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−日本政府とアジア開発フォーラムを共催−
2011年06月03日
世界の「成長センター」となって頭角を現しつつある中国、インド、韓国、タイなど、アジア各国の援助関係者を招き、国際援助コミュニティーにおけるアジアのドナーの役割について緊密に意見交換する第2回アジア開発フォーラムが6月1日、東京で開かれた。財務省、外務省、JICAの三者による共催で、アジアを中心とした各国の政策立案者、援助機関、研究者ら約100人が参加した。
今回のフォーラムは、2010年11月に韓国の主導によってソウルで開催された第1回アジア開発協力会合の流れを踏まえたもの。同会合は、韓国・企画財政部の主催で、アジア各国の有償資金協力を所管する省庁や関係機関などからの参加者が中心だったが、今回は、中国商務部、韓国国際協力団(KOICA)、タイ国際開発協力局(TICA)など、技術協力の実施機関も参加、会議名を会合(meeting)からフォーラム(forum)へと変更して開催された。
冒頭、緒方貞子JICA理事長があいさつ。中国が近隣国をはじめアフリカに対する支援を強化していること、韓国が2015年までのODA3倍増を表明したことに加え、2011年11月から12月にかけて経済開発協力機構(OECD)開発援助委員会(DAC)の援助効果向上にかかるハイレベル会合を主催することなど、新興ドナーとして重要な役割を果たしていることを評価した。さらに、「これまでのODAの経験を共有して今後のアジアの発展にどう生かすかを議論するとともに、アジア各国のパートナーシップをより強固なものとし、アジアだけでなくアフリカなど他地域の経済的・社会的発展に貢献したい」と述べた。
第1部では、「アジアの経済発展・開発協力経験の共有とODAの役割」をテーマに黒田東彦(はるひこ)アジア開発銀行(ADB)総裁が基調講演。「今後ともアジアが持続的な成長を遂げるためには、世界経済への統合を伴う地域間・地域内協力が重要であり、それにはODAや南南協力(注1)が重要な役割を果たす。低所得国、中進国がそれぞれ直面する課題に対応できるよう一層の創意工夫が必要だ」と述べた。
続いて、タイのチュララット・スティットーン財務省財政政策アドバイザー、世界銀行のジェームズ・アダムズ東アジア・大洋州地域担当副総裁、アフリカ経済改革センターのK・Y・アモアコ理事長、慶應義塾大学の木村福成教授がプレゼンテーション。さらに、財務省の中尾武彦国際局長の進行でディスカッションが行われ、アジアの経済発展におけるODAの役割について、各国の経験を共有した。地域や国の状況が異なることから、アジアの国々の経済発展の経験をそのまま他地域に適用することはできないとしつつ、「市場機能を活用した民間セクター開発のためのODAの触媒機能」「能力開発を伴う被援助国のオーナーシップ」「良好な制度や政策環境」といった効果的なODAの共通要素に関して意見が交わされた。
第2部では、「アジアにおける残された開発問題や新たな課題への対応」をテーマに、韓国のユン・テヨン企画財政部国際経済局長の進行で、インドネシアのプラスティヨノ・ウィジョヨ・マラン・ユド国家開発企画庁経済担当次官、カンボジアのヤナラ・チェン開発復興局長、韓国輸出入銀行のシム・ソップ副行長、東京大学の澤田康幸准教授、ベトナムのクアン・ミン・ホー計画投資省外国経済関係局長、タイのアクスィリ・ブラナスィリ周辺国経済開発協力機構総裁、日本の石井菜穂子財務省副財務官がそれぞれ発表を行った。
域内所得格差、地域統合、急速な高齢化、気候変動や自然災害などの地球規模課題への対応といった、今後、アジアの持続的な発展の障害となり得る課題について議論が行われ、「MDGs(注2)は引き続き重要な課題であること」「技術革新、PPP(注3)、中小零細企業の生産性向上を通じて『中進国の罠』(注4)から脱却していくことが重要」「公平性のある成長(inclusive growth)を達成する上で、社会的持続性と気候変動や自然災害への対応を含む環境的持続性のためODAを効果的に活用していくことが重要」といった点が議論された。
最後に、第3部では「開発援助の国際コミュニティにおけるアジアの役割」として、第1部と第2部で挙げられたアジアの新たな課題の解決に向け、今後、開発協力が果たすべき役割について議論。中国商務部の盧峰国際交流与合処長、イ・ビョングKOICA理事、政策研究大学院大学の園部哲史教授、タイのスチャダー・タイバンタオTICA副局長、インドのビスワジット・ダール開発途上国研究情報システムセンター所長、小寺清JICA理事らがパネリストとして参加した。
アジア各国での経験をいかに他地域の課題解決に結びつけることができるか、新興ドナーはDACを含めたグローバルな開発コミュニティーとどのようにして連携を深化させるのか―などについて、「最新の情報通信の技術革新も活用した南南協力と適時・適切な関係者間での情報共有の仕組み」「中長期的な課題に対応するためには、中央政府だけでなく民間セクターや地方公共団体などの関与が重要」といった議論が展開された。
これらの議論の結果は、翌日から東京で開催されるMDGsフォローアップ会合や主要20ヵ国・地域(G20)サミット、韓国・プサンで開催されるDACのハイレベル会合など、開発援助の方向性について議論されるグローバルな舞台でも活用される。
(注1)開発途上国の中である分野において開発の進んだ国が、別の途上国の開発を支援すること。途上国(南)が別の途上国(南)を支援することから「南南協力」と呼ばれる。
(注2)2000年に国際社会が共有した「ミレニアム開発目標」。2015年までに達成すべき八つの目標が掲げられている。
(注3)パブリック・プライベート・パートナーシップ(Public Private Partnership)。官民連携事業のことで、日本のODA事業でもインフラ整備やBOP(Base of the Pyramid)ビジネスなどで取り入れられている。
(注4)中進国の罠(middle income trap)。一定の発展を遂げて低所得国から脱したものの、価格競争力では開発途上国に劣り、技術力では先進国に及ばないといった理由から、さらなる成長が望めないアジアの国々の現状を受け、近年、国際援助社会で議論されるようになった。
企画部国際援助協調課