最終更新日 2007/06/01
フィリピン<2005年>
ジンベエザメと泳ぐ日<ルソン島南部・ドンソル>
写真撮影:小林岳志@デジDIVE
一度にたくさんのジンベイザメが集まる場所が、世界には三ヶ所ある。南米はエクアドルのガラパゴス島、オセアニアはオーストラリアのニンガルー、そして東南アジアはフィリピンのルソン島南部ドンソル。
ドンソルでのシーズンは2月から5月。シーズン中に行った人によると「海に飛びこんだらジンベイザメに跳ね返された。それほど海面がジンベイザメだらけ」去年の6月初めに行った人からも「シーズンをはずれていたから、頭数はさすがに少なかったけれどそれでも三頭はいたよ」と聞いていた。いくら早くても私がドンソルに行けるのは6月初めになる。微妙なところだ。
6月1日、まずマニラからレガスピまで行く。なるべく飛行機は使わず、いつも地べたを這う手段を選ぶ。つまりはバス。クバオのスーパーラインズ社のバスに夕方4時半に乗った。オーディナリークラス448ペソで所要12時間。なまじよいクラスのバスに乗ってしまうと寒くてたまらんが、普通クラスはさすがに座り心地が悪い。このバスを逃すと次は夜中の12時発なので、クラスなんか選んでいられない。しかも、乗ったバスは17時半発のはずが、なぜか1時間も早く出た。余裕を持って行っておいてよかった。座ったとたんに発車した。さすがはフィリピンである。
早朝、レガスピに着いて目が覚めた。町の中心からターミナルまではトライシクル。運転手は50ペソとかふっかけてきたが、そんなわけはないと20ペソ握らせた。距離から察するにそれでも多めに払っているはず。たまにならいいけれど、しょちゅうだまされるわけにはいかない。レガスピからドンソルまではバスはない。バンに人が集まれば出発する。つくりたての温かいタホを食べて待つ。タホとは柔らかめの豆腐に黒蜜とタピオカをかけたもの。朝早くから天秤をかついで売りに来る。フィリピンの朝ごはんの定番だ。やっとバンが出た。
1時間半でドンソル着。帰りはドンソルからダラガという町までジプニーで行き(7.50ペソ)、ダラガからレガスピ行きのジプニー(48ペソ)に乗り換えた。知らずにバスターミナルまで行ってしまったが、レガスピの町中からダラガに行けばジプニーでもドンソルに行ける。ドンソルの町からはブタンディンセンターまではトライシクル(10ペソ)。ブタンディンとはタガログ語でジンベイザメのことだ。
ところで、ジンベイザメのジンベエは夏によく子供が着ている甚平さんから来ている。背中の白い斑点が甚平さんの模様に似ているのがその名の由来であるらしい。英語ではWHALE SHARK、スペイン語でもTIBURON BALLENAとどちらもクジラザメという意味。映画『ジョーズ』の獰猛なサメよりはよっぽどクジラに近いみてくれだが、世界最大の魚である。体長10メートル前後の図体のわりにはプランクトンを食べ、おとなしい。大阪の海遊館で初めて見て以来、いつかジンベイザメと泳ぎたいと思っていた。
さてブタンディンセンターで船一艘のチャーター料2500ペソ+300ペソを支払う。出発前にセンターでジンベエザメと接する際の注意事項を挙げたビデオを見る。ジンベエザメ一頭につき、近寄ってよいのは6人まで。頭部からは3メートル、尾の部分からは4メートル以上離れること。もちろんけっして触ってはいけないし、スキューバで潜ることも禁止されている。センターでもらったパンフレットによると、ここで見られるジンベエザメのほとんどがメスなのだそうだ。個体数のピークは3、4月。やはり6月はシーズンをはずれている。動き始めたのが早かったので海に出たのが朝9時。センターは7時半から開いており、なるべく早い時間に沖に出るのがよいようだ。
快晴。かなり沖合いまで出た。小1時間ほどボートに乗っていただろうか。すぐに飛びこめる準備をしておくように言われる。フィンとマスクを慌てて着けた。ガイドの”GO!”の合図で飛びこむといた! 真下にジンベエザメ。しかも10メートル前後はあろうかという大物だ。ぐばーと大きな口を開けたまま泳いでいる。その下には何匹かのコバンザメを従えているのが見えた。水面下のプランクトンを食べようと浮上してきたところに私が飛びこんできたのだろう。さすが大物だけあって慌てる様子なく、ゆっくりと青い底に向かって沈んでいった。
写真撮影:小林岳志@デジDIVE
この大きさ。とても魚とは思えない。できることなら、プランクトンと一緒にがばーっと吸いこまれて、「あ、まちがえた。こりゃ食べられん」とぷっと吐き出されてみたいものである。それにしてもこんなにあっさり見られていいのか。よい眺めを見るには山の頂上まで歩かなければならないし、少数民族と会うにはかなり奥地まで踏みこまなければならない。おもしろい目に遭うにはそれなりのリスクや労苦を伴うのが当然だ。特に野生動物。カモノハシをほんの一瞬見るために蚊に食われっぱなしで5時間、身動きしなかったことを思い出す。それなのにここのジンベイザメはどうだ。なんだか拍子抜けした。あっさり見られすぎるのだ。
さらに3、4回、バンカーボートでジンベイザメを追跡し、海面に上がってきたところを狙って飛びこんだ。いずれも10メートル前後の大物である。笑っているように口を横いっぱいに広げている。天気がよくても海の中は暗く、引きずりこまれそうに青い。なにもかもが青みを帯びて見える中で、背中の白い斑点がひときわ鮮やかだ。鳥が空を飛ぶように、魚は海を飛ぶ。ジンベエザメの飛ぶさまは、近寄るものすべてを圧倒する。
4時間ほど船に乗っていた。最後の2時間はなにも見られなかったが、まだ戻ろうとしないので、帰るようガイドにおねがいした。マニラから成田へのフィリピン航空の機内誌は表紙がジンベエザメで飾られていた。「ソルソゴン、ドンソルのジンベエザメ」という記事が載っていた。記事によるとジンベエザメは100年生きるとあった。そんなに長生きする魚が他にいるだろうか。しかも、ソルソゴンでは50もの個体数が確認されている。海面一面がジンベエザメというのはどうもあながち誇張ではないようだ。
”潜るんです”(”写るんです”の水中カメラ)では、光が足らないのでうまく撮れない。何度も”潜るんです”で撮っているが、被写体がじっとしていなかったり、波に揺られて身体がうまく固定できなかったりできれいに撮るのは難しい。しかし、ハウジングはお金がかかる。そこまで頻繁には潜らない。ジンベエザメをうまく撮れたらうれしいけれど、撮れたら撮れたでちょっと寂しい気もする。あの大きさはこじんまり写真なんぞにおさまってはならないものなのだ。ドンソルでは夜はホタルがクリスマスツリーのように点滅する木も見られる。今度はベストシーズンに泊りがけでゆっくり行きたい。
旅雑記<04年・05年>目次