2010年08月25日

◆ 二重盲検法の限界

 ホメオパシーが無効であることの理由として、「二重盲検法で無効」ということが掲げられる。しかし、二重盲検法は、絶対的に正しいものではない。

 ──
 
 「ホメオパシーが無効である」と主張する人は、「二重盲検法で無効だから」という理由を掲げる。しかし、二重盲検法というものは、あまり信頼がおけるものではない。

 (1) 鍼(はり)

 特に、「鍼(はり)治療は無効である」ということを示す二重盲検法は、たいていがインチキだ。つまり、二重盲検法を用いる方が、非科学的となっている。

 あちこちの試験をざっと調べたところ、次のような難点が見つかった。
  ・ 鎮痛効果だけを調べて、「鍼治療は無効」と結論している。
  ・ 健常者への効果だけを調べて、「鍼治療は無効」と結論している。

 こんな屁理屈が成立するなら、ほとんどの薬物は無効となる。

 たとえば、インフルエンザの治療薬であるタミフルを取れば、こうなる。
  ・ タミフルには鎮痛効果がないので、「タミフルによる治療は無効」
  ・ タミフルは健常者への効果がないので、「タミフルの治療は無効」


 このことから、彼ら(西洋人や日本人研究者)のなす二重盲検法が、いかにデタラメであるかがわかる。正しくは、次のようにする必要がある。
 「肩凝りや全身に凝りのある人だけを対象として、鍼と偽鍼を用いて、二重盲検法で調べる」

 これならば、正しい二重盲検法だ。

 一方、サイモン・シンや NIH を初めとする多くの二重盲検法は、上記の条件を満たしていない。つまり、次の難点がある。
  ・ 有効な症状の「凝り」でなく「鎮痛」(麻酔効果)を対象としている。
  ・ 症状のある人でなく、健常者を対象としている。

 こういうデタラメな調査をして、いわば、
 「タミフルには麻酔効果がないので、タミフルはインフルエンザ治療の効果なし」
 というような、飛躍した結論を出してしまっている。

 非科学の極み。それが、鍼治療についての二重盲検法だ。

 (2) 確率と統計

 そもそも、二重盲検法は、統計的な処理によって、プラセボ効果との違いを調べようとする。しかし、その方法が、根源的に限界をもつ。
 将来の医療は、オーダーメード医療である。そこでは、「有効かどうか」の当否は、個人ごとに決まる。ある人には有効だが、ある人には有効ではない。逆に言えば、有効である人には有効だが、有効ではない人には有効ではない。各人ごとに異なるのだ。
 そして、そのことは、統計的な処理によって推定することはできても、絶対的に正しいわけではない。統計操作の「不明な変数」によって、統計処理が歪むこともある。
 たとえば、「輸血は有効か」という問題があるとして、これを二重盲検法で調べても、あるときには有効であり、あるときには無効である。これをプラセボ効果と比べても意味がない。正しくは、
 「ABO血液型を一致させたときには有効」
 となる。ここで、「ABO血液型を一致させる」というのは、オーダーメード医療をしていることになる。このようにオーダーメード医療をしているならともかく、ABO血液型を一致させないで統計処理をしても、「輸血の是非」という問題には答えられない。
 また、
 「ABO血液型を一致させたときには有効」 ……(*)
 という原理にしても、
 「RH血液型を一致させないときには無効」
 という例外が生じるから、やはり (*) は絶対的な原理とならない。

 要するに、統計処理だけで「有効だ」「無効だ」と論じても、そこでは真偽ははっきりとしないのである。
 物事を真に証明するには、物理化学的 or 生理化学的な過程の証明が必要だ。たとえば、
 「タミフルはこれこれの抗原ないし抗体に作用して、ウイルスの増殖率をこのくらい阻害する」
 というふうな。そして、このことは、ほとんどすべての人に対して同様に働くはずだ。こういうことであれば、十分に科学的になる。
 一方、
 「どういう原理かはわからないが、この薬は3割ぐらいの人に有効だった」
 というのでは、科学的に十分だとは言えない。本当にその薬が有効だったかどうかは判明していないからだ。(別に隠れた原因がある可能性を排除できない。特に患者の遺伝子との関係がまったく不明だ。……オーダーメード医療でない限界。)
 
 二重盲検法は、あくまで「真実を推定する」という方法なのであり、「真実を解明する」という方法ではない。そこには根源的な限界がある。
 「二重盲検法で証明されたから、それゆえに正しい」
 というふうな、二重盲検法を絶対視する発想は、非科学的だ。そのことに留意した方がいい。

( ※ つまりは、医学について尊大にならず、謙虚であれ、ということだ。この点、西洋医学をやる人は、謙虚さの足りない人が多すぎる。「先生」と言われて威張っているせいか、普通の市民より1ランク上の人間だと自惚れているのだろう。……本当は患者に従属する下僕であるべきなのだが。金をもらう以上、そのくらいはわきまえているはずなのだが、医者に限って、お金をもらう方が威張っている。頭のネジが歪んでいるようだ。)



 [ 付記 ]
 誤解されると困るが、これは、
 「ホメオパシーが無効であることは証明されていない」
 と主張するためではない。ホメオパシーが無効であることぐらいなら、二重盲検法で十分に証明できる。
 ただし、鍼のような場合には、下手に二重盲検法を適用しても、正解は得られない。ホメオパシーはインチキ医療だが、一方で、代替医療をすべて否定するサイモン・シンもまた、インチキ医療ジャーナリズムだと言える。どっちもどっち。



 【 追記 】
 「個体差がある場合には、二重盲検法はうまく使えない」
 という点について、理解できていない人がいるようなので、説明しておこう。

 (1) 判定の可否

 個体差が大きいときには、「効果あり」のときは判定を出せるが、「効果なし」のときは判定が出しにくい。個体差を整えれば「効果あり」になることがあるからだ。この件は、上の血液型の例で説明した通り。

 (2) 確率・統計

 そもそも数学的な意味で「確率・統計」を考えるときには、「個体差がない」ことが条件となっている。たとえば、サイコロの目であれ、コインの裏表であれ、期待のボルツマン分布であれ、個々の現象は(確率的な)個体差がない。1の目と4の目は確率が同じだし、コインの裏と表は確率が同じだし、気体分子はどれも同等と見なされる。
 なのに、個体差というものが生じたら、前提となる「均等性」がなくなるから、もはやそこでは「確率・統計」を考えることは無意味なのだ。これは数学的な理由である。
( ※ 医学において「確率・統計」を考えるときは、「個体差はない」というふうに仮定した上で、「確率・統計」を考える。その仮定がおおむね成立するならば、結論は妥当だが、その過程がまったく成立しないならば、結論は無意味となる。)
 


 【 関連項目 】

 → ツボと鍼灸
 
   ※ 麻酔でなく肩凝りには どれだけの効果があるか、という話。

   ※ 最後の 【 補説 】 には、二重盲検法に関する詳しい話がある。
 
posted by 管理人 at 23:06 | Comment(0) | 医学・薬学
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