1970年代までのテニスというスポーツは、とてもむずかしかった。わずか70平方インチのストリング面の真ん中でボールをとらえなければ、面ブレのためにグリップは簡単に回され、ボールは自分の意志とは違う方向へ飛んでいってしまう。多くの人が「テニスを始めたい……でもむずかしい」と感じていた。
そんなテニスを世界的に広める革命を巻き起こしたのが、ハワード・ヘッドが発明した【プリンス】の「ラージサイズラケット」だった。110平方インチのフェイス面積は、数値上は従来の約1.5倍ながらも、プレーヤーたちの目にはまるで2倍もあるかのように映った。
広いスウィートエリアを実現した「デカラケ」の登場により、誰もがラリーを楽しむことができるようになった。こうしてテニスは一気にイージーなものとなるが、当時はまだ「デカラケは初級者のための道具」と言われていた。
が、しかし、異変はすぐに起こった。1980年代を待たずして、デカラケを使用する新世代プレーヤーたちが世界の大舞台で活躍し始める。彼らは「テニスを始めたときからデカラケがある」環境で強くなった。プレーの幅を飛躍的に拡大させたデカラケは、もはや初級者のためだけの道具ではなく、トッププロにとっても多大なメリットをもたらしたのだ。
こうして【プリンス】のデカラケは、世界のトップ&ボトムから認知され、史上最大のテニスブームを創世していったのだ。
あれから30年の間に、テニスラケットに使用される素材とそれを構築する技術は驚くほどの進歩を遂げ、厚くなくても、大きくなくても「楽に飛ぶ」、あるいは「強烈にパワフル」な性能を確保することができるようになった。その結果、今日のラケットの主流は「97〜100平方インチ」となっている。とくに競技者カテゴリーでは、ショップ店頭でも「100平方インチまで!」みたいな先入観をもって語られることが非常に多い。
しかし、ここで思い出してほしい。かつて「デカラケは初級者のラケットだ」という思い込みが打ち砕かれた33年前のことを。フェイスサイズの大きさは、ハイレベルテニスの邪魔になるどころか、新しい戦い方をもたらしたのだ。
【EXO3 グラファイト105S】は、「プリンスの遺伝子」を現代に再生するために誕生したのだと思う。105平方インチはとくに大きなフェイスサイズではないが、今日の競技者たちにとってはデカラケだ。だが逆に、かつてそうであったように、そこにはかならず「戦略上のメリット」が潜んでいることを知るべきである。勝てるラケットなのかどうかは、ラケット自体の問題ではなく、競技者たちがそのメリットを「どう使うか!」にかかっている。自分の戦い方のメリットを存分に引き出せるラケットを選ぶことが、勝利への近道なのである。
最初に【EXO3 グラファイト105S】を見て誰もが思うだろうこと……、それは「【100】があるのに、どうして【105】?」「5平方インチの違いって何?」ということだろう。だが、そんな状況にプリンスがあえて【105】を投入したのは、明確な裏付けがあってのことだった。
【EXO3 グラファイト105S】の存在価値は「スピン性能」にこそある。わずか5平方インチの違いは、一般プレーヤーにもプロにもはっきり感じ取ることのできるレベルで「明らかなスピン性能」をもたらした。それは【100S】とは違う戦い方を競技者たちに提供するものである。
この2機種の試打結果を比べると、「【100S】は速さの攻撃性、【105S】はスピンによる立体的攻撃性」という言葉がマッチするだろう。相手から時間を奪うのが【100S】、相手から自由さを奪うのが【105S】なのだ。
戦略的アイテムとしてどちらを選択するかは、あなたのプレースタイルしだいである。
スピンというのは、それなりの打ち方をしさえすればどんなラケットでも繰り出せる。ただ、そのラケットによって「打ち方を決められてしまう」ショットでもある。スピンがかかりにくいラケットで無理に回転をかけようとすれば、スウィングパワーの推進力ベクトルをスピンのために奪われるため、十分なスピードを得られない。
だが「フェイスサイズの大きさ」「トップ側へのスウィートエリアの広がり」を先天的に与えられた【EXO3 グラファイト105S】は、自然なスウィングをしても十分なスピンがかかる。思い切ったスウィングをしても、安定した打球がベースライン内に確実に収まる。【105】のスピン量、【105】のパワー、両者のバランスがカチッと噛み合ったからこそ、このラケットは世に送り出された。
先日、このサイトで紹介される動画撮影に立ち会う機会を得た。ウォームアップのために【EXO3 グラファイト105S】で打ち合う丸山薫氏と山本育史氏が最初に口にした言葉は次のようなものだった。
「とっても楽にスピンがかかります。今なら間違いなくこれを選びます!」
丸山氏は【110】で世界に挑み、山本氏は【90】でトップを戦い抜いた。その二人が40代になった今、ともに【105S】を選んだというのは興味深い。【105】でも【110】に劣らぬパワーを備え、【90】にも負けないコントロール性を実現する……しかも「楽に」!
単にフェイスサイズの大きさとスウィートエリアがトップ側に広がるせいだけでなく、ボールとストリング面との接触感覚を把握しやすいフレーム構築が、彼らのパフォーマンスを刺激したのだと感じた。
直線的なスピード感で選ぶなら【EXO3 グラファイト100S】、プレーの自由度と快適さで選ぶなら【EXO3 グラファイト105S】だろう。
【EXO3 グラファイト100S】【EXO3 グラファイト105S】が丸山薫・山本育史両氏の感覚を強く揺さぶったのが、「Type-J」コンセプトから生まれた「Jフレーム構造」だった。
プリンスの技術力が完成させた【EXO3 】フレームは、類い稀なフレーム剛性によってストリングが持つ弾力性能を存分に引き出すことができるが、日本オリジナルの「Type-J」コンセプトは、日本人が好む感覚と潜在性能とを同時に実現するために、複合的スペックによって構築されたものである。
日本のプレーヤーは「打球のホールド感」をとても重要と考える。プリンスは、その感覚を実感できるよう、フェイスの斜め方向4ヶ所に柔らかさを持たせた「J・フレーム」で、ストリング面の撓み感とインパクト時に上下左右のフレームを内側へ引き込むような変形を促し、ボールをくわえこむ感覚を強調した。ハイレベルプレーヤーは、この間のインパクト情報を元に、反射的に調整を加えて打球をコントロールする。開発陣は、インパクト→情報取得→反応というシステムを絶妙にシンクロさせるため、ストリングパターンからフレームのしなり感まで、すべてのスペックを徹底的に見直し、完璧な調整を施して仕上げたのである。
その結果このシステムは、日本人にとって「コントロール性の高さ」と感じる要素を大きく増幅させることとなった。だからこそ【EXO3 グラファイト105S】は安心して振ることができ、確実性も高いアイテムとしての完成を見たのだ。
「かつて【プリグラ】を使っていた」という方! 今、時代を超えてあの感覚が帰ってくるのだ。現代のスピード&パワー&スピン性能に対応した【EXO3 グラファイト105S】は、おおいに試す価値ありだと思う。