いま私たちがやるべきこと(2)
18日の毎日新聞によい記事が載った。「記者の目」欄、斗ヶ沢秀俊氏のものだ。詳しくはぜひ読んでいただきたいが、福島原発周囲20kmの外側では被曝による健康被害の恐れはまったくないと断言しておられる。同氏はツイッターにおいても、記者生命を賭けてこの記事を書いたと宣言している。さらに、福島原発の事故はチェルノブイリのときとはまったく状況が異なっており、あの惨禍が再来することはない、ましてや「首都圏壊滅」などありえないとも書かれてある。 【リンク】
この記事は、ラジオ福島のインタビューに斗ヶ沢氏が答えた内容を踏まえて書かれた。ラジオ福島は斗ヶ沢氏の言を何度も再放送し、多くの福島県民から「安心した」との反響をえているという。20km範囲のさらに外側にあるいわき市にすら放射能を恐れてトラックが入ってこず、いわき市民は生活物資を断たれている。宮城県被災地に向かうボランティアも新潟経由の迂回路を使っているらしい。科学のライターには、まずこの問題について的確な情報を提供してほしい。それがいまなすべき仕事だ。
じつは、斗ヶ沢氏は私の高校時代の同級生だ。彼がワシントンに赴任する直前に話したきりだからもう10年は会っていないが、同窓一の美男子といわれたその顔を久しぶりに紙面で拝見した。お互い歳をとったが、誠実な物言いは変わっていない。彼は東北大学理学部に進み、学者の道との選択肢に悩んでいたが毎日新聞の科学部記者になった。私たちは高校時代、一緒に同人誌を作っていた文学仲間だった。
彼の記事にもあるが、素人の私は、専門家の方々の「ただちに健康に影響するレベルではない」という表現に戸惑っていたひとりだ。害はないと断言できないものかと思っていた。斗ヶ沢(昔の呼び名を許されたい)は、「この表現は科学的には正しい」が「いま必要なのは科学的に正確な情報よりも的確な情報」であり、「現在の放射線量であれば健康に影響ないと言い切ってよい」と明言してくれた。私は彼の科学知識を信じる。こういう“翻訳”をしてくれる専門家を待っていた。
16日、EUのエネルギー担当委員が「福島原発はout of controlだ。近々大惨事(カタストロフ)が起きるだろう」と発言した。国際原子力機関の天野事務局長は「不適切な発言だ」と不快感を露にしたが、まったくそうだ。日本の技術陣はcontrolを諦めてなどいない。
斗ヶ沢の記事の下には、論説室の福本容子氏の記事がある。東北関東大震災前日に、東京電力の小会社が運営する老人介護施設を取材した話で始まるこの記事には、停電が予想される台風がやってくれば全員が出社してくる「東電のDNA」という言葉が紹介されている。東電が「なってない」「ずさんだ」と怒鳴るのは簡単だが、この問題は非難していても解決しないと福本氏は言う。代わりはいないのだから、よきDNAの力を結集して最大限発揮してもらおうと言っている。「世界が、日本人はよくやっているとほめてくれている。その日本人が非難ばかりでは悲しい」と結ばれている。
私の研究所にいた外国人の多くは、被曝を恐れてすでに帰国した。交通が乱れ、余震が絶えなかった先週は、出勤できたのは職員の半分ほどだった。日本の円需要を当て込んだ通貨投機で、円は史上最高値をつけている。呆れた話だし、憤りを感じるが、これが世界だ。
先回この欄に「震災後、世界を観るという仕事の意味について改めて考え直している」と書いた。ここぞというタイミングで的確に情報を伝えること。数十万の日本人の命がかかっている現在の状況において、有用な思考材料を明確な目的意識をもって提供すること。切っ先を磨ぎ澄ました乾坤一擲が、いまの私の理想だ。当面は試練に立ち向かっている人々の営みを真摯に見つめていようと思うが、日本の社会がとりあえずの息をつける状態を回復できたら、再びアフリカについて筆を執ろうと思う。
(平野克己)
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2011/03/25 23:56
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避難した外国人
避難した外国人は、避難した当時の被曝を恐れたのではなく、放射能もれが進んで被曝する可能性を考えて避難したのだと思いますよ。 |
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