社説
全原発が停止/いったん白紙に戻し議論を
国内の基幹電源だと言われ続けてきた割には、「脱原発」が意外にあっさりと実現した。 唯一稼働していた北海道電力の泊原発3号機が5日、定期検査に入って停止し、国内で稼働中の原発はついにゼロになった。先月まで原発の総数は54基だったが、現在は50基。事故を起こした東京電力福島第1原発の1〜4号機が廃止され、その分が減っていた。 全原発が同時停止する事態を迎えようとは、これまで誰も予想していなかったのではないだろうか。この結果を招いたのは、言うまでもなく福島第1原発事故だ。 炉心溶融(メルトダウン)と大量の放射性物質放出という最悪の原子力災害が現実に起きたことを思えば、全原発が停止してもそれほどの違和感はない。幸い停電や混乱もないことから、「原発を全廃しても大丈夫ではないか」と考える人が多いかもしれない。 もちろん原発ゼロと原発全廃は全く別の話だが、原子力なしでも当面の電力は確保できることが図らずも証明された。 やみくもに原発にこだわることは、もはや国民の理解を得られない。原子力依存からの脱却も含めて、真剣に検討すべき時期に差し掛かっている。じっくり白紙で議論する中から、結論を見いだしていくべきだ。 政府や電力各社が訴えてきた「30%の基幹電源」は、原発なしでは電力の安定供給ができないかのような印象を与えてきたが、30%は発電実績を示しているにすぎない。電力各社が持つ発電能力(設備容量)の30%を原発が占めているとも取られかねないが、そうではなかった。 資源エネルギー庁のデータによると、国内の10電力を合わせた電源別の設備容量(ことし2月)は、火力が全体の60.4%と圧倒的に多く、原子力22.3%、水力17.1%と続く。 設備的には水力と大差ないのに発電量が全体の30%になるのは、原発をできるだけフル稼働させ、その分、火力発電所などを調整用として使ってきたからだ。電力の消費量は増減するため、それに対応して発電量の調節も必要になる。 電力各社の経営を考えれば、調整用に使わない原発は確かに「基幹電源」だろうが、設備容量の点では火力の方がずっと大きい。 現に福島第1原発事故後、電力各社は主に火力で原発の分を補い、問題なく電力を供給してきた。ただ、天然ガスなどの燃料費は高騰しており、このまましばらく原発ゼロが続いた場合、夏場の電力需給とともに収支悪化の問題が浮上してくる可能性はある。 仮にその打開策が必要だとしても、原発再稼働に即座に結び付けるべきではない。同様に電力需給が逼迫(ひっぱく)するからといって即、ゴーサインとはならない。 この1年で、原子力に対する国民のまなざしは格段に厳しくなった。安易に原発に頼る姿勢は信頼を得られない。まさに「ゼロベース」で見直す時だ。
2012年05月06日日曜日
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