいものでもないらしい。 単純な言葉や態度だって他人に対して影響を与える。 思い込みやトラウマといったものも自己暗示の一種だし、それで人生変わることだってありうる。 ただ、幻覚を見せたり好き嫌いを操作したり、相手を思うように操ったりといったことをするにはそれなりの工夫をしないといけない。 こちらの言葉や態度を素直に受け入れやすい下地を作らないといけない。 よく五円玉かなにかを被験者の目の前でゆらゆら揺らして「あなたはだんだん眠くな〜る」なんてやってるのが催眠術の風景として有名だが、あれなんてまさにそうだ。 被験者の脳の活動を弱めて潜在意識に暗示を受け入れやすい状態に持っていく手法の一つだ。 要は相手の自己判断力を奪い、潜在意識に直接語りかけられるようにすればいいってことだ。 これさえできれば、小林さんも俺の思うがままに……。 「ちょっと、増島君?聞いてた?」 「んあ?」 「もう……なんか朝からぼーっとしてない?もうすぐお昼だよ」 「ご、ごめん。なんだっけ」 「5限の化学は実験だから日直は準備しとけって、お昼休みにご飯食べたらすぐ行かなくちゃいけないんだよ」 「そ、そうだったね」 催眠状態にできさえすれば願いががなうことはわかった。 だけど肝心の催眠術の仕方が俺にはわからなかった。 だから俺は、一晩中パソコンの前に座って一夜漬けで知識を吸収した。 最近はネットで調べれば知りたいことはなんでもわかるから便利だ。 一応のやり方はワードにまとめて印刷してきた。 頭の中で何度も手順をシミュレーションしてみた。 ただ機会がない。 彼女の周りには常に人がいて、催眠術なんてかけられる場面なんて存在しない。 考えても見れば催眠術はなるべく二人きりで、邪魔が入らないシチュじゃないとダメだ。 そうなると機会は一度だけ。 日誌をまとめるために教室に残る放課後。 その時に誰も教室に残らずに二人っきりになれれば、可能性はある。 そんなこんなで迎えた放課後。 小林さんは黙々と日誌の『一日のまとめ』の欄を書いている。 丸っこくて女の子らしい字。 そんな彼女の横顔を間近で見られるだけでも幸せな気分になる。 「よし、終わりっ」 ぼーっとしていたら、小林さんは日誌を書き終えてしまったらしく、筆記具をまとめて鞄にしまおうとしている。 「ね、小林さんってテレビとか見るの?」 俺としては場をもたせるために咄嗟に出した話題だった。 が、これが思いもかけずいい結果をもたらした。 「ん?なに突然」 「いや、特に意味はないんだけど……」 「そうだね〜昨日やってた『社会に出よう!』とか、毎週見てるよ」 「え!意外だなぁ、俺も毎週見てるよ」 「クラスでも結構見てる人多いよね。毎回よくネタが尽きないと思うよ。昨日も催眠術とか、誰があんなの考えてるんだろうね」 お、本人の口から催眠術という単語が出るとは!これはますます追い風。 「ヤラセ感たっぷりだったけどね。実際催眠術なんてできるのかな」 「どうだろう。できたら面白いかもしれないけど」 くすくすと笑いながら話す彼女に半分見とれながら、俺は切り出した。 「やってみる?」 「え?」 「催眠術」 自分でも声が震えてるのがわかった。 ヤバい……怪しまれたかも。 「増島君、催眠術つかえるの?!」 ガタッと椅子を倒して立ち上がり、小林さんは上半身を乗り出してキラキラした目で俺を見つめた。 「え?いや……ちょっとだけ」 期待に満ちた目に気圧されるように俺は頷いた。 「本当に〜?スゴーイ!」 「いや、多少の知識があるだけで、別に凄くは……」 「凄いって!へ〜意外だな〜増島君っていつも退屈そうに休み時間とか寝てばっかりだけど、そんな特技があったんだ」 「それでさ、かかってみない?」 「うん!かけてかけて〜」 小林さんは倒れた椅子を直してワクワクした様子で俺を見つめた。 なんか、望んだ通りの展開すぎて少し怖い。 だけど千載一遇のチャンスであることも確か。 「う、うん。じゃあえっと、準備するから椅子に座ってリラックスしてて」 そう言って俺は鞄を漁る。フリをする。 「ところでさ……」 そうしながらさりげなく話しかけた。 「小林さんって催眠を体験したことはないんだよね」 「うん。だからちょっと楽しみだよ」 「テレビとかじゃなくてさ、実際に催眠を見たこともないよね」 「そうだね〜」 狙い通りの答えが返ってきてホッとする。 「じゃあ催眠にかかったらどうなるのか全然わからないよね」 「そうだよね」 「俺の言う通りにすると簡単にかかっちゃうよ」 最後が少し早口になってしまった。 でも小林さんは、「へー」と相槌をうつだけでこの質問の重要性に気づいていない。 「ホントだよ。今まで催眠がうまくかかった人は小林さんみたいなタイプだね」 「そうなの?」 もちろん嘘だ。 だが問題はそこではない。 小林さんに「それでは私はすぐ催眠される」との予期作用を起こさせることが目的だ。 こういう会話をすることで、「私は催眠にかかりやすい」と無意識に思わせられれば大成功だ。 自分のような素人がやって効果があるかはわからないけど、成功率が僅かでも上がるならできることはやる。 「じゃあはじめようか」 「って、それ」 小林さんは僕が持っているものを指さして、 「定番過ぎない?」 口元に手を当てて笑った。 「まぁ……わかりやすくていいじゃん」 手にしたもの、5円玉に30センチほどのタコ糸をつないだ振り子、を彼女の目の前にかざして、いよいよ催眠術のスタートだ。 「それでは、じ〜っと5円玉だけ見つめましょう」 糸の先の5円玉が軽く揺らしながらゆっくりと語りかける。 「5円玉が左右に振れてきます。ゆっくりと揺れていきます。じっと見つめて……目を逸らさないで」 小林さんは、じっ……と5円玉を見つめている。 「ゆれる、ゆれる、左右にゆれる。揺れる、揺れるもっとゆれる。どんどん大きくゆれる」 5円玉の揺れを少しずつ大きくしていく。 小林さんの視線は5円玉を追って右、左、右、左と揺れ始める。 「もっともっと大きく揺れる。小林さんの心も揺れていく。ゆらり……ゆらり……」 ふっ……と、小林さんの口元が微かに開いた。 「どんどん心が揺れていく……でもそれはとても気持ちいい。もう振り子に夢中になっていく」 徐々に小林さんの表情がぽーっとしたものに変わっていく。 「ほら、振り子に夢中でなにも考えられない。ただ振り子を見つめていたい。だんだん身体がリラックスしていく。だんだん力が抜けていく」 少しずつ肩が下がっていき、いつもはピンと伸ばした背筋も力を失って背もたれに寄りかかっていく。 「次に私がハイと言うと5円玉の動きが止まっていきます」 振り子の動きを少しずつ小さくしていく。 「ハイ、5円玉が止まる、とまる。動きが小さくなって静かにとまる。小林さんの心も止まっていく。止まる、止まる、だんだん止まる。もっともっと止まっていきます」 振り子を見つめる瞳がゆっくりと止まっていく。 「止まる、止まる……。ほら、止まっちゃった」 振り子を揺らすのをやめると、小林さんはトロンとした表情で動かない振り子を見つめた。 うまくいった、のか? 「……振り子を見つめて。絶対に目を逸らさないで……そのまま見ていると、だんだん瞼が重くなってきます。どんどん重くなってくる」 小林さんの瞼がピクピクと震え出す。 「瞼がだんだん下がってきます。どんどん下がってくる……」 ゆっくりと瞼が下がっていく。 「ほら、どんどん下がってくる。下がってくる……瞼が閉じていく。だんだん眠くなってくる」 瞼が下がり始めたタイミングで、語りかけに「眠い」という単語を混ぜ始める。 「眠くなる……眠くなる……目を開けているのが辛い……。勝手に勝手に瞼が閉じていく」 ゆっくり、優しく、丁寧に。 小林さんの様子を見ながら慎重に繰り返し語りかける。 「瞼が重い……閉じてしまいたい。眠くてたまらない、眠い……眠い……」 瞼がフルフルと震え、今にも閉じてしまいそうになる。 時折首から力が抜け、コクっ……コクっ……と船を漕いでいる。 「眠くなる……眠くなる……眠くなる、眠ってしまう……眠ってしまう…………」 とうとう小林さんの瞼が閉じた。 同時に身体から力が抜け、背もたれに身体を預けてしまう。 「眠っている……小林さんは眠っている」 やった、うまくいった! 上手いこと小林さんを催眠状態に導くことに成功した。 そして大事なのはここからだ。 催眠状態を深くして簡単には覚めないようにしないといけない。 催眠にもできることとできないことがあって、催眠が深ければ深いほどできることが多く、逆に浅ければ急に目覚めてしまうことも有りうるしな。 「“心結”ちゃん、あなたは催眠術にかかってしまいました。頭がぼんやりしてとっても気持ちいい。そうですね?」 微かだが、うつむいた頭が上下に動く。 ここからはいつもの苗字ではなく下の名前を呼ぶことにする。 そのくらいならしても大丈夫そうだし、一度呼んでみたかったからな。 「私が覚めなさいと言うまでは目が覚めません。これから私が20まで数を数えます。数える度にあなたは自分でだんだん、だんだんと深い快い眠りに落ちてしまいます。それはとても気持ちよくて抵抗することができません。いいですか?よければハイと返事をしてください」 「……はい」 小さく、感情のこもってない声で返事が返ってくる。 「ひとーつ……だんだんグッスリと眠り込んでいきます。ふたーつ……どんどん眠りが深くなっていきます。みっつ……よっつ……もっと、もっと深く眠りこんでいきます」 見た目に変化はないけど、自分の言葉が好きな女の子を支配していくと考えるとなんだかゾクゾクする。 「いつーつ……もう身体に力が入らない……むーっつ……ななーつ、ふか〜くふか〜く眠っていきます。私の声と私の言うことだけに注意していてくださいね」 「……はぃ」 うっとりとした、気持ちよさそうな声で小林さ……心結ちゃんは返事をした。 こんな色っぽい声、初めて聞いた。 無防備で、力が抜けてて、甘い声……。 その声だけで俺は勃起してしまった。 「やっつ……ここのーつ……とーお。もう心結ちゃんはふか〜い催眠にかかってしまいました。じゅういち……じゅーに……深く、深く……ずうっと深く眠りこんでいきます。じゅうさん……じゅうし……じゅうご……催眠は深くなっても私の声は良く聞こえます。私の声だけは聞こえます。いいですね?」 もう心結ちゃんには俺の声しか聞こえない。俺の声が全て。 「じゅうろく……じゅうしち……じゅうはち……もう心結ちゃんは深く深く眠り込んでなにも考えられない。自分からどんどん深く催眠にかかっていく。じゅうく……にじゅう……。……心結ちゃん?聞こえる?」 「…………はぃ」 「心結ちゃんは深い深い催眠状態になった。わかるね?」 「……はい」 よっし大成功! これだけ深くなれば大抵のことはできるハズ。 さて、なにをしようか……と考えて心結ちゃんに目をやると、スカートからスラっと伸びる無防備な太ももが目に飛び込んできた。 ごくり、と、生唾を飲み込んだ。 そうだ。なんでも出来るなら、エッチなことだって……! そう考える辺り俺も年頃の健全な男子だ。 「心結ちゃん、これから3つ数えると、あなたは目を覚まします。ただし、目を開けても深い催眠状態のままです」 「はい……目を覚まします……でも、催眠状態……」 「そう、頭はぼんやりしたまま。いいですね。ひとつ……ふたつ……みっつ!」 みっつ、の部分だけ少し大きめの声で言うと、心結ちゃんはうっすらと瞼を開いた。 「……小林、さん?」 ついびびって苗字で呼んでしまう。 だけど心結ちゃんはぼーっとした表情で前を見つめるだけ。 「心結ちゃん……」 「……はい」 振り向きながら心結ちゃんは返事をした。 「ぅわ」 あまりの色っぽさに思わず驚いてしまった。 ぼんやりとした表情で俺を見つめる瞳には意思の光がまるで感じられず、身体に力はまったく入っていないようで動作一つ一つがゆっくりだった。 その様子はなんというか、無防備だった。 全身から意志の力が抜けていて、俺がなにをしても拒まれることのなさそうな、そんな危なっかしい誘惑に満ちた様子だ。 そして俺はそんな誘惑をはねのける術など持ち合わせていない。 ここまで来たら行くとこまで行く! 「心結ちゃん、振り子を見て……」 トロンとした表情の心結の目の前に再び振り子をかざし、軽く揺らしていく。 「この振り子を見ていると、心結ちゃんはだんだん服を脱ぎたくなってきます。だんだん服を脱ぎたくなってくる」 視線は振り子を追って規則正しく左右に動いている。 「ほら、脱ぎたくなる……脱ぎたくなる……制服を脱いで下着姿になりたくなる」 ピクンと心結の手が震え、上着の左のファスナーにゆっくりと手が伸びていく。 「そう……脱ぎたくなる、脱ぎたくてたまらなくなる」 ファスナーを上げてセーラー服の裾を持つと、ゆっくりと持ち上げ、そのまま首から抜き取った。 脱いだ上着を机に置くと、プリーツスカートのボタンを外し、ファスナーを下ろしてスカートを脱ぎ始めた。 白い下着が見えたところで動きが止まる。 顔を見ると、頬が赤く染まっていた。 「恥ずかしい?」 コクンと頷く。 「どうして?」 「……クラスメイトの、男の子に……下着、見られちゃう……」 「そうだね、見られちゃうね。でも、心結ちゃんは脱ぎたくてしかたがない。ほら、振り子を見て。脱ぎたくなる。脱ぎたくなる」 何度か暗示を繰り返すと、観念したようにスカートを下ろした。 脱いだ制服はキチンと畳んで机の上に置いた。 几帳面な性格が見られてなんだか嬉しくなる。 改めて心結ちゃんの全身を観察する。 ぼんやりとした表情で下着姿で無防備に立っている心結ちゃんの姿は、それだけで危険な香りが漂っていた。 下着は標準的な白いブラとパンティで、どちらも水色の小さいリボンがついていて、色っぽいというよりは可愛い感じの下着だった。 「ぅぅ……」 頬が赤く染まって恥ずかしそうにするが、身体を隠そうとはしない。 「恥ずかしそうだね」 問いかけると、 「は……い」 ぼんやりとした声で返事が返ってくる。 「でも、もっと恥ずかしいことをするよ」 もはやお馴染みとなった振り子を目の前にかざす。 「あなたはだんだんブラを外したくなる」 心結ちゃんの表情が羞恥に歪む。 「ほぅら、脱ぎたくなる……脱ぎたくてたまらない。ブラを外したくてたまらなくなる」 「ぁ……」 「みっつ数えると、心結ちゃんはブラを外したくて我慢できなくなってしまう。いくよ……ひとつ、ふたつ、みっつ!」 手が疲れるので振り子を下ろして暗示をかけてみる。 「ぁ……だめ……」 今心結ちゃんの心の中では、ブラを外したいという欲求とクラスメイトの男の子に胸を見られてしまうという羞恥心がせめぎ合っているのだろう。 「……ぅぅ……ぅ〜」 手がフロントホックに伸びていっては戻してを繰り返している。 だけど両手が胸元に伸びて、指先がブラに触れるとそのままホックを外してしまう。 「ぁ!……ううっ」 そのまま固まってしまうが、とうとう欲望に屈してブラを取り払った。 肩紐を腕から抜いて、ブラを制服の上に置く。 着痩せするタイプだったのかな? 服の上からはわからなかったけど、心結ちゃんの胸は案外ボリュームがあった。 しかも乳首はピンク色で外気にさらされてツンと尖っていた。 好きな女の子のパンツのみの姿……。 免疫のない俺の理性を失わせるには十分な力を持っていた。 そして次の狙いは当然秘密の部分を隠しているその薄布にむかっていった。 「心結ちゃん、あなたはだんだんパンツを脱ぎたくなる」 「やっ!」 心結ちゃんは目の前にかざした振り子から慌てて視線を逸らした。 「だめだよ。心結ちゃんは振り子から目をそらすことはできない。どうしてもできない。目が勝手に振り子を見つめてしまう」 「やっ……やぁ」 一度外れた視線がまた振り子へと戻ってくる。 「そう……ほら、パンツを脱ぎたくなってくる。脱ぎたくなる……脱ぎたくなる……」 俺は夢中になって暗示を繰り返していく。 しかし心結ちゃんもさすがに羞恥心が強いようで、グッと身体に力を入れてこらえている。 だけどその抵抗力の源は「アソコを見られたくない」という気持ち。だったら、その理由を取り除けばいい。 「心結ちゃんはだんだんアソコを見られたくなってくる」 「ぇ?」 「だんだんアソコを見て欲しくなってくる。見られたくなる……見られたくなる……」 「ぁ……でも……ぅぅっ」 「ほぅら、我慢できない。アソコを俺に見て欲しくなる。見せたい……見せたい……」 羞恥心は消えていない。だけどパンツを脱ぎたい、アソコを見せたいという強烈な欲求が心結ちゃんを襲っていることは傍目でもよくわかった。 「ぅぅっ……だめっ!……だめだよ……でも……っ」 「脱ぎたいでしょ?脱ぎたいよね。ほら、我慢せずに脱いじゃおうよ」 振り子を揺らしながら甘く語りかけていく。 「ぅ〜〜……っ!」 「心結ちゃんはパンツを脱ぎたくなる。脱いでアソコを見せたくなる。我慢できない、ほら……ほら……手が勝手に動いちゃう。パンツを下ろしていく」 心結ちゃんの手がゆっくりと動いてパンツの端をつまんだ。 摘んでから少し躊躇うように身を固くしたけど、 「ぅぅっ……ぅ……えいっ!」 可愛い掛け声と共に一気にパンツを下ろした。 「ふあぁぁぁ」 心結ちゃんの顔が一気に赤く染まり、泣きそうな表情になった。 それでも膝まで下ろしたパンツを足から抜き取って畳んだ制服の上に置いた。 さらに心結ちゃんは人差し指と中指でV字を作って割れ目にあてがい、ゆっくりと開いた。 「おお……」 ほとんど無毛な女の子の秘所に俺は釘付けになった。 濃いピンク色で二つある穴のうち一つは微かに潤っていた。 「心結ちゃん、コレ……見て」 俺は手早くベルトを外してトランクスごとズボンを脱いだ。 好きな子の裸を見て既に俺のモノは固く、ビンビンになって天を仰いでいた。 「きゃ……っ」 心結ちゃんは驚いたような声を挙げた。 「見たこと、ある?」 「……ないです、こんな……」 恥ずかしそうにしながらも、興味津々といった様子で心結ちゃんは俺のモノを見つめている。 「コレ、なんていうんだっけ?」 「えっと……おちんちん……です」 その単語ひとつでも、好きな子の口から聞くと強烈な破壊力がある。 「そう、おちんちんを見てると、だんだんエッチな気分になってくるよ」 「ぁ……ぁぁ」 「下半身が熱くなってくる。アソコの奥がうずうずしてくる」 「やっ……ぁぁ」 股間の割れ目を開いたまま、心結ちゃんは切なそうに身体を震わせた。 「ほらほら、オナニーしたくなってきた」 「あっ……ぁ……くぅん」 ちょっと誘導してやると、割れ目を開いていた指がクリトリスへと移動し、ゆっくりといじり始める。 「あっ……ああっ」 「気持ちいい?」 「はいっ……気持ちいいですっ……ぁぁん」 「クラスメイトのおちんちん見ながらするオナニーが気持ちいいんだ」 「やぁっ!言わないで……」 「ふふ……でも、指だけで足りるのかな」 「え……?」 「ほら、おちんちんをじっと見て……心結ちゃんはだんだんおちんちんが欲しくなってくる。アソコの奥が寂しくなってくる。指を入れても満たされない」 「ぁ……やだぁ、ぅぅ……」 股間から涎のように愛液を垂らしながら心結ちゃんはもじもじと腰を揺らす。 「は……ぁぁ……ん……ぅぅ〜」 俺のモノを物欲しそうに見つめながら秘所に突っ込んだ指を動かしている。 「はぅっ……くぅん……やぁ、もう……増島君、お願い……」 「ん?なに?」 「お願い……欲しいの……増島君の、おちんちん……」 「ふぅん」 「我慢できないの!お願い……」 「お願いって言われても、具体的にどうすればいいの?」 心結ちゃんの瞳が潤んでいく。 意地悪すぎたかな、と思った時、 「わ、私のおまんこに……増島君のおちんちんを、挿れてくださいっ!」 隣の教室に人がいたら間違いなく聞こえるほどの大声で心結ちゃんは言った。 「ふふ、かしこまりました。机の上に乗って、足を広げて」 心結ちゃんは言われたとおりに机の上に乗って膝を立てて足を開き、エム字開脚の姿勢になった。 行儀悪いなぁ優等生なのに。 「増島君、はやくぅ」 蜜を垂らし、ヒクヒクと蠢く秘所に肉棒を押し当てる。 「ああっ」 そしてかき分けるようにナカへと押し進める。 「はぅっ!あぅ……ああっ」 異物の侵入を待ち望んでいた肉壷は抵抗らしい抵抗も見せず、やすやすと俺の肉棒を受け入れていく。 そしてついに最深部へと到達する。 「ふああああぁぁぁ」 心結ちゃんは恍惚の表情を浮かべた 「はぅぅ、いいよぉ……増島君のおちんちん、気持ちいいよぉ」 「恵介君って呼べよ」 足を腰に絡ませて俺の肉棒を逃がすまいとしがみついてくる心結ちゃんを見て、俺はサディスティックな悦びに身を震わせた。 「心結ちゃんはこれから俺のものなんだからさ!」 心結ちゃんを貫いたまま、俺は腰を動かし抽挿を始める。 「はっ……は……あ……あ!」 心結ちゃんはすぐに熱っぽい吐息を漏らし始め、うっとりした表情で喘いでいる。 「んあっ!はぁ……はぁ……ああん、いいよぉ」 結合部からぐちゅぐちゅと水音が響き、肉棒を締め付ける力が少しずつ強くなっていく。 「あっ!はぅ……ああん、いい、もっとぉ」 「エロいな〜心結ちゃんは」 「そんなぁ〜はぁっ!あぅ……んんっ」 膣内の肉が俺の肉棒を締め上げ、絶頂へと導いていく。 経験のない俺が耐えきれるはずも無く、限界はすぐ近くまで来ていた。 「心結ちゃん、ナカに出すからね。俺が出したら、心結ちゃんもイっていいよ」 「はぅん!はい……恵介君がイったら、私も……イっちゃいますぅ!」 締め付ける力が一層強くなり、俺の我慢はあっさりと破られた。 「ううっ、出るっ!」 一番奥まで押し込んで、俺はすべての欲望を放出した。 「うああぁぁっ!!出てる……出てるよぉ……っ!恵介君の……出てるぅ」 根元から絞り尽くされるような感覚にガクガクと身体が震える。 「熱いよぉ……お腹のなか、しゅごい……」 心結ちゃんも口元から涎を垂らしながらビクンビクンと痙攣していた。 「はぁ……はぁ…………ふぅ」 多少気分が落ち着いたところで、心結ちゃんの女の子から肉棒を引き抜いた。 穴から逆流した精液がトロリと溢れた。 「ぁぅ〜」 心結ちゃんは恍惚の表情で余韻に浸っていた。 夕焼けで赤く染まった心結ちゃんの裸体を前にして、俺は不思議な満足感を感じていた。 それは、雄としての勝利の達成感だと思った。 次の日の放課後、俺は体育館倉庫にいた。 別に掃除当番とか先生から用事を頼まれたとか、そういうことじゃない。 単純にここが個室で、まず人が来ないからだ。 手にしたスマートフォンから心結ちゃんの電話番号を呼び出し、発信ボタンを押す。 7,8回コールするとそれで発信をやめる。 目的は連絡をとることじゃない。 心結ちゃんの携帯に設定された着メロを鳴らすことが目的だ。 その着メロは俺の番号から電話がかかってきたときにしか鳴らないよう設定した着メロで、これを聞いた心結ちゃんは体育館倉庫にくるよう後催眠暗示をかけてある。 今頃心結ちゃんはぼーっとした表情でこちらにむかっているんだろうな。 俺はワクワクしながらポケットの中にある5個綴りのコンドームを握りしめる。 コン コン 控えめなノックとともに、心結ちゃんが姿を現す。 思ったより早かったな。 心結ちゃんはスカートを持ち上げながら、 「恵介……くん」 恍惚の表情で俺に話しかける。 「今日も、遊ぼ?」 スカートの下には、極太のバイブが刺さって不気味に震えていた。 「そうだね、遊ぼうか」 こうしてまた始まる。 身体だけでなく、心まで犯す……。 そんな淫欲の宴が……。 夕日が俺たちを照らすまで。 < おしまい >
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