北海道電力の泊原子力発電所3号機が5日夜に定期検査のために停止し、国内50基の原発すべてが発電を止める。
全原発停止の背後には、東京電力の福島第1原発事故がもたらした重い現実がある。事故によって福島県だけで約10万人が避難し、長期にわたる居住困難地域をつくり出した。このことを国民一人ひとりが忘れてはならない。
供給懸念こそ問題
同時に私たちは原発停止に伴う代償の重さにもしっかりと目を見開かねばならない。
昨夏の東日本の節電は産業や生活に負担を強いた。使用制限を課せられた企業では、工場を土日に操業する変則勤務にしたり、買電に比べ3倍ものコストをかけて自家発電に頼ったりした。「こんなことを続けられない」が、多くの経営者の本音だろう。もし大規模な停電が起きれば深刻な社会的混乱をもたらす恐れもある。
仮に節電によって今夏の危機を乗り切れたとしても問題はなくならない。電力供給への不安が続く限り、企業は国内の設備投資をためらわざるを得ない。原発停止の穴を埋める石油や天然ガスの調達増加によって、年間2兆円を超える国富が余分に海外へ流出し、電力料金の上昇につながる。景気や雇用に影響が及び、私たちの生活に跳ね返ってくる。
天然ガス火力や太陽光発電などの拡大は一朝一夕には進まない。電力の安定供給には原発を再稼働させ、供給力に一定の余裕を持たせておく必要がある。地震や津波に対し十分な安全の余裕があることが再稼働の前提条件だ。電力会社は運転再開後も、たゆまず安全向上の改善に努める重い責任を負っている。
関西電力の大飯原発3、4号機の再稼働について、政府と関電は地元自治体に対し、意を尽くして説明し理解を得る努力を重ねてほしい。自治体側も、すでに講じられた安全対策をよく吟味し「動かすリスク」と「止めるリスク」を勘案して判断する必要がある。
また再稼働問題とは別に、政府や電力会社はもっと節電を促す方策を急ぐべきだ。例えば時間帯別の電力料金制を拡充し、中小企業への省エネ機器の導入を支援することで、電力のピーク需要と総需要量をともに抑えていくのが望ましい。足元の需給のためだけでなく、中長期のエネルギー消費の節約にもつながるからだ。
全原発停止に至るのは、政府の危機対応力の問題でもある。福島事故から1年以上を経ても、原子力安全の裏付けとなる規制の仕組みを刷新できていない。
原子力安全委員会は、大飯原発に続く他の原発の耐性調査には手をつけず、再稼働に向けたプロセスが滞っている。原子力安全・保安院は既存の原発周辺の活断層調査などに着手したが、現在の保安院が安全にかかわる重要な判断を扱うことに疑問がある。
規制当局の信頼回復なしに原発への不信はぬぐえない。政治や電力業界の都合に左右されない、独立性の高い原子力規制庁を早く誕生させることが何より大事だ。政府は野党と協議し、規制庁設置法案の成立を急ぐべきだ。
再生へ自己変革を
原子力推進の電力会社や官庁、学者らの結びつきは「原子力ムラ」と呼ばれてきた。専門家集団はただでさえ外からの介入を嫌う。「国策民営」による原子力推進の大義名分が加わり、ムラの体質は閉鎖的で独りよがりになった。
海外の原子力事故から謙虚に学ばず、炉心溶融など国内でも想定しておくべき深刻な事故への対策を遅らせた。2002年に発覚した東電のトラブル隠しでは、内部告発者の情報を保安院が東電に伝え、規制当局と規制を受ける側のなれ合いをあらわにした。
ムラの中で互いに鍛え合う機運も薄かった。中越沖地震での東電の被災を教訓と受け止めていれば、関電はとうに大飯原発に免震棟を建てられた。競争なき地域独占が自己変革を妨げてきた。政府と国会の事故調査委員会にはムラの問題点を洗い出し改革を迫ってもらいたい。
1966年に日本原子力発電の東海発電所が初の商用原発として動き出してから46年。日本の原子力は歴史的な分岐点にある。
安全を最優先に、なれ合いを捨て、自らを変える力が原子力の再生に求められている。
東京電力、関西電力、太陽光発電、北海道電力、原発ゼロ、福島第1原発、日本原子力発電
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