橋下徹・大阪市長が代表を務める「大阪維新の会」の市議団が議員提案を予定している「家庭教育支援条例案」に批判の声が広がっている。条例案は、児童虐待や子どもの非行などを「発達障害」と関連付け、親の愛情不足が原因とする内容だが、医師や保護者らが「根拠がない」「偏見を助長する」と猛反発。発達障害の子どもを持つ保護者らの13団体は7日午後、議会を訪れて提案中止を要望。市議団も5月議会での提案見送りを決めた。
条例案は今月1日、維新市議団が公表。児童虐待が相次ぐ現状を踏まえ、家庭教育の支援や親に保護者としての自覚を促す目的で作られた。「親になるための学びの支援」「発達障害、虐待等の予防・防止」など全5章、23条から成る。
しかし、発達障害について「乳幼児期の愛着形成の不足」が要因と指摘し、「伝統的子育て」によって障害が予防できるなどと言及した条文に批判が続出。高田哲・神戸大大学院教授(小児神経学)は「伝統的な子育てで予防できるとか、親の育て方が原因であるかのような表現は医学的根拠がないばかりか、子どもや家族が誤ったイメージで見られかねない」と危惧する。
長男(16)が広汎(こうはん)性発達障害という母親(45)=東大阪市=は「私のせいで子どもが発達障害になったと言われているようで傷ついた。最近は法整備が進み、障害への理解も広がってきたと思っていたのに、怒りを通り越して言葉にならない」と憤る。「大阪自閉症協会」「大阪LD親の会 おたふく会」など大阪府内を中心に活動する13団体は7日、「学術的根拠のない論理に基づいている」として条例案撤回のほか、当事者団体や専門家を含めた勉強会の開催を求めた。
インターネットの「ツイッター」でも1日以降、「うちの子は失敗作ですか」「ニセ科学だ」などと抗議が噴出。橋下市長は7日、記者団に「発達障害の子どもを抱えているお母さんに愛情欠如と宣言するに等しい」と苦言を呈し、市議団に条例案見直しを求めたことを明かした。【林由紀子】
【ことば】発達障害
自閉症や学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)などの総称。遺伝などの要因が複雑に絡んで起きる脳機能障害と考えられ、幼児期前後に表れることが多い。文部科学省の調査(02年)では「学習面か行動面で著しい困難を示す」児童・生徒は約6%に上る。自立支援などを目的にした発達障害者支援法が05年に施行された。
◆家庭教育支援条例案の概要◆
▽「親の学び」の手引を配布。母子手帳に学習記録を記載
▽保育・幼稚園で年1回以上「親の学び」カリキュラムを導入
▽保育・幼稚園で保護者の一日保育士(幼稚園教諭)体験を義務化
▽保護者対象の家庭用道徳副読本を作成し、配布
▽中学生〜大学生に乳幼児の生活に触れる体験学習を義務化
▽乳幼児期の愛着形成の不足が軽度発達障害やそれに似た症状を誘発する大きな要因と指摘され、それが虐待や非行、引きこもりなどに深く関与していることに鑑み、その予防・防止をはかる
▽発達障害課や、部局が連携した発達支援プロジェクトを設置
▽わが国の伝統的子育てによって(発達障害は)予防、防止できる。子育ての知恵を学習する機会を親やこれから親になる人に提供