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第十話 学園最強


「そう言えば、今日はSランクの見学会だったか・・・」

校庭にそびえ立つ大木の枝の上で、ヴェルフェスは今日の日程を思い出す。
しかし、彼にとってはSランクは虫酸が走るほど嫌いなクラスでもある。
なんせ、自分を劣等品として見下している連中のトップだからだ。
と言っても、そのSランクでもヴェルフェスの事を見下さない生徒もいる。
例えば、今この大木の根元からヴェルフェスを見上げている人物もそれに入っている。

「おいソーマ! いつまでそこに立ってるつもりだ!!」

ヴェルフェスは大木の根元にいる人物に向かって叫ぶと、ソーマと呼ばれた人物はフっと笑みを浮かべる。
その人物の髪は青く、瞳も同じ青色だ。顔つきもキリっとしている。
服装は、なんでもとある国で拳法をやる人物の着るものらしい。
女性は赤色の物を着用しているのだとか。ちなみに彼は緑の物を着ている
そして、腕には副生徒会長の腕章がつけられていた。

「君が僕と戦ってくれるまでは、僕はここにいるよ」

ソーマはヴェルフェスに向けてそう言うと、再び目を閉じて瞑想を行う。
そんなソーマの様子にヴェルフェスも嫌気がさしたのか、大木から飛び降りる。
スタっと着地すると、さっきまで瞑想をしていたソーマはゆっくりと目を開いた。

「珍しいね。こんなに早く折れてくれるとは、何かあったのかい?」

「別に何かあった訳じゃない。ただ単にさっさと終わらせたいだけだ」

ヴェルフェスがそう答えると、なぜかソーマはフっと笑みを浮かべる。

「で、今日はどこでやるつもりだ?」

「そうだね、今日はグラウンドでやろうか。丁度僕らのクラスの訓練が終わったみたいだからね」

ソーマはヴェルフェスに場所を告げると、グラウンドに向かって歩き出す。
ヴェルフェスはヘッドフォンをつけてから、ソーマの後に嫌々ながらついていく。
そしてグラウンドにつくと、ある程度の距離をおく。
ちなみに現在学校の生徒達は教室で勉強をしているため、誰もグラウンドにいない。

「それじゃあ、準備はいいかい?」

「俺としては準備もしたくないがな」

ソーマの質問にヴェルフェスは自分の素直な気持ちを吐き出す。
そんなヴェルフェスの返答にソーマはまるで気にしていないようだ。

「ヴェルフェス。君は人に対していつもそんな風なのかい?」

「だったら何だ? 説教でもするつもりか?」

「いや、そう言う訳じゃないさ。さて、そろそろ始めようか」

ソーマは手に自分の武器であるトンファーを持つ。
彼のトンファーは全て鉄でできているため、金属特有の光沢がでている。
ヴェルフェスはそのトンファーを見ると、少し顔をしかめる。

「ソーマ、お前どうして魔方陣から武器を出さない? お前はSランクの生徒だろ?」

ヴェルフェスはソーマに自らの疑問を投げ掛ける。
このルーオブ剣魔術育成学校のSランクの生徒は、魔方陣から武器を作る技術を身に付けている。
他の生徒達も魔力はあるが、それは決して魔方陣を作り出せる程ではない。
つまり、魔方陣を作り出せるのは、Sランクの生徒の特権なのだ。
しかしソーマは魔方陣を作らずに、一般的な武器を構えている。
そこにヴェルフェスは毎回疑問を抱いていたのだ。
ヴェルフェスの質問を聞いたソーマは、またフっと笑う。

「確かに僕は魔方陣を作れるけど、それじゃあ君に勝ったとは言えないじゃないか。だいたい、そんな事で勝ったって自慢にもならないよ。僕が純粋に求めるのは、自分の力で勝つことだからね」

ソーマは不適な笑みを浮かべながら、ヴェルフェスに自分の主張を聞かせる。
それを聞いたヴェルフェスは、何かに納得したように頷くと、刀を構える。
今回は相手が両手に武器を持っているため、右手に刀を。左手に鞘を持つ。

「さぁ、いくよ」

ソーマの一声と共に、二人の戦闘が始まった




まず最初に動いたのはソーマだ。
ヴェルフェスに一気に近づくと、右のトンファーで殴りかかる。
その一撃をヴェルフェスは鞘で受けると、反対から来る一撃を刀で弾く。
トンファーを弾いた刀でヴェルフェスはソーマに袈裟斬りをするが、その一撃は右のトンファーで防がれる。
ソーマは弾かれた左のトンファーでヴェルフェスの横腹目掛けて振るが、バックステップによって回避される。
後方に下がったヴェルフェスは右足で跳躍すると、ソーマに刀を振り下ろす。
その一撃をソーマを両方のトンファーをクロスさせて防ぐ。
それを予測していたのか、ヴェルフェスは鞘でソーマの横腹に重い一撃を入れる。
しかしそれよりも速い速度でソーマは刀を弾き返し、トンファーで鞘を受け止める。
ガチガチと鍔迫り合いの様な状態になると、ソーマは右足でヴェルフェスの横顔に蹴りをする。
ヴェルフェスはその蹴りを前屈みになるようにしてかわすと、隙だらけの彼の鳩尾に膝蹴りを入れる。

「がはっ!」

ソーマは鳩尾に走った激痛に顔を歪ませるが、すぐに後方に下がる。
だがヴェルフェスはその反応を読んでいたかの様に一気に接近し、ソーマの心臓目掛けて突きを放つ。
しかしソーマはその急襲にも反射神経を働かせ、トンファーで刀を横に弾く。
そしてもう片方のトンファーでヴェルフェスのこめかみに一撃を入れる。
その一撃をヴェルフェスはなんとか鞘で防ぐと、後方に下がる。
息を切らしているソーマに対し、ヴェルフェスは余裕の表情を見せている。

「まさか・・・・自分がこんなに魔力強化に頼っているなんてね・・・・」

ソーマはそう呟くと、疲労がピークにきたのかその場にしゃがみこむ。
この学校にいる生徒は、誰しも魔力を宿している。
その魔力を肉体に纏わせる事で、通常よりも身体能力を上げる事ができるのだ。
だが、ヴェルフェスは生まれつき魔力の無い体だった。
それによって、彼は他の生徒より弱いのだ。
と言っても、生徒達が魔力を使わなければヴェルフェスの方が強いだろう。
ソーマはゆっくりと立ち上がると、再びヴェルフェスと向き合う。

「それじゃあ、魔力を使うよ」

「おいおい、結局使うのかよ。さっきのお前は何処にいったのやら・・・」

「いいじゃないか。君にはそれぐらいしないと勝てないからね」

ソーマはそう言うと、自らの体に魔力を纏わせる。
魔力を纏わせると、ソーマの体に青い光が包み込む様に現れる。
魔力で身体能力を強化した場合、微弱な魔力が体から発生する。
その発生した魔力が大気中の魔力と結合し、結果色を出すのだ。
魔方陣も原理は同じで、魔方陣を出すことで大気中の魔力と結合し、様々な色になる。
と言っても大気中の魔力はほぼ無いに等しいので、魔力が全部結合すると言ったことはない。
ソーマは魔力を纏わせ、一気にヴェルフェスに突っ込む。
ヴェルフェスは咄嗟に刀を構えるが、魔力強化されたソーマには反応が遅すぎた。
ソーマのトンファーによる一撃がヴェルフェスの横腹に見事に入った。

「ぐ、がはぁ!」

ヴェルフェスは横腹の痛みに声を上げるが、ソーマは容赦なくもう片方のトンファーで彼を殴る。
それをなんとか鞘で受けるものの、ヴェルフェスは大きく吹き飛ばされる。
ザザザザっとヴェルフェスは砂煙をたてながらなんとか着地をする。
だがソーマはそこから追撃することはしなかった。

「ったく、吹き飛ばしやがって。俺はサンドバックじゃねーぞ」

ヴェルフェスがソーマの悪態をつくと、ソーマは魔力を纏わせる事をやめる。
それと共に彼から発生する青い魔力が消える。

「惜しいね。もし君にも魔力があれば。もしくはこの世界に魔力が無ければ僕を倒せただろうに」

「はっ。良く言うな。学園最強のくせによ」

ヴェルフェスがソーマをからかう様にそう言い放つと、ソーマは苦笑をする。

「僕が強いのは魔力があるからさ。僕の実力では到底君には敵わないよ」

「あっそ、じゃあ俺は帰るぞ」

ソーマの返答を聞くと共に、ヴェルフェスはソーマに背を向ける。

「また君に手合わせしてもらいたいものだ」

「二度と来んな糞野郎」

ヴェルフェスの返事にソーマはやれやれと言ったポーズを取ると、そのまま校舎の中へと入っていった。
無論、ヴェルフェスはそのまま校庭の大木に戻った。






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