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第八話 お礼




ガラガラと言う音をたてて、保健室の扉が開く
その部屋の中にヴェルフェスは二人の暗殺者を運び入れる
幸い保健室にはベットが三つほどあるので、暗殺者をベットに投げ入れる
ドサッと音をたて、ミシミシとベットがきしむ
ヴェルフェスは棚の中からある緑色の液体を取り出す
それは薬草を煮て液体にした、まさしくポーションと呼ばれる代物だ
飲めば病気を治し、傷口に塗ればきれいに治る
まさしく、最高の薬と言うことだ
ヴェルフェスは先程切り落とした腕を暗殺者の傷口にグリグリと当てる
そして丁度いい所でくっつけると、その部分にポーションを垂らす
ポーションは傷口に触れると、シュウと煙をたてながら消えた
それと共に、ポーションが垂れた部分の傷口も消えている
ヴェルフェスはそのまま暗殺者の腕を接着すると、残ったポーションを暗殺者に飲ませる
暗殺者は意識が無いので、素直にポーションを口に含み、胃に流し込む
と言っても、ほとんどヴェルフェスが無理矢理突っ込んでいるのだが

「ったく、めんどくせぇ・・・・」

ヴェルフェスはブツブツと暗殺者に陰口を言うと、そのまま保健室から出ていく
彼は基本、自分を殺しに来た相手を殺さない
魔物だったらお構い無く殺すが、人間の場合は違う
人間はやり直せる事を、彼は知っているからだ
現に彼を殺しにくる輩は少しずつ減ってきている
そこには、彼に勝てないと思う事と、彼なりの優しさを知ったからでもある
ヴェルフェスは首にかけてあるヘッドフォンを装着すると、そのまま教室へと足を向けた








キーンコーンカーンコーン

「それではこれで授業終了ですぅ。みんなさようならぁ」

マリアはパタンと教科書を閉じると、クラスの生徒達にそう告げる

「よっしゃー!! 帰れるぞーー!!」

「早く帰って寝るぞーーーー!!」

「俺は今日補習だぞーーーー!!」

クラスの生徒達はそれぞれ教室から出ていく
そんな中、フィーは自分の席にずっと座って考えていた
そう、ヴェルフェスの事を、だ

「あれぇ? フィーちゃんどうしたのぉ?」

フィーの様子にマリアは疑問を感じ、彼女に声をかける

「あ、先生。ヴェルフェス君知りませんか?」

「ああヴェル君? ヴェル君ならもうじきここに来るよぉ」

マリアはフィーの質問に答えると、教室から出ていった
その後ろ姿を見送ると、フィーは深くため息をついた
彼女はまだヴェルフェスにお礼を言えていない事をまだ引きずっているのだ
なんせヴェルフェスはフィーの命の恩人なのだから

そうこうしている内に、教室の窓からは夕焼け空が見えてきた
フィーがボーっと窓から外の景色を眺めていると、ガラガラっとドアが開く音が教室に響く
フィーはその扉の方向を見ると、そこにはヴェルフェスがいた
ヴェルフェスは教室にある自分の席につくと、机の中の教科書等をカバンの中に入れている

「あ、あの!!」

フィーはヴェルフェスに勇気を振り絞って声をかけてみるが、彼は全く気づかない
その反応にフィーは少しショックを受けるが、すぐに立ち直ってヴェルフェスの正面に立つ
ヴェルフェスはカバンに教科書を詰め終えた後、カバンを肩にかけた所で彼女の存在に気づく
だがヴェルフェスは正面にいる彼女を無視し、そのまま教室から出て行こうとする

「あ、待って!」

フィーはヴェルフェスの正面に再び立ちはだかると、ヴェルフェスの様子を伺う
ヴェルフェスも何度も迫ってくる彼女に嫌気が刺したのか、ヘッドフォンを耳から外した

「あの・・・・私フィーって言うの。あなたはヴェルフェス君・・・でいいよね?」

フィーがヴェルフェスにそう聞くと、彼は興味を無くしたのかヘッドフォンをつけようとする
その行動を見たフィーは咄嗟に手をだし彼の手首を掴む
ヴェルフェスはむっとした表情を一瞬するが、自分の手首を掴んだフィーに視線を送る

「今日の訓練、あなたは私を助けてくれたよね? そのお礼を言いたいの」

フィーはヴェルフェスに向かってそう言っても、ヴェルフェスは無表情のままだ

「えっと、その・・・・ありがと・・・」

フィーは少しだけ頬を赤く染めながら、ヴェルフェスにお礼を言った

「・・・・これで終わりか?」

「・・・・・え? どういう意味?」

「だから、俺はもう帰っていいのかって聞いてんだよ」

ヴェルフェスの予想外の質問に、フィーは驚きながらもコクリと頷く
それを見たヴェルフェスは、再びヘッドフォンを耳につけ教室から出ていった
その後ろ姿を、フィーは見届けるかの様に見つめていた

キーンコーンカーンコーン

「ああ! もう帰らないと!」

フィーは今さら気づいたことに自分を叱ると、カバンを持って教室から出ていった






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