<特集>国内原発全50基、きょう停止 過小評価体質、変わらず 原子力ムラ「ゼロ」招く
国内50基の商業用原発で唯一運転を続けている北海道電力泊原発3号機が5日夜、定期点検のため停止する。すべての商業用原発が停止するのは、2基しかなかった黎明(れいめい)期の1970年に5日間あるだけで、42年ぶりとなる。昨年3月11日の東京電力福島第1原発での事故が起きるまで、原発は発電段階で地球温暖化の原因となる二酸化炭素を排出しないなどの理由で注目され、国内外で「原子力ルネサンス」と呼ばれる活況を呈した。しかし、国内では、事故や不祥事のたびに「原子力ムラ」と揶揄(やゆ)された独善的な体質を変えられず、福島第1の重大事故にいたった。「原発ゼロ」に至った半世紀の歩みと再稼働をめぐる現在の動きを整理した。
◇「隠蔽」「改ざん」半世紀
「ABWR(改良型沸騰水型軽水炉)の安全性はプルーブン(証明済み)ですから」
地域に壊滅的な打撃を与えた福島事故の約1年前。民主党政権で新興国に原発技術を輸出する機運が高まっていたころ、東電幹部はこう言ってロシアやフランス、韓国などのライバルとの受注競争に自信を見せていた。
「証明済み」とは、最大震度6強を記録した新潟県中越沖地震(07年)に見舞われた東電柏崎刈羽原発を指す。6、7号機がABWRだ。想定の約2・5倍の揺れに襲われ、3号機タービン建屋わきの変圧器で火災が発生、微量の放射能を帯びた水が敷地外に漏れたが、炉心損傷のような重大事故は免れた。幹部は「ものすごい地震にもびくともしなかったのは、世界が認めている」と胸を張った。
しかし、福島事故では全電源と冷却機能が失われると、原子力施設事故の深刻度を示す「国際評価尺度(INES)」が最悪のレベル7となり、もろさを露呈した。
1962年に国産原子炉による初臨界を達成して半世紀、事故やトラブルのたびに原子力業界の過小評価体質が指摘されてきた。
福島事故と同じレベル7だった旧ソ連のチェルノブイリ原発事故(86年)では、日本の原子力安全委員会の特別委員会が現地での調査を踏まえ、「現行の安全規制や慣行を改める必要はない」との報告書を作成。原子力関係者は「炉型が異なり、作業員の訓練もしっかりしている日本では、あのような事故は起こらない」と強調した。
99年に茨城県東海村で起きた核燃料加工会社ジェー・シー・オーの臨界事故も、業界内では「作業ミスであり、原発では考えられない」という受け止め方が主流だった。
都合の悪いデータなどの隠蔽(いんぺい)も繰り返された。95年の高速増殖原型炉「もんじゅ」の火災では、事故現場を撮影したビデオの重要部分を隠した動力炉・核燃料開発事業団(現・日本原子力研究開発機構)の姿勢が批判を浴びた。02年には東電で検査データを改ざんしてトラブルを隠蔽したことが発覚。07年には北陸電力志賀原発と福島第1原発で過去に臨界事故を起こしていたことが明らかになった。
今年4月、福島事故後初めて開かれた日本原子力産業協会年次大会。今井敬会長は「事業者も規制当局も自己満足に陥り、原発の安全管理に関し世界の優れた知見を積極的に導入する意欲に欠けていた」と、認識の甘さを認めた。
◇政府対応、一貫性欠く
福島事故では停止している原発の再稼働を巡る政府の方針や手続きは二転三転した。
東日本大震災発生時、当時あった国内54基の原発のうち、36基が運転中だった(定期検査後の調整運転も含む)。福島第1原発1〜3号機、福島第2原発1〜4号機、東北電力女川原発1、3号機、日本原子力発電東海第2原発の計10基が地震で自動停止した。
経済産業省原子力安全・保安院は昨年3月30日、原発を持つ全10社に対し、福島第1原発事故と同程度の地震・津波で全電源を失っても安定的に原子炉や使用済み核燃料プールの冷却ができる「緊急安全対策」を指示した。一方で、菅直人首相(当時)は5月、中部電力浜岡原発について、「東海地震の震源域にあり、特に危険性が高い」として運転停止を要請、中部電は受け入れた。
電力各社は稼働中の原発の運転は継続しながら、電源車やポンプ類を高台に増設するなどの短期対策を実施。これを受けて、海江田万里経産相(当時)は6月、「(停止している原発の)再稼働は安全上支障がない」と“安全宣言”した。
しかし、地元自治体の納得が得られず、菅政権は7月、欧州の手法を参考に、炉心損傷に至るまでに想定した地震動や津波の高さに比べ何倍の余裕があるのかを調べる安全評価(ストレステスト)の実施を表明。簡易な1次評価を、定期検査で停止した原発の再稼働の条件とした。
これまでに8社19基分の1次評価が提出された。このうち、保安院の審査が終わったのは関西電力大飯原発3、4号機と四国電力伊方原発3号機の計3基。内閣府原子力安全委員会の確認が得られたのは大飯3、4号機だ。
昨年11月には、トラブルで停止した九州電力玄海原発4号機がストレステストを経ずに運転再開するなど、手続きの矛盾も露呈した。事故を防げなかった保安院、安全委への不信感もある。また、政府や国会による事故調査が終了しておらず、立地自治体からも「福島事故を踏まえた新たな安全基準」を求める意見が強まった。
原発が定期検査で停止していく中、政府は今年4月、1次評価や、保安院が緊急安全対策をもとに定めた30項目の安全対策をベースに、新たな安全性の判断基準を提示した。
政府は大飯3、4号機はこれを満たし、関電管内は原発依存度が高く、需給上の必要性もあるとして、立地する福井県や同県おおい町に再稼働を要請している。
防災対策については、重大事故が否定できなくなったことから、政府は今年3月、新たな原子力防災指針を策定。避難計画策定や被ばく軽減対策を取る範囲を、従来の原発8〜10キロ圏内から30キロ圏内に拡大した。
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この特集は、西川拓、阿部周一、奥山智己が担当しました。(グラフィック 菅野庸平)
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◆関連用語解説
◇原発の炉型
日本では沸騰水型(BWR)と加圧水型(PWR)の2種類に大別される。事故を起こした福島第1原発はBWR。燃料の核分裂で発生する熱で冷却水を沸騰させ、蒸気でタービンを回す。配管を単純化し、操作性を向上した改良型沸騰水型(ABWR)もある。一方のPWRは炉内の圧力を高めて冷却水の沸騰を抑え、その熱を別系統を流れる冷却水に伝えて蒸気を作りタービンを回す。放射能を帯びた水は格納容器内に閉じ込められる。
◇臨界
不安定な原子核が二つ以上の軽い原子核に分裂する現象を核分裂といい、核分裂が連続する状態を「臨界」と呼ぶ。通常の原子炉では、核燃料に含まれるウラン235の原子核が中性子を吸収して分裂し、平均2〜3個の中性子を放出。その中性子が周囲にある別のウラン235の原子核に取り込まれて再び核分裂を起こす。一定量の核物質が塊になっていたり、水があるなどの条件が満たされれば臨界が維持され、大量の熱が出る。
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