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時論公論 「小沢元代表に判決」2012年04月26日 (木)
安達 宜正 解説委員 / 友井 秀和 解説委員
(安達)民主党の小沢元代表に無罪判決です。小沢氏はコメントを発表。「裁判所の良識と公正さを示した」としています。
民主党・輿石幹事長は、小沢氏の党員資格停止処分解除の手続きに入る考えを示し、すでに政局には動きが出ていますが、まず、裁判所の判断について、友井解説委員に聞きます。
友井さん、政治資金収支報告書にウソの記載があったことは認めながらも、共謀を否定したわけですね?
(友井)
▼判決は、検察審査会の議決や、検察官役の指定弁護士が指摘したことを、かなりの程度まで認めています。
▼まず、資金管理団体で、収支報告書にうその記載があったことが認定されています。
▼資金管理団体が土地を買ったことを公表する時期を先送りすること、購入資金として小沢元代表が4億円を提供したことが明らかになるのを避けるために、銀行の融資を受けたことについて、小沢元代表が、元秘書から報告を受けて了承していたと、認めました。
▼元秘書の捜査段階の供述調書は、証拠として採用しませんでしたが、間接的な状況証拠によって、ここまでは認定できるという判断でした。
▼判決は、小沢元代表の説明について、一部、不自然だと指摘しています。
▼検察審査会の議決でも指摘されていたことです。
▼判決は、特に、事件の後も、収支報告書を見たことがないと言っている点については、およそ信用できないと批判しました。
▼政治資金規正法違反だと疑うことには根拠があったという考えを示しています。
(安達)そこまで認めながら、無罪となったのは、立証できなかった点があったということでしょうか
(友井)
▼ポイントになったのは、小沢元代表の認識がどうだったか、という点です。
▼収支報告書の記載について、違法だという認識がなければ、刑事責任を問うことはできないと判決は指摘しています。
▼土地の購入をいつ記載するか、提供した4億円を記載する必要があるか、という点について、違法とは考えていなかった可能性が否定できないと判断しました。
▼指定弁護士が証明しなければならない点だが、故意にうそを記載したとは証明されていない、として無罪の結論になったわけです。
▼政治資金規正法では、政治家本人は、監督責任を果たさなかっただけでは刑事責任は負いません。
▼そのため、小沢元代表は、元秘書たちと共謀して、積極的に不正に関わったかどうかが問われていましたが、そこまでは認定できないという判断でした。
▼指定弁護士は、控訴するかどうか、今後、検討することにしています。
(安達)検察の捜査に対して強い批判があります。違法な捜査、虚偽の捜査報告書が検察審査会を誘導し、そして議決につながったということです。
(友井)
▼検察が、事実と違う捜査報告書を検察審査会に送ったことについて、あってはならないことだと、判決も批判しています。
▼検察がいきさつや原因を詳しく調べて対応すべきだと求めました。
▼その一方で、それによって議決が無効になるわけではないと判断しています。
(安達)しかし、検察審査会が強制起訴した事件では、那覇地方裁判所でも無罪判決。これが続けば、強制起訴そのものに疑問の声が出てきてもおかしくないと思います。
(友井)
▼検察審査会の議決によって起訴する制度については、見方が分かれています。
▼検察よりも緩やかな基準で起訴されたのでは、起訴される側の負担が大きすぎる、という批判があります。
▼議決にいたる過程が不透明だという指摘もあります。
▼一方で、検察が起訴しないと決めたことが、常に正しいわけではなく、裁判という公開の場で判断を求める制度の意義はあるという意見も有力です。
▼そもそも、起訴した以上は有罪にならなければいけないと考えるのはおかしくないか、という見方もあります。
▼きょうの判決を受けて、結論として無罪だったことを強調して、検察審査会の議決で起訴する制度に疑問があるという声と、逆に、判決の中でも、疑う根拠があったと指摘したことを強調して、制度を評価する声と、双方の意見がどちらも強くなる可能性があり、議論が続きそうです。
(安達)ここからは、今後の政局への影響について考えます。小沢氏周辺は、次のようなシナリオを描いています。
▼消費税増税法案を継続審議に追い込み、秋の民主党代表選挙で、みずから、あるいは、みずからに近い候補者を擁立するという考えです。そして、▼野田総理を代表の座から引きずり下ろし、新たな代表、新たな総理のもとで、次の衆議院選挙を戦うという戦術です。▼小沢氏は、「消費増税は国民への裏切りだ。私はどんな役割でも果たす」と述べています。このシナリオをもう少し、詳しく見てみます。まず、野田総理が、法案の今の国会での成立に「政治生命をかける」としているなかで、継続審議が可能かどうかです。党内を見てみますと、いま、衆議院を解散すれば、民主党は大きな打撃を受けるという見方が大勢です。このため、法案を継続審議にすべきだという意見もあり、小沢氏としては、こうした勢力との連携も視野に入れているものと見られます。しかし、野田総理が、今国会での決着にこだわることも、想像に難くありません。このため、焦点は、小沢氏が、衆議院本会議で党の方針に反して、反対にまわることも想定し、同調して行動する衆議院議員が何人になるかということです。
仮に自民党など野党と無所属の議員全員が法案に反対した場合には、民主党から56人の衆議院議員が反対にまわれば、否決される可能性が出てきます。小沢氏がこの数を確保できれば、野田総理も、簡単には採決に臨めなくなるからです。
(友井)その場合、野田総理は、どう対応するのでしょうか
(安達)総理周辺では野田総理は法案が否決されたり、あるいは、継続審議に追い込まれる事態になれば、衆議院を解散する覚悟を決めていると話しています。また、仮に継続審議となった場合にも、秋の代表選挙で小沢氏の側の候補が勝利することも簡単ではありません。小沢氏に批判的な議員は、「小沢氏の政治力が落ちていることだけは確実だ」とけん制しています。消費増税法案の行方、そして、秋の代表選挙をにらんだ、民主党内の駆け引き・権力闘争は激しさが増しています。自民党など野党側も、その行方を注視しています。
(友井)
▼無罪判決となりましたが、元秘書は1審で有罪になっていますし、小沢元代表もある程度まで関わっていたと認定されました。政治的・道義的責任をめぐる議論は残りませんか。
(安達)そういう意見は野党だけでなく、民主党にもあります。自民党と公明党は小沢氏の政治的・道義的責任を解明するため、証人喚問などを求めていくことで一致しました。
しかし、無罪になった議員に対し、直ちに証人喚問を行うことは、いささか、無理があるようにも思います。ただ、政治倫理綱領には「政治倫理に反する事実があるとの疑惑がもたれた場合には、みずから真摯な態度を持って疑惑を解明しなければならない」とあります。国民の間にも、小沢氏がこの裁判で、「政治資金収支報告書に目を通していなかった」と証言したことへの疑問の声もあります。小沢氏はみずからが進んで、国民が納得できる説明を行うことが求められています。
(安達宜正解説委員、友井秀和解説委員)