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第十三話 弱味散策







フィーはまずヴェルフェスが何が知られたくないのかを考える。
と言っても自分にとって知られたくない事をリストアップしているだけだが。

「知られたくない事と言えば、これぐらいだと思うけど・・・」

フィーは自分の知られたくない事をメモした紙を見ながら呟く。
そのメモには、自分の体重、スリーサイズ、異性のタイプなどが書かれていた。

「うん! この三つを知られたらおしまいだよね! よし、行こう!」

フィーは自分の知られたくない事はヴェルフェスも知られたくない事と同じだと思っているらしい。
男性に体重もスリーサイズも知られても恥ずかしい事では無いと言うのに。
こうして、ヴェルフェスストーカー作戦が始まった。





フィーはまず何をしたかと言うと、変装である。
帽子を深く被り、グラサンをかけ、なぜかちゃっかりコートも羽織っている。
そして手にはメモ帳とペンを握りしめている。
髪の毛は隠せないので後ろで一つにまとめている。
ちなみに現在は学校の授業は終わっているのでサボってはいない。
と言ってももう日が沈みかけている頃だが。

(・・・・・来た!)

そうこうしている内にもヴェルフェスがフィーの視界に入ってくる。
ここで追加するが、学校内ではなくここは学校の外である。
昼は市場として賑わっているこの場所は、夜になると非常に物騒になる。
それは裏道でよく見かける光景がこの大通りで平気で行われる位だ。
ヴェルフェスはフィーの存在に気づいていないのか、大通りを真っ直ぐに突き進む。
その後をフィーがコソコソとゴキブリの様についていく。
だがここでフィーはある疑問を抱く事になる。

(あれ? たしかこっちって魔物の出る森じゃなかったっけ?)

そう、ヴェルフェスは今この街の近くにある森に向かっているのだ。
その森は昼は子供の遊び場だが、夜になると一変し魔物が出現し始めるのだ。
ちなみにルーオブ剣魔術育成学校が中心にあり、それを囲む様に街がある。
大通りは東西南北四つあり、現在ヴェルフェスとフィーは東にある森に向かっている。
そして、ヴェルフェスとストーカーをしているフィーは森についた。
ヴェルフェスは刀を鞘から抜くと、森の中へと入っていった。

(えぇ! 今入るの!?)

フィーが驚くのも無理はない。今はもう夕暮れなのだから。
若干オドオドしながらも、フィーはその怪しい服装のまま森の中へと入っていった。








どれくらい歩いただろうか、もう空は薄暗くなってきている。
フィーは魔物に遭遇しない事を祈りながらも、ヴェルフェスを追跡する。
すると突然、ヴェルフェスは歩みを止めた。
フィーはすぐさま側にあった木に隠れると、気配を消せるように呼吸の回数を減らす。

(まさか、ばれたんじゃ・・・)

フィーは不安になりながらも木からそっとヴェルフェスの方を向く。
だが、そこにはヴェルフェスの姿は無かった。

「嘘! 見失ったの!?」

「いーや、お前は見失ってはいないぞ」

背後から首元に冷たい物を当てられると、フィーはビクっとしてゆっくり振り向く。
そこには、刀をフィーに向けているヴェルフェスがいた。

「さぁストーカー野郎、どう殺して欲しい?」

ヴェルフェスがその鋭い眼光でフィーを睨めつけると、フィーは観念したかの様にグラサンと帽子を取った。
そして、自分の素顔をヴェルフェスに見せた。

「・・・・・・何をしているお前は」

「・・・・・ごめんなさい」

ヴェルフェスが呆れた様に声をかけると、フィーは頭を下げた。

「お前はなにか勘違いをしているようだな」

「え? 勘違い?」

「そうだ、お前は俺を過大評価しすぎている」

ヴェルフェスは刀を鞘に納めると、フィーの目を見て話をする。

「俺は確かにお前を助けたし仮のパートナーでもある。だがそれはお前と正式なパートナーを組むのに不十分な条件だ。それに俺が誰からも嫌われている事はお前も知っている筈だ。それでもお前が俺と組みたがる理由はなんだ?」

「そ、それは・・・・・・」

ヴェルフェスの的確な指摘に対し、フィーは俯きながら返答の内容を考える。
その様子をみたヴェルフェスはフっと鼻で笑うと、そのままフィーに背中を見せる。

「まさか、恩返しとでも言いたいのか?」

「そ、それもあるけど、もっとちゃんとした理由があるの!」

フィーは顔をあげるとヴェルフェスの正面に回り込む。

「あなたを、ヴェルフェス君を救いたいの!」

「・・・・・俺を救う?」

「そう、私はヴェルフェス君が何よりもみんなから孤立しているのが嫌なの! だから私とパートナーになってみんなと仲良くして欲しいの!!」

フィーは自分の意見をヴェルフェスにぶつけると、更にヴェルフェスに近づく。

「そうすれば、劣等品なんかじゃなくなるし、お姉さんも見返せるよ!」

「ネリスは関係ない。それに、お前と組んだところであいつらの態度は変わらないさ」

ヴェルフェスはフィーの意見を払い除けると、そのまま歩き出す。
だがフィーは負けじとヴェルフェスの片腕を両手で掴む。

「そんな事言ってるからみんなにバカにされるんだよ!」

「別にバカにされたってあいつらが危害を加えていないなら俺は何もしない」

「バカ! 分からず屋!!」

パンっと言う音が、森の中に響く。そう、フィーはヴェルフェスの顔にビンタを入れたのだ。
ヴェルフェスの頬に赤い痕が残ると、それを見たフィーは自分の行った行動にショックを受けたようだ。

「・・・・ごめんなさい」

フィーは俯きながらそう言うと、そんな様子をみたヴェルフェスは口を開いた。

「フィーとか言ったな。悪いことは言わない。俺に関わるのはもうやめろ」

ヴェルフェスの放った言葉に、フィーは耳を疑った。

「俺が劣等品であることに変わりはないんだ。それにお前は優しい奴だ、他にもパートナーになってくれる奴は幾らでもいる」

「でも、それじゃあヴェルフェス君は一人になっちゃうよ」

「いつもの事だ。お前が心配する事は無い」

ヴェルフェスはフィーにそう言うと、そのまま森を出るために足を動かす。
しかし、フィーの考えは変わらないようだ。

「・・・・・どうして一人になろうとするの?」

「それが俺にとっても誰にとっても最善の事だからだ」

「あなたのお姉さんはなんにも思って無いの?」

「平気で弟を殺しにくる姉さ。同情はしていないだろう」

「先生達はあなたが一人でいることに何も言わないの?」

「マリアや校長も一時期気にしてたが、今では何も言ってこない」

「あなたを心配してくれる人はいないの?」

「くどい、もう質問するな」

ヴェルフェスはフィーの質問攻めに嫌気がさし、ヘッドフォンをすると再び足を動かす。
フィーはヴェルフェスの後ろ姿を見て、彼が学校でどんな環境でいるのかが嫌でも分かった。

「・・・・・・・・帰らなきゃ」

フィーは自分の無力さに大きなショックを受けるが、家に帰るためにその足を動かし始めた。












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