本日の東京新聞・特報面は、先週の週刊現代と同じく、井野博満・東大名誉教授に取材し、原子炉の中性子照射脆化が進んだ、玄海原発1号機の危険性を警告している。
下記に記事を引用する。
万一、玄海原発1号機が制御不能になって爆発したら、2、3、4号機も一緒に制御不能になるのではないか。すべての原子炉が爆発し、放射性物質が風に乗って日本全土に拡散したら、佐賀県、九州どころか、日本そのものが滅びるだろう。原発事故難民となった日本人は国を捨て、世界中に散って生きることになる。
そのようなリスクをかかえているのに、玄海1号機を運転し続けるのは、狂気の沙汰としか思えない。玄海1号機は出力55万キロワットの原子炉だ。廃炉にしても、国民生活にたいした影響は出ないはずだ。電気のために、国を滅ぼすリスクをはらんだ選択をするのは道理に合わない。
原子炉が割れる 玄海1号機危険度最悪
原発の原子炉がガラスのコップのように割れてしまったら−。日本の原発ではその危険性が高まっていると警告する科学者がいる。もし、そうなれば、核反応制御不能となって大爆発を起こし、大量の放射性物賞が広範囲に拡散する。福島第一原発事故の比ではない大惨事となりかねない。危険度トップは玄海原発1号機だ。(小国智宏)
「日本で一番危険な原子炉は、九州電力玄海原発1号機(佐賀県玄海町)です」。こう断言するのは、井野博満・東大名誉教授(七三)=金属材科学=だ。
玄海原発2号機、3号機は現在、定期検査のため運転を停止中。海江田万里経済産業相が早期の再稼働を求めたのに対し、地元の古川康佐賀県知事らは容認する姿勢を示している。2、3号機の再稼働には批判の声が出ているが、井野氏は運転中の1号機についても大きな問題があるというのだ。
原発は地震や事故など異常が起こると運転が停止し、緊急炉心冷却装置(ECCS)が働いて、原子炉を急速に冷やす仕組みになっている。福島第一では、電源を喪失してこのECCSがうまく作動せず、事故に至った。ところが玄海1号機ではECCSが働いた場合、逆に大きな事故が起きる可能性があるという。
玄海1号機の運転開始は三十六年前の一九七五年で、九州電力の原発の中では最も古い。
井野氏は言う。「1号機の原子炉圧力容器の鋼の壁は老朽化でもろくなっている。急速に冷やした場合、破損する恐れがあるのです」
ガラスコップが壊れるイメージ
井野氏が例えるのは、ガラスのコップだ。熱いコップに冷たい水を急に入れると、内側と外側の急激な温度変化に耐えられずバリンと割れてしまうことがある。同じような現象が圧力容器にも起こり得るという。
圧力容器の内壁は、核分裂で発生する中性子線にさらされている。鋼は中性子線を浴びるほどもろくなっていく。柔軟性を損ない、人の血管が動脈硬化で破れやすくなってしまうのと同じことが起きる。
通常、鋼はある程度の力を加えても変形するだけで割れることはない。しかし、ある温度を下回ると、陶器のようにパカンと割れてしまう。この温度を脆性遷移温度という。もろくなればなるほどこの温度は上がる。
井野氏によると、北大西洋を航行中に沈没したタイタニック号は、質の悪い鋼材が使われていて脆性遷移温度は二七度だったという。そして氷山に衝突した衝撃で船体は割れてしまった。
電力会社は、原発の耐用年数を推測するため、この脆性遷移温度を調べている。圧力容器の内壁のさらに内側の位置に圧力容器と同じ材質の試験片を四〜六組ほど設置。数年から十数年ごとに取り出して検査する。内壁より炉心に近い位置に設置してあるため、中性子の照射量が大きくなり、脆性が早く進む。試験片を調べ、将来のもろくなった状態を予測するのだ。
玄海1号機の圧力容器の脆性遷移温度はどうなのか。
七五年の運転開始時はマイナス一六度だったのが、七六年に三五度、八〇年に三七度、九三年に五六度と徐々に上昇してきた。「ここまでは、ほぼ予想通りでした。衝撃的だったのは昨年十月に九州電力が公表した二〇〇九年四月時点の温度です」。何と九八度に跳ね上がっていたのだ。玄海1号機のような加圧水型軽水炉では、圧力容器内を一五〇気圧、三〇〇度以上の高温高圧で運転している。容器に亀裂が入れば、爆発的な破壊に発展し、大量の放射性物質を放出することになる。想像を絶する惨事が引き起こされる。
保安院に九州電調査結果伝えず
井野氏らは、昨年十二月、経産省原子力安全・保安院に説明を求めたところ、「驚いたことに、保安院はその時点で何の情報も持っていなかった。九州電力は『報告する義務はない』として知らせていなかったのです」。
なぜ、玄海1号機の数値は急激に上がったのか。
井野氏は「鋼の中の銅の含有率が高かった可能性がある。部分によって材質にむらのある欠陥炉の疑いもある」とみる。「原因を調べるために、試験片を大学などに提供し、ミクロ組織の検査を行うべきです。少なくともその結果が分かるまで原子炉は止めるべきです」
九州電力が〇三年に提出した報告書の予測曲線によると、玄海1号機の脆性遷移温度は六五度程度、誤差を入れても七五度前後のはずだった。九八度は、修正した予測曲線からも大きくはずれている。
九州電力広報部は「試験片の九八度というのは、六十六年運転した場合の想定温度。容器本体は八〇度と推定している。六十年運転想定では九一度になる。日本電気協会の定めた新設炉の業界基準九三度を下回っている」と説明。「安全上の問題はない」と主張する。
しかし、井野氏は「予測曲線からあまりにもはずれている。予想式はあてにならなくなっている。根本的に見直し、安全検査を徹底すべきだと訴える。
玄海1号機と同じ問題を抱える老朽原発は、ほかにもある可能性が高い。井野氏はこの点を強く危惧している。
「日本の原発は米国に十年以上遅れて営業運転を始めた。一九六〇年代に運転を開始した米国やドイツの原発は、今ではすべて閉鎖されている。このために日本の原発は老朽化の先頭を走っています」
寿命の延長など老朽化原発多数
原発は当初、三十〜四十年の寿命を想定して設計されていた。七〇年に営業運転を始めた敦賀原発1号機は、二〇一〇年には閉鎖になるはずが、そうはなっていない。住民の反対運動などで新規建設が困難になったことや、既存の原発を延命した方が安上がりということなどから、国は寿命を延長する方針を決めたのだ。
三十年を超えた原発について、電力会社は国に老朽化対策の報告書を提出し、高経年化対策検討委員会で審議して認められると、十年ごとに最長六十年までの延長が可能になる。
玄海1号、敦賀1号、美浜1〜3号、福島第一1〜6号など二十基近くの原発が三十年以上運転されている。敦賀1号、美浜1号、福島第一1号は四十年を超えての運転が既に認められている。今後は五十年、六十年の運転を目指す原発が出てくるかもしれない。
「無理な運転は傷みもひどく」
井野氏は「老朽化すれば、故障やトラブルが増え、メンテナンスが大変になるのが普通。無理な運転をすれば傷みもひどくなる」と指摘する。
玄海1号の九八度はワーストで、五〇度以上の原発は七基ある。ただ、試験片を十年以上検査していない原発もある。
「検査をすれば、玄海1号と同じように脆性遷移温度が跳ね上がる圧力容器はほかにもある可能性は否定できない」
井野氏はあらためて警告する。「全国の老朽化した原発を早急に総点検し、予測以上の脆化を示した原子炉はすぐに廃炉にすべきだ」
佐賀新聞も、昨日の記事で取り上げていた。九州大応用力学研究所・渡邉英雄准教授(照射材料工学)のコメントを紹介している。
http://www.saga-s.co.jp/news/saga.0.1968174.article.html
玄海原発1号機 想定以上に劣化進行か
運転開始から36年が過ぎた九州電力玄海原子力発電所(佐賀県東松浦郡玄海町)1号機の原子炉圧力容器の劣化を判断する指標となる「脆性(ぜいせい)遷移温度」が大幅に上昇、大学の研究者らは異常として問題視し、最悪のケースとして容器破損の可能性にも言及している。九電や国は「安全性に問題ない」と反論。研究者は検証のためのデータ開示を求めるが、九電は「業界規程に基づいて適正に検査しており、検証しても結果は同じ。40年目の高経年化評価時にデータを公表する」としている。
鋼鉄製の原子炉圧力容器は中性子を浴びるともろくなる。電力各社は老朽化を把握するため容器内に同じ材質の試験片を置いて取り出し、緊急冷却した場合などに容器が壊れやすくなる温度の境目となる脆性遷移温度を測っている。劣化が進むほど温度は高くなる。
九電によると、運転開始時の1975年の脆性遷移温度は零下16度。これまで4回取り出した試験片の温度は、35度(76年)、37度(80年)、56度(93年)と推移し、2009年は98度に大幅上昇した。
九電は「試験片は圧力容器よりも多く中性子を浴びる場所に置き、数十年後の圧力容器の劣化状況を予測するためのもの。98度は2060年ごろの数値に当たる」と説明。「圧力容器の現在の脆性遷移温度の推定は80度で、60年間運転した場合でも91度」とし、日本電気協会が定める新設原子炉の業界基準93度を下回っていることを強調する。26日の県民説明会でこの問題を質問された経産省原子力安全・保安院も同様の説明をして「容器が壊れるような状況にはない」と答えた。
ただ、こうした見解に研究者は疑問を示す。九州大応用力学研究所の渡邉英雄准教授(照射材料工学)は「上昇値は本来の予測値から大きくずれ、誤差の範囲を超えている。原子レベルで想定外の異常が生じている可能性がある」と指摘。井野博満東大名誉教授(金属材料学)は中性子の影響を受けやすい不純物が含まれるなど材質が均一でない可能性を指摘したうえで、「緊急冷却で急激に温度を下げた場合、圧力容器が壊れる可能性がある」とする。
研究者は試験片や検査データが開示されていないため詳しい検証ができないとし、電力各社に情報開示を求める意見も強いが、九電は「今後も安全な数値で推移すると判断しているので、すぐにデータを提示する必要はない」としている。