初音ミクは、ヤマハが開発した音声合成ソフト「VOCALOID(ボーカロイド)」の声質をアレンジし、キャラクターのイラストを加えて擬人化させた、いわゆる「ボカロ」シリーズの草分け。メディアでは初音ミクばかりが取り上げられるが、実は鏡音リン・レンやGUMIなど、後発のボカロソフト・キャラクターも初音ミクに勝るとも劣らない人気を誇っている。
07年後半から、このボカロソフトに、自身が作詞作曲したオリジナル曲を歌わせた動画をニコ動に投稿する通称「ボカロP」が活躍し始めた。聞こえのよいサウンドと、人間が歌っているような声質にユーザーは驚き、「メルト」や「ブラックロックシューター」など100万再生を超える大ヒット作がいくつも生まれた。そのクオリティーはプロの世界も無視できないほどだ。
実際、ボカロ曲がメジャーレーベルのCDとなる「メジャーデビュー」が08年半ばから相次いだ。以降、ボカロ曲は何度もオリコンの週間ランキングでトップ10入りし、カラオケでは歌われた人気ランキングの上位にランクインするなどの実績を残すようになる。
ただ、このメジャー進出やランキングだけにとらわれると、ボカロ人気の本質を見誤る。人気の構図は既存の商業コンテンツとは大きく異なり、既存の指標で人気度を測ることもできない。
■歌、振り付け、ダンス、CG……広がる「ボカロ」
ボカロPもまた、ニコ動の熱狂的なユーザー。商業音楽のようにやぼなことは言わない。CDや放送・カラオケなど商業利用についてはJASRACに信託するが、ニコ動などネットでの創作活動については、ほとんどが許諾なしで利用可としている。
ユーザーはこの「仲間」が作ったボカロ曲に敬意を表しながら二次創作、三次創作に取り組み、楽しむようになった。新たな創作の「元ネタ」にして遊び始めたのだ。うるさい商業コンテンツには見向きもせずに。
あるユーザーはボカロの合成音の代わりに自分で歌い、別のユーザーがハモりやエフェクトなどを加えてアレンジ。楽器が得意なユーザーは演奏し、さまざまな人気の歌い手の音源をつないでメドレーを作るユーザーも出てきた。一方、ダンスが得意なユーザーが振り付けをし、それを参考に「踊ってみた」動画を投稿するユーザーも続出した。
さらには「MMD」という3Dアニメーションの制作ソフトを使い、ボカロキャラクターがダンスをするオリジナルのCG(コンピューターグラフィックス)作品を作るユーザーまで現れた。MMD自体、ニコ動ユーザーが開発し、無償で提供されているニコ動発のCGソフトだ。
■続々とプロになる「ボカロP」
みんなが歌い手や踊り手などの「アーティスト」やCGクリエーターなどの「スタッフ」として活躍することで、元ネタのボカロ曲に新たな付加価値が備わり、切磋琢磨(せっさたくま)して質も向上していく。ユーザーはテレビにかじりつくようにニコ動発のコンテンツに夢中になっていった。この波及効果が元ネタの人気を押し上げ、ボカロPのメジャーデビューを後押しする好循環を生んでいる。