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第五話 訓練(終了)





「う・・・嘘・・・・でしょ・・・・」

フィーは自分の見ている光景に驚きを隠せなかった
ゴブリンは確かに単体ではそう強くはないが、集団では手こずる相手なのだ
しかも一斉に襲いかかってきたとしたら、名の知れる強者でも防ぎきれないだろう
だが、フィーの前に立つ男は違った

「ったく、刀が汚れただろーが」

ヴェルフェスは今や血肉の塊となったゴブリンの悪態をつくと、刀についた肉片を振り払う
ベチャっと嫌な音をたてて、その肉片は地面につく
刀の汚れを落とすと、ヴェルフェスは腰からナイフを取りだしゴブリンの鼻を削ぐ
それも丁寧に削ぐのではなく、ゴブリンの皮膚ごと削いでいる
ゴブリンの鼻を過ぎ終えると、それらを小さな袋の中にいれるとそのまま歩きだした

「ま、待って!!」

「あぁ?」

フィーの呼び掛けにヴェルフェスはまるで威嚇するかの様な返事をする
そんな返事にフィーはビクっとするが、勇気を振り絞るかのようにヴェルフェスに視線を送る

「その・・・ありがと・・」

「はぁ? お前何言ってんだ?」

フィーのお礼にヴェルフェスは冷たい態度で接する

「え? だってさっきゴブリンを倒してくれたじゃない・・・」

「ああ、あれか。あれは偶然俺がいて、それに気づかなかった間抜けなゴブリン共は俺に隙を見せた結果、ああなっただけだ」

「じゃあ、私を助けてくれた訳じゃないの?」

フィーは自らが抱く疑問を素直にヴェルフェスにぶつける

「はっ。誰が知らねー他人を救わなきゃいけねーんだよ?」

「じゃあ、あなたは偶然目の前にゴブリンがいたから殺したの?」

「それ以外に何かあるとでも思ってんのか?」

ヴェルフェスはそう言うとヘッドフォンをつけ、そのまま訓練施設の出口へと足を向ける

「そんな・・・・あ! 待って!!」

フィーはヴェルフェスに救いを求めるが、今の彼にはロックの音楽しか聞こえていない

「待って! 待ってよ!!」

フィーは片足を引きずりながらヴェルフェスの後を追おうとする
しかし、怪我をした足が地面に軽く当たっただけでも激しい激痛がフィーを襲う
その痛みにフィーは歯を食いしばらせながらも彼の後ろについて行く
だが、そんなフィーの救いの言葉もヘッドフォンの音楽によってかき消される
やがてフィーは諦めたかのように、歩むことを止める

(なによあいつ! 人がこんなに助けてって言ってんのに)

フィーはヴェルフェスの背中を睨みつけるが、それで彼が助けてくれる訳ではない
深くため息をつくと、フィーは近くの木の根元に座り込む

(・・・・・はぁ、これからどうしよう)

ここに置いて行かれたら確実に自分は死ぬと言うことは彼女も理解している
しかし、頼みの綱はもう無いし、誰かが自分を見つける確率も0に近い
フィーは改めてため息をつき、自分の持つ弓を手に取る

「お父さん、お母さん、シャル。私、もうだめかもしれない・・・・」

フィーは弓を抱え込むと、そのまま目を閉じる

(神様。どうか次に目が覚めた時は天国にいさせてください・・・)

・・・・・・・・・そして、フィーはそのまま意識をなくした

ただ、神様はどうも彼女を見捨てていないようだ
















そう、彼女は聞こえたのだ。自分に向かってくる草を踏む足音を・・・・・・・










「・・・・あれ? ここは・・・・」

フィーはむくりと起き上がると、自分がベットに寝かされている事を確認する
しかもここは天国ではなく、ルーオブ剣魔術育成学校の保健室である
部屋には窓が幾つかあり、そこからそよ風が部屋に流れ込んでいる

「おや、目が覚めたようだね」

フィーが寝ているベットのそばにある椅子に座っている人物は、彼女に声をかける
その人物は、深海のようなダークブルーの髪を長く伸ばし、エメラルドの様な瞳をしている
顔立ちは凛としており、その口元には笑みを浮かべている

「あの・・・あなたは?」

「ああ、紹介が遅れたね。私はウェン。ウェン・シキゾード。ランクはSだ」

「私はフィーです・・・って、えぇ!! Sランクなんですか!?」

「ああ。副生徒会長をしているよ」

フェンはにっこりとした表情でフィーに自己紹介をする

「それにしても、君があの子のパートナーとはね・・・・」

「え? なんの事ですか?」

フィーはフェンの呟きに疑問を持つ

「え? 君は知らないのかい?ヴェルフェス君の事」

「ヴェル・・・・フェス?」

「ああ。彼は君をここまで運んできてくれたんだよ。まぁ、ベットに乗せたらそのまま出ていったけどね」

フェンはやれやれといったポーズをすると、椅子から立ち上がる

「そう、みんなは彼の事を劣等品と言っているようだからね。聞けばすぐにわかるさ」

フェンはそう言い残すと、保健室から出ていった


「そっか、私・・・まだ生きてるんだ・・・・」

フィーはポツリと呟くと、しばらく窓から外を眺めていた







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