(cache) 世界銀行年次報告書2009|2009年度の概要:中所得国

中所得国

中所得国は、世界の貧困層の3分の2近くが暮らしており、数多くの開発課題に直面しています。生産的雇用を創出する成長を持続させると同時に、貧困を削減し、不均衡を是正しなければなりません。不安定な資本の流れ、偶発債務、金融市場、年金などから生じるマクロ経済的リスクも管理しなければなりません。世界的な脅威に対処するための危機管理能力も構築しなければなりません。また、競争力を高め、クリーン・エネルギーを採用し、環境の持続可能性を確保し、存続可能な市場経済を支える制度構造やガバナンス構造を強化しなければなりません。

現在の金融危機により、中所得国に対する世銀の取り組みの必要性が高まりつつあります。IBRDは中所得国がこうした課題に対処するのを支援することができます。先進国で始まった金融危機が中所得国の堅調な成長を妨げ、貧困削減の取り組みを大幅に減速させるおそれがあります。この金融危機は二面的な影響をもたらします。第一に、中所得国は、資本市場へのアクセスが制限され、償還期間が短期化し、金利スプレッドが拡大するなど、金融市場で厳しい状況に直面しています。そして第二に、世界的に景気後退が進んだことにより経済成長率が急落し、失業が増え、貿易、一次産品価格、観光、送金、投資が減退しています。世銀は、分析活動と貸出を通じてこうした事態に精力的に対応しており、危機対応および予防的措置においては資本市場へのアクセス、社会的セーフティネット、インフラ維持に重点的に取り組んでいます。

IBRDの役割

IBRDはトリプルAの格付けを得ている金融機関で、他の金融機関にはないいくつかの特長を備えています。たとえば、IBRDの株主も支援対象国も各国政府です。これらの政府はいずれもIBRDの政策決定に発言権を持っています。世界的な開発協同機関であるIBRDは、加盟国による公平で持続可能な経済成長の達成のために協力し、経済開発や環境の持続可能性における地域的あるいは世界的な問題の解決策を見出すことを目的としています。いずれも、貧困の削減と生活水準の向上の観点から行われるものです。IBRDは、こうした目的を達成するための主な手段として、融資やリスク管理商品をはじめとする金融サービスに加え、開発関連分野の専門家や知識へのアクセスも提供することにより、借入国が開発関連の目的に使用する資金をプールし、管理し、優先させることができるようにしています。

IBRDの金融サービス

2009年度のIBRDの新規融資承認額は、126件のプロジェクトに対する329億ドルへと大幅に増加し、10年前のアジア金融危機の際に記録した過去最高水準(1999年度の220億ドル)を上回りました。政策融資の占める割合は全体の47%で、2008年度の29%から上昇しました。

IBRD新規融資承認額の配分が最も多かったのはラテンアメリカ・カリブ海地域で、138億ドル(全体の42%)を受け取りました。次いでヨーロッパ・中央アジア地域が90億ドル(27%)、東アジア・大洋州地域が69億ドル(21%)でした。2008年度と比べて融資の集中度は低くなっています。2008年度は上位5か国が全体の約53%を占めていたのに対し、2009年度はブラジル、中国、インドネシア、メキシコ、ポーランドの5か国への融資承認額の合計はIBRD融資全体の49%でした。

セクター別に見ると、IBRD融資額が最も多かったのは法律・司法・行政(69億ドル)、次いで運輸(49億ドル)、保健・その他の社会サービス(43億ドル)でした。テーマ別で見ると、最も多かったのは金融・民間セクター開発(72億ドル)、次いで社会的保護・リスク管理(45億ドル)、環境・天然資源管理(45億ドル)でした。図3.10 ~ 3.12は、IBRD融資をそれぞれ地域別、テーマ別、セクター別で分類したものです。開発政策融資の承認額一覧は本年次報告の付属CD-ROMをご覧ください。IBRDは、借入国に対し、通貨、金利、物価、自然災害関連のリスクを管理するためのリスク管理商品を提供しています。2009年度、IBRDは借入国に代わって128億ドル相当のヘッジ取引を実行しました。このうち117億ドル相当が金利ヘッジ、11億ドル相当が通貨ヘッジ(すべて現地通貨)でした。これに加え、財務局が予防接種のための国際金融ファシリティに5億ドル相当、事前買取制度に5億ドルの融資を実行しました。

IBRDの原資

IBRDは国際資本市場で債券(世銀債)を発行することにより、資金の大半を調達しています。2009年度は443億ドルの中長期資金を調達しました。多様な償還期間とストラクチャーを持つ世銀債が19種類の通貨で発行されました。厳しい市場条件にかかわらずIBRDがこのように多額の資金を非常に有利な条件で調達することができているのは、資本市場におけるその立場と財務の健全性によるものです。IBRDの健全な財務体質を支えている堅実な財務方針と運用は、IBRDがトリプルAの信用格付を維持する上で重要な役割を果たしています。協同組織であるIBRDは、利益の最大化よりも、健全な財務体質を維持し、開発活動を継続するために必要な利益の確保を重視しています。

2009年度のIBRD業務利益は、世界的な金融や経済の混乱により5億7200万ドルとなり、2008年度の22億7100万ドルを下回りました。業務利益がこのように減少した主な要因は、2008年度報告に比して利息の減少と融資および保証の損失引当金の繰入れです。2008年度後半に実施された資本長期化プログラムにより、IBRDの業務利益は金利の大幅な低下の影響をほとんど受けませんでした。2009年度純利益から、3600万ドルは長期利益資産引当金に、2500万ドルは退職給付引当金に、1100万ドルは用途制限付き利益剰余金勘定に繰り入れられました。2009年8月、理事会は、総務会が2009年度純利益から5億ドルをIDAへ、さらに追加で剰余金勘定から2億8330万ドルをIDAへそれぞれ移転することを承認するよう提言しました。IBRDは業務を遂行するのに十分な流動性を保ちました。

2009年6月30日現在の当座資産は約382億ドルでした。同日現在、IBRDの資本市場からの借入金残高(スワップ後)は約1036億ドルでした(図3.13参照)。融資実行額の合計は1057億ドルでした。開発機関であるIBRDにとって、最大のリスクは途上国に融資や保証を提供することによるカントリー・リスクです。金利や為替レートの変動リスクは最小限に抑えられています。世銀のリスク負担能力の基本指標となる資本に対する貸出の比率は、世銀の財務・リスク見通しに基づいて厳格に管理されています。2009年6月30日現在の資本/貸出比率は34.5%でした(図3.14参照)。