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【主張】食品と放射能 独自基準が混乱を広げる
食品中の放射性物質の上限を定めた国の新基準適用から1カ月過ぎた。新基準に「厳しすぎる」との声がある中で、スーパーなどの食品業界がさらに厳しい独自基準を恣意(しい)的に設定し、生産者や消費者を混乱させる異常事態が起きている。
業界の独自基準は過剰反応といえ、どの基準を信用すべきかで消費者を惑わせ、風評被害もあおりかねない。
福島第1原発事故直後、政府は食品に含まれる放射性セシウムの暫定基準を定めた。この暫定基準に比べ、新基準では20分の1~4分の1へと一層厳格化された。
国民の不安に応えようとしたためだが、野菜や魚、肉などの一般食品で欧米の基準は1キログラム当たり1200~1250ベクレルであり、これが国際的な標準といえる。
これに対し、日本の暫定基準は500ベクレルだった。新基準では100ベクレルとさらに厳しい。
2月16日に文部科学省放射線審議会が厚生労働省の新基準案を了承する際、「厳しすぎる」との声が相次ぎ、生産者に配慮を求める異例の意見が付いたほどだ。
にもかかわらず、新基準が適用されると、かえって消費者の不信が高まり、食品業界が次々と独自基準を設けるようになった。
食品には本来、自然の放射性物質が含まれているが、「ゼロ」を宣伝文句に掲げる小売業者まで現れた。消費者の不安に応えるとはいえ、行き過ぎではないか。
厚労省によれば、4月1日~30日の1カ月間に新基準値を超えた農水産物はヒラメやスズキ、シイタケ、タケノコなど検査対象の2・4%にあたる337件にすぎなかった。この比率を見れば、農水産物の安全性は消費者に届く前に確保されていると考えられる。
混乱に拍車をかけたのが、農林水産省の対応だ。先月20日、食品業界に独自基準をやめて国の基準を守るよう求める通知を出した。だが3日後、鹿野道彦農水相が独自基準を否定しない趣旨の発言をしたのは、首をかしげる対応と言わざるを得ない。
一度決めた通知をすぐに変えるようでは朝令暮改で、新基準自体の信頼性も失われかねない。
政府は独自基準を設けるムダを改めるよう業界を説得するとともに、国の新基準についても、欧米などの国際的な基準も参考に、安全と安心の適切なバランスを図る努力を続けてほしい。
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