「きゃ!」
「ひゃあ!」
「やんっ!」
突如、大浴場でキャアキャア騒いでいた3−Aの一部の者たちが、かわいい悲鳴を上げた。
「どうしたんですか?」
悲鳴を上げたまき絵にネギが不思議そうにたずねた。
「やだもーネギ君。そんなこと言っちゃって!」
「ネギ君のエッチ〜おませさん何だから〜!」
「はぁ……あの何のことかよく分からないんですけど…」
「じゃあ、……この手は何!」
そういうと佐々木まき絵は勢いよくお湯に手を突っ込み、何かを掴んだ。
赤い丘より新たな世界へ18
「……あれ、なんだろこの太くて毛むくじゃらなのは?」
「ぼ、僕じゃないですよ」
まき絵はゆっくりと、手のひらに握り締めた毛むくじゃらの太い何かをお湯から出す。
湯気の間から現れたのは白い毛皮の…
「ネ、ネズミー!」
そう叫ぶとまき絵は掴んでいたネズミと思われる動物を放り投げた。
「キャー、ネズミだー!」
「イタチだよ!」
そのまき絵の近くにいた面々も、それを聞いてパニックに陥る。
こんな所にいるネズミと言えばあの薄汚いドブネズミと相場が決まっているからだ。
そして、パニックと言うのは水面の波紋の様に広がるもの。
数十秒後には、阿鼻叫喚の騒ぎになっていた。
「おい、向こうでなんか騒いでるぞ」
「何やってるのかしらね?なにか出たみたいだけど」
騒いでいた3−Aメンバーと離れてお湯に使っていた遠坂凛と長谷川千雨他数名は、騒ぎの中心に目を向けた。
目に飛び込んできたのは、何かの影が縦横無尽に飛び回り、次々とクラスメートが裸になっている光景。
「あぁ? 何やってんだあいつら。いくらなんでも裸はやり過ぎだろ……。ん? なんだあの白いのは」
長谷川千雨は曇った眼鏡を拭いながら、よく見ようと騒ぎの中心に近づこうと立ち上がる。
と、突然後ろから手をつかまれた。
「遠坂さん?」
後ろを振り返ると真剣な顔をした遠坂凛が千雨の手を掴んでいた。
「長谷川さん、今すぐお湯から上がりなさい。そこのあなた達も」
「はぁ?」
側にいた他の生徒にそう言うと凛は立ち上がり、すぐさま騒ぎの中心へお湯を蹴立てて向かっていった。
「…なんなんだ?」
後に残された長谷川千雨は、風呂から出ろと言われた理由が分からず首を捻った。
校舎屋上
「何もないな」
士郎は遠坂たちを探すために、見晴らしの良い校舎屋上に来ていた。
もともと魔力の探知は苦手なため、肉眼で探索するためだ。
ぐるりと周囲を見渡してみるが、特に異常はない。
視界に広がるのは穏やかな光に包まれた、学園都市の夜の風景。
「う〜ん、一体遠坂たちは何処に行ったんだ?」
いろいろと士郎が考えていると、背後に微かに人の気配が生まれた。
「……だれだ?」
振り向きながら言うと、ゆっくりと屋上の端の暗がりから誰かが出てくる。
「わしじゃよ、衛宮君」
月明かりに照らされて現れたのは、学園長だった。
「どうしたんですか、こんな夜に?」
「いや、月がきれいなもんでな。一杯飲もうかとの。
どうじゃ、付き合わんか?」
「いえ、ちょっと遠坂を探しているので……」
「大丈夫じゃよ。この学園にいる限りは余程のことがないと大事に見舞われる事はない。それに遠坂君の居場所は把握しておる」
「ですが、侵入者がいるようですし……」
「ああ、ああ、いいんじゃ、いいんじゃよ。その侵入者はわしも知っておるからの。少々悪戯が過ぎるようじゃがほっといて構わんよ。
それより飲もう、年寄りに付き合ってくれ」
「はぁ、じゃあご馳走になります」
そう返事をすると、学園長は懐から日本酒と杯を取り出した。
どこに入っていたんだ?
「ほれ」
学園長に杯を渡される。
「あ、学園長どうぞ」
トクトクと学園長の杯にお酒が注がれた。
「おお、こりゃすまんな」
「いえいえ」
そうして月明かりの下、静かな酒盛りが始まった。
女子寮大浴場
明日菜は呆然としていた。
悲鳴が聞こえたので、急いで女子寮の大浴場にやって来たのだが、そこで繰り広げられていたのは、裸のネギと裸の3-Aクラスメート達があちらこちらに走り回っている光景だった。
「な、何やってるのあんた達はー!」
明日菜は吼えた。いくらなんでもちょっと悪戯の度を越えていて、やり過ぎである。
しかし、そんな叫びも逃げ惑う女の子達の悲鳴によってかき消され、本人達には聞こえない。
と、そこへ
「明日菜! そいつ捕まえて!」
「と、遠坂さんまで裸に! 何やってんの!」
「いいからそいつを捕まえろー!」
「はい!」
凛の怒りを含んだ絶叫に、明日菜は自分にすばやく近づいてくる白い物体に気づく。
反射的にガッと側にあった風呂桶を掴むと飛び掛ってきた物体に勢いよく叩きつけた。
パコーンと吹き飛ばされる白い物体。
「どいて、明日菜!」
凛は明日菜の前に立つと鬼のような表情で、ガンドを連続して吹っ飛ぶ白い物体に叩き込む。クラスメートの存在など知ったことかと言わんばかりに魔術を使いまくる。
「おら、おら、おら! 死ね。死ね。死ね。死ねぇー!」
ついには、ガンドの攻撃に耐えられず、轟音をたてて大浴場の壁が崩壊した。それでも凛は崩れた瓦礫に向かって執拗にガンドを撃ち続ける。
その光景に全員いっせいに壁際まで引く。なぜなら優等生の本性を垣間見た瞬間だったからだ。
「あ、あの遠坂さん〜」
そのなかで、過去のトラウマに耐えながら明日菜が凛に声をかけた。
「はぁ、はぁ、はぁ、ごめん明日菜。……今私に近づくと怪我するわよ」
「ふぁ、ふぁい!」(ひー遠坂さんめちゃくちゃ切れてる〜)
攻撃をやっと止めて、明日菜に返事しながら、凛はゆらりと土煙が漂う瓦礫に向かって歩き出した。
校舎屋上
「なぁ、衛宮君」
「なんですか、学園長?」
静かに酒を飲んでいると、学園長が急に声をかけて来た。
「君達は結婚しておらんのか?」
「ブハッ」
突然、学園長がそんな事を聞いてきた。
「いきなりなんですか!大体、誰とですか!?」
「いや、遠坂君と君じゃよ。君達本当は26歳なんじゃろ? 結婚していてもおかしくない年じゃし、二人とも好き合っているようだしの
向こうで結婚しとらんかったのか?」
学園長の言葉にちょっと時間がとまった。
今まで遠坂と結婚など考えた事がなかったのか?と言われればあったと思う。ロンドンにいた時の事だ。
だが、結局それは遠坂には言えなかった。自分が追いかける理想のために遠坂の幸せを壊したくなかったからだ。
その後は、なるべくその事は考えないようにしてきた。
まぁ、向こうでは毎日が戦争でそんな事を考える余裕なんて全くなかったということもあるが……
「いや……結婚してませんよ。一度は考えたことはありますけど、結局言えませんでした。彼女の幸せを壊しそうでね
といっても向こうでは、ほぼ一緒に毎日行動してましたし…その…こう、なんというか、色々な関係も持っていましたから事実婚に近い形でしたけど」
「……なんか遠坂君がかわいそうになってきたの。あぁ、乙女の夢ウェディングドレスを遠坂君も着たいじゃろな〜どっかのへたれのせいで、それもかなわんとは……
あぁ、なんてかわいそうなんじゃ!というかこの話からあわよくば木乃香と衛宮君がお見合いして、一気に結婚してくれないかという策略を練っていたのに……」
「うっ!た、たしかに遠坂には悪い思いをさせているかもしれませんが、でも俺は遠坂の事を愛してますしこれからもこの思いは変わりません!」
「わかった、わかった、そんな恥ずかしい台詞をよく言えるの。こっちがあてられてしまうわい」
「す、すいません。でも本心です!」
「まぁ君のその一途な気持ちは良く分かったが、あんまり待たせると愛想つかされるぞい」
「むぅ…」
衛宮家
「ただいま」
学園長との酒盛りが随分長引いてしまった。
ちょっとほろ酔い気分になった所で酒がなくなったので、お開きになったのが11時。
家に帰ってみると明かりが着いていたので、2人が帰って来ていることがすぐに分かった。
だが、
「あれ? 遠坂〜ネギ君〜!」
返事がない。
とりあえず唯一電気がついている居間行く。
「ただ…い…ま」
なんだろうこの光景。
ネギ君と明日菜が何故か椅子に正座して、青白い顔をして振るえながら座っていた。
彼らの目の前のテーブルには縄で縛られた元は白いと思われる汚れた何かが無造作に転がされていた。
「ネギ君、これなんだ?」
「あ、あのこれは「あら、お帰り士郎」……」
ネギ君が何かを言おうとした時、ちょうど遠坂が奥の扉から入ってきた。
ニコニコしながら、血がついた釘バットを引きずりながら……
「ど、どうしたんだ?」
「なにが? 私がどうかした?」
「遅くなったことを、お、怒ってるのか?」
「別に怒ってないわよ?あんたとは関係ない事には怒っているけどね……」
そう言うとテーブルの上に無造作に置かれていた何かに低い声でぼそりと言った。
「起きてるわね。まずは言っておくわ。あんたは言ってはいけない事を私に言った。その罪は海より深く、山より重いのよ
分かる? つまりこれよりあんたの処刑を行うのよ。あぁ、言っておくけど弁明は聞かないわよ。
既に私の中では死刑確定の判決が下っているからね」
その言葉にビクリと白い物体が動く。よく見るとイタチみたいな小動物だ。
「今からする事は分かっているわね?」
「ひぃ、たす…たす…」
イタチが何か喋ろうとする。
「と、遠坂さん。か、彼はですね、ぼ、僕の友達で…」
「だから? 私に向かって堂々とあんな事を言いながら、しかも触った……絶対に許さないわ!」
開いた口が塞がらない。遠坂が何を言っているのかもわからないし、何より転がされているイタチらしき動物が懇願するような目でこちらを見ている。
それはもう、某金融会社のCMに出ていた犬のような目でだ。それを見た神楽坂も視線で何か合図している。
とりあえず俺は、この騒ぎの原因を遠坂に尋ねた。
「で、遠坂。何があったんだ? 触ったとか言ったとか何のことだ?」
ゆっくりとこちらを振り向くと、いきなり涙声で語りだした。
「し、しろう〜。こいつが、こいつが、私を裸にして胸に触って『ふ、貧乳か…』て言ったのよ!こんな、こんな小動物に私の苦悩を笑われたのよ!」
「触った……!?」
この時、俺は少々酔っ払っていた。まぁ、それが引き金になったと言えるだろう。
「そうか、つまりそいつは遠坂の胸を触ったのか…」
たとえばの話だが、知らない奴に彼女を裸にされ、胸を触られ、挙句に彼女を馬鹿にする発言をされたら、その彼氏はどう思うだろうか?
答えはぶち切れである。
つまりそういう事だ。
「おい、そこの小動物。今の話は本当か? 正直に答えろ」
「士郎さん?」
「ああ、ネギ君。そんなに怯えなくても大丈夫だ。君は関係ないからね」
「ですが…」
「これはそこの小動物と俺との問題だからな。大丈夫だよ、たぶん殺しはしない」
「殺、殺し!?」
「さて、小動物。質問の答えは?」
ガクガク震えながら、必死に逃げようとする。
もちろん、遠坂によって紐で縛られていたので逃げられるわけがない。
「もう一度聞く答えは?」
「ご、ごめんなさい。わわわわ、悪ふざけがす、すすすす過ぎました。おおおおお許しを」
「「……死ね!」」
その後の話は秘密だ。遠坂と俺が共同であんな事やそんな事をやったとだけ言って置こう。
ただ、ひとつ言えるのは一応小動物は死ななかった。ゴキブリ並みの生命力を持っていたようだ。
あとがき
壊れ話の回でした。カモ君にご冥福を。
グダグダな構成になってしまいましたね。私にギャグは書けないと実感しました。
やっぱりシリアスに攻めないとね。次回からシリアスに突入?
結婚話はなんとなく出してみたかったから。
それにしてもしばらく執筆から遠ざかっただけでこんなグダグダになるなんて……orz