平成22年の著作権法改正で、海賊版と知りながら音楽や映像をダウンロードすることは違法となったが、「個々の違法性が軽微」として罰則化は見送られていた。しかし、その後も違法ダウンロードは絶えず、音楽・映像業界にとって罰則化を求める声は切実だった。一方、利用者がどの時点で海賊版と認識するかの線引きの難しさなどから罰則化に反対の声は根強い。
■音楽産業に大損害
修正案に携わる自民党の河村建夫衆院議員は「(前回の改正以降)状況は改善されておらず、音楽産業に多大な損害が発生している」との認識を示す。日本レコード協会が昨年3月に発表した推計では、年間の違法ダウンロードは年間43億6千万ファイルで、正規の音楽配信の販売価格に換算すると6683億円に上る。協会では「この額が単純に被害額とイコールになるわけではないが、被害は大きい」と強調する。
動画サイトに投稿されたものを簡単にパソコンなどにダウンロードできるソフトも公開されており、海賊版をコレクションする人もいる。レコード会社など31社は昨年8月、大手動画サイト「ユーチューブ」の動画や音楽を無料ダウンロードできるサイトを運営する業者に、サービス停止などを求め提訴するなど、違法ダウンロード防止の取り組みを進めてきた。
■未成年者の摘発危惧
一方、反対するネットユーザーらは、修正案が摘発の前提とする「違法性の認識」の判別の難しさを指摘する。ネットでは違法ではない正規の音楽ビデオなどが宣伝のために無料配信されることも珍しくない。前回の法改正で、著作権者が違法ダウンロードしたユーザーに民事訴訟を起こすことは可能となったが、「ユーザーが提訴された例は聞いたことがない」(文化庁著作権課)といい、「違法性の認識」の判断については、判例がない状態だ。
このため、日本弁護士連合会は昨年12月、「私人に違法かどうかの判断を求めるのは酷な場合が多い」などとして罰則導入に反対を表明している。
メディアジャーナリストの津田大介氏は「罰則が設けられれば、事情を分からない人が1クリックで犯罪者になってしまう恐れがある」と指摘。また、「違法ダウンロードは未成年者が多いが、彼らの摘発で抑止効果を狙うのは青少年健全育成の面で問題がある」と批判している。(織田淳嗣)