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第十二話 説得

「それでは皆さんに業務連絡をしまぁ~す!」

マリアは自分の手に握られたプリントを掲げてそう宣言する。
と言ってもクラスの生徒達はほぼノーリアクションだが。

「センセー、その連絡ってなんっすかー?」

マリアの宣言に対して、生徒達はツッコミを入れる。
そのツッコミを聞いたマリアはニっと笑みを浮かべた。

「そ・れ・は、パートナーの正式決定する事でぇ~す!」

そうマリアが言った途端、生徒達の表情が一変した。
なぜ一変するのかと言うと、正式なパートナーを組むからだ。
この学校では主に二人一組で魔物の討伐やレポートに取り組む。
二人で協力するため、そこには絶対的な信頼関係が必要となる。
また、そこで親密な関係になって恋人や親友となるのだ。
つまり、これはある意味生徒達を盛り上がらせる事でもあるのだ。

「決定期間は一週間!! その間に誰と組むのか決めてくださいねぇ~」

マリアはそう呑気に言うと、教室から出ていった。
それと同時か少し早いくらいに生徒達が一斉に動き出す。
それもフィーに向かって、だ。

「フィーちゃん! 俺と組んでくれ!!」

「そして恋人になってくれ!!」

「なに言ってんのよ! フィーちゃんは私のものよ!!」

「そうよ! あんた達みたいな野蛮人には絶対譲らないわ!!」

クラスの男子と女子がフィーをどうするかで激しく討論を繰り広げる。
その中にはフィーの意見はもちろん入っていない。

「み、みんな落ち着いてよ。そんな血相を変えなくても・・・・」

「なに言ってんのよ! フィーちゃんはこの学校の三大美女に入ってるのよ!」

「そうだ! フィーちゃんは蒼い鳥。フェンさんは深緑の魔女。そしてネリス様は漆黒の戦乙女と呼ばれるほどなんだぞ!」

フィーはこの学校に来てからあまりたってないが、人気は相当の物である。
ちなみにこのあだ名は誰が決めたのかは不明である。

「で、でも私そんな強くないし・・・・迷惑じゃないかな?」

フィーがうるうるとした瞳でクラスの生徒達を見ると、全員がその場に倒れこむ。

「な、なんと言う破壊力! 父性をくすぐられる!!」

「いいえ! 母性もくすぐられるぐらいだわフィーちゃん!」

倒れこんだ生徒達はゆっくりと立ち上がるとフィーに視線を向ける。
そして、一斉にある質問をするのだった。

「「フィーちゃん! 誰とパートナーになりたい!?」」

「わ、私は・・・・・」

モジモジとするフィーは自分の隣の席にチラっと視線を送ると、そこには誰もいなかった。

(あれ? どこ行っちゃったんだろう?)

フィーは自分の抱いた疑問を解決するため、教室を出ていくのだった。
無論クラスメイト達を掻き分けてだが。
















「・・・・・パートナー・・か」

大木の枝の上で、ヴェルフェスはそう呟くとフっと笑う。

(何を言っているんだ俺は。どうせ誰も組んでくれないし組む気も無いのにな・・・)

そう、彼は学校内ではほぼ全員に嫌われているのだ。
これまでも正式にパートナーを組む機会はあったのだが、ヴェルフェスは誰とも組まなかった。
その度に二人分の魔物を狩ったりレポートをまとめるのは大変だったが、なんとかしてきた。
今回もそうすると決めているヴェルフェスは、ヘッドフォンをすると睡眠を取るため目を閉じた。



だが、今日は睡眠が取れなさそうだった。

「ヴェルフェス君、いるの?」

そう、フィーがこの大木にやって来たのである。
なぜ知っているのかと言うと、マリアにヴェルフェスの場所を聞いたからだ。
マリアはヴェルフェスの場所を聞かれると、嬉しそうな笑みを浮かべ、

「ヴェル君は校庭の木の上にいるよぉ」

と、言ったのであった。
ヴェルフェスは無視しようと考え、ヘッドフォンの音量を上げて目を閉じる。
だがフィーもヴェルフェスがいることは確信しているので、そのまま口を閉じようとしない。

「パートナーの事なんだけど、その、私と組んでくれない?」

フィーはヴェルフェスに一方的に話続けるが、彼は無視を続ける。
そんなヴェルフェスに頭がきたのか、フィーはムっと頬を膨らませると、大木に登り始めた。
もともとフィーは運動神経は良い方なので、少しずつだが大木の枝の距離を縮めていく。
そして、大木の枝に手を伸ばし、枝の上によじ登った。

「よいしょっと、ようやくついた・・・」

フィーはふうっと息を吐くと、木にもたれ掛かっているヴェルフェスに視線を向ける。
ヴェルフェスはそんな彼女に気づいていないのか知らないが、ずっと視線を一定の場所に向けている。
フィーは一瞬ムカっとしたか、ヴェルフェスの見ている方を向くと、そこには鳥の巣があった。
その巣の中には二つの卵と、それを温めている親鳥の姿があった。

「あの鳥はな、前からずっと温めてるんだ。自分はエサの一つも食べないでな・・・」

「・・・・そうなんだ」

ヴェルフェスの放った言葉に一瞬驚くが、フィーは彼がどんな人なのかを考え始めた。

(ヴェルフェス君はほんとは優しい人なのかな? あの時も結局助けてくれたし・・・)

じゃあなんであんな態度なのだろう、とフィーは考えていると、パキっと言う音が耳に入る。
フィーは鳥の巣の方をみると、そこには卵から孵った雛鳥の姿があった。
親鳥もピヨピヨと鳴きとても幸せそうに見えた。
ヴェルフェスはその様子を見ると、興味を無くしたのか大木から飛び降りた。

「あ、待って!」

フィーも彼を追うために大木から降りようとするが、これが中々の高さがある。
ゴクっと唾を飲み込むと、フィーは勇気を振り絞り飛び降りた。
飛び降りている間に体制が崩れることはなかったが、地面に着地した途端足がジンジンする。

「うぅ、結構痛いな・・・」

フィーが自分の足を擦っていると、ヴェルフェスは何事もなかったかのように歩きだす。

「ヴェルフェス君! 待ってよ!」

フィーは自分の足が痛むのを我慢し、彼の後ろを追う。

「待って、せめて話だけでも聞いて!」

ヴェルフェスに懇願するが、やっぱり彼は無視を解こうとしないようだ。
フィーは足の痛みは多少残っているが、ヴェルフェスの前に回り込む。
ヴェルフェスはため息をつくと、ヘッドフォンを取り外す。

「俺に何の用だ?」

ヴェルフェスの脅しのような声に一瞬ビクっとするが、フィーは負けじと彼に話しかける。

「私とパートナーを組んでくれない?」

「断る。じゃあな」

「ちょっと待って! どうして断るの!?」

速攻で断ったヴェルフェスだが、フィーに質問をされたのでその場に立ち止まった。

「じゃあ聞くが、どうしてお前は俺と組みたいんだ?」

「え、それは・・・・その・・・・そう! 私を助けてくれたから!」

「そんなんで理由になるかよ。じゃあな」

フィーの返答にヴェルフェスは呆れたような表情をすると、彼女に背を向ける。
だがフィーは彼が背中を向けると同時に彼の手首を掴んでいた。

「お前しつこいぞ。何度言えば分かるんだ?」

「どうしてそんなに私と組むのが嫌なの? 私ってそんな魅力無いの?」

「無い。じゃあな」

ヴェルフェスはフィーの手を払うとヘッドフォンをつけて歩き出す。
フィーは即答された事にショックを受けるが、ある作戦が頭の中に閃いた。
閃いた内容とは、とても汚い方法だった。









それは、ヴェルフェスの秘密を知って脅すことだった。




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