明日菜が目を覚ますと、自分の担任であるネギ・スプリングフィールド顔が目の前にあった。
赤い丘より新たな世界へ16
「キャ―――――!」
「ごべらっ!ぶぼっ!」
突然の事態に明日菜は気が動転してしまい、目の前にあるネギの顔を思わず殴る。
明日菜の強烈な一撃を、寝ていたため無防備で受けたネギは、横回転しながら部屋の壁まで吹き飛ばされた。
「あ、あんた―!どこから入ったのよ!」
顔を真っ赤にしてネギに詰め寄より襟を掴んで前後にシェイクするが、すでにネギは目を回して気絶していた。
「むぅ〜明日菜どないしたん?」
騒ぎを聞いて目を覚ました、明日菜の同室の近衛木乃香が寝起き顔でこちらを見ている。
「こ、木乃香、この変態教師が私のベッドに入ってたのよ。まったく、信じられない!
いくら子供だからってやっていい事と悪いことがあるって言うのに」
そう言って、ペイッとごみを捨てるかの様に掴んでいた襟から手を離す。
もちろんネギは気絶しているため、その場にベチャと買ったばかりのアイスクリームがコーンから落ちた時の様に潰れた。
「あ〜、あのなぁ明日菜」
同情の眼差しをネギに向けながら、興奮する明日菜に木乃香が言う。
「何よ?」
「ネギ君がここにおるんのはな。昨日の夜、明日菜が倒れたからってここまで運んできてくれたからなんよ」
「はぁ?私が倒れたっていつ……。アッーーー!」
そこでようやく明日菜は昨日の夜の事を思い出した。
(確か昨日の夜、桜通りでのどかちゃんが吸血鬼に襲われて、その場に偶然居合わせたネギが吸血鬼を追いかけて行ったんだっけ。
その後を私が追いかけて……追いかけてどうしたんだっけ?)
「ネギ君ずっと心配して看病しててくれたんよぉ?ほら、頭ぶつけたから心配やって」
そう言うと木乃香が手鏡を明日菜に差し出す。
明日菜はそれを受け取ると自分の顔を鏡に映した。
「な、何よこれ〜!」
そこに映っていたのはおでこに円形の痣をつけている自分の顔だった。
学園長室
「そうか。いや、報告ご苦労じゃたな衛宮君」
ふぉふぉふぉとバルタン笑いをしながら朗らかに学園長が言う。
「はぁ、本当に大変だったんですよ?特に最後が……」
「ん?何か言ったかの?」
「いえ、何でもありません」
結局、昨日の夜のエヴァンジェリンと遠坂の口喧嘩は明け方まで続いた。
終了の合図は、日が出てきたのに気がついたエヴァンジェリンが帰ると言い出したからだ。
恐らく、日が出てきて魔法が使えなくなったからだろう。校舎の屋上から立ち去ろうするエヴァンジェリンと茶々丸に、遠坂は最後まで罵詈雑言を・・・・
その遠坂も先ほど家に立ち寄った時に、疲れたから報告は任せると言って、さっさっと自分だけ寝てしまった。
まぁ、あれだけ壮絶な口喧嘩をすれば疲れるだろう。
「で、ネギ君は大丈夫かの?」
「大丈夫とは?」
「エヴァに勝てるか? と言うことじゃよ」
「それは……勝てるかどうか言われれば、ほぼ勝てないでしょう。
エヴァンジェリンの経歴が話どおりであれば、経験の差で圧倒的にエヴァンジェリンが有利です」
先日、学園長から吸血鬼がエヴァンジェリンという事を聞いた俺たちは、彼女について色々調べていた。
本命 Evangeline.A.K.McDowell
推定年齢600歳前後。
特殊な生い立ちの為、多くの刺客に狙われ、その全てを跳ね除けて今まで生き続けて来たそうだ。
魔法会では賞金600万ドルと言う莫大な賞金がかけられている。
『闇の福音』という名で魔法世界では恐怖の対象だそうだ。
「まぁ、そうじゃろな。経験の差が大きいからの。
それでは君たちは如何するのじゃ?ネギ君を助けるのか」
「いいえ。様子を見ます。遠坂は徹底抗戦と言っていましたが、俺はネギ君の成長のためにも、この戦いは必要だと思います」
きっぱりと俺の考えを学園長に話した。
「……ほぉ、それは君の経験からかの?」
すると学園長が目を細めながら何かを探るように俺に尋ねる。
「……そうですね。俺の時はこんなもんじゃなかったですけど」
そう、俺が経験したのはこんな生優しい物ではなかった。
聖杯戦争。
知略と暴力が渦巻き、憎悪と欲望が蔓延る殺し合い。
あの時の経験が結果は如何あれ、俺をここまで成長させたのだ。
ネギ君はまだまだ甘い。
子供だからと言うこともある。
だが、いずれにしても、いつか彼は見なくていけない。知らなくてはいけない。
こちらの裏の世界はまだ知らないことが多いが、裏の世界は何処まで行っても裏なのだ。
危険な事に関わると言う事が、どんな事なのかを彼は知らなくては。
「すまんな。嫌な事を聞いたようじゃな」
余程深刻な顔をしていたのだろう。学園長がそう俺に声をかけてきた。
「いえ。気にしないでください」
「そうか。では傍観と言うことじゃな」
「はい。我侭言ってすみません」
「いいんじゃよ。わしもネギ君にはこういう経験は必要と思うからの。特にナギの息子であるネギ君はな」
その頃、ネギは明日菜に昨日の事を話しながら学園に向かっていた。おでこの痣については転倒した時についたと話した。
「ふ〜んなるほどね。エヴァンジェリンが吸血鬼だったんだ」
「ええ、だから学園に行きにくくて」
ネギの脳裏には昨日のことが浮かぶ。
迫りくる鋭く伸びた犬歯と朱い唇。
チラリと覗く舌。
そして何よりもエヴァンジェリンの愉悦に浸った顔。
ごくりと喉がなる。
そんな青ざめたネギに明日菜が何でもないように声をかけた。
「大丈夫よ。学校で襲ってきたら校内暴力とか言って停学にすればいいじゃない」
「そ、そ、そんな単純な話じゃないんですよ!」
キーンコーンカーンコーン
「あ、ほら鐘が鳴ってる急ぐわよ。教師が遅刻なんて恥ずかしいでしょ」
そう言うと明日菜はネギの腕を掴むと駆け出した。
「あ〜ん、ちょっと待ってくださいよ。まだ心の準備ができてません!」
衛宮家
学園長の報告が終わると、俺は一旦家に戻った。
「ただいま、遠坂〜寝てるのか?」
家の中から返事は無い。寝ているようだ。
とりあえず、来ていた服を脱ぎ、シャワーを浴びる。
風呂から上がるとジャージに着替え学校に行く準備をした。
最初の頃はスーツを着ていたが、用務員の仕事もするようになって最近はジャージで通っている。
家を出る前に遠坂の部屋に立ち寄り様子を見た。
ベッドの上でスゥースゥーと寝息を立てて寝ている。なぜか下着姿で。
昨夜着ていた洋服は、ベットの周りに脱ぎ散らかしてあった。
「はぁ、もう少しこういう所はキチンとしてくれないかなぁ」
そうつぶやくと、起こさないように部屋に入り、脱ぎ散らかしてあった服を集めて畳み、部屋の椅子の上に置いておく。
まだ、肌寒い季節なので寝ている遠坂に毛布をかけた。
それがすむと、小さな声で「お休み」と言うと、俺はゆっくりと音を立てないように部屋から出て行った。
麻帆良学園 3−A教室前
「ど、どうですか?エヴァンジェリンさんはいますか?」
オドオドしながらネギは明日菜に尋ねた。
明日菜は教室の扉から首だけを中にいれ見回す。
「いないわね。そういえば普段からエヴァンジェリンはあんまり見かけないわよ。ねぇ木乃香」
「そやねぇ。ウチもあんまり見いへんわ。授業中もおらへんしなぁ」
二人の言葉にネギはホッと息を吐き、教室の扉に手をかけ開けようとした。
「ネギ先生」
「わあぁ!」
突然ネギは後ろから声をかけられ飛び上がった。
声をかけてきたのは、昨日の夜にエヴァンジェリンと一緒にいた茶々丸だった。
「あ〜、茶々丸さんおはよう」
のんきに挨拶する木乃香とは対照的に、ネギの顔は死人のように青ざめた。
話を聞いていた明日菜は身構える。
と、茶々丸の側にエヴァンジェリンがいないことに気づいたネギは恐る恐る尋ねた。
「エ、エヴァンジェリンさんは?」
「―――マスターは学校には来ています。
ですが教室には来てません。つまりサボタージュです」
「よ、よかった」
「……お呼びしますか?」
「とんでもないですぅ。結構です!」
「……そうですか」
麻帆良学園屋上
「こういうのって普通は水道局の人がするのかな?」
そうぼやきながらも俺はパイプの破損箇所を探した。
ここは麻帆良学園の屋上。ここにいるのは昨日のネギとエヴァンジェリンの戦闘で貯水タンクのパイプが破損したらしい。
その修理を学園長に頼まれたからだ。
「――――同調、開始」
魔術を使い、破損箇所を調べる。
「全部で5ヵ所か」
漏れ出した水は、屋上の端のほうにある排水溝へ流れているから周りは水浸しにはなっていない。
だが亀裂が5カ所あるのだ。相当の水が流れ出していた。
「こういうのをを塞ぐのは結構大変なんだけどなぁ。学園長も簡単に言ってくれる」
先ほどみたいにまたぼやく。
ここ最近、用務員の仕事を請け負う様になってから、学園長の注文がえらく多い。
やれ、階段の破損した床板パネルや校内の破損した壁を直せとか、木製ベンチの修理とか等だ。
そして、何より許せないのが3−Aの連中。
あいつら何をしたらこんなに壊すんだ?と思うほど机や椅子の破損が多い(偶に血糊がついているのは深く考えない)
「ネギ君一人でだいじょうぶかな?」
そんなことを考えながらも手はテキパキと動かす。
工具箱から取り出したチューブ型パテで亀裂箇所を埋めて、乾くまで待つ。
乾いたらその上にシートを巻き、またその上からパテを塗る。
投影の魔術を使ったほうが楽だが、こんなことに魔力を使いたくない。それにこの身は剣に特化した存在。
無理な投影は遠坂に禁止されている。
「よしっ。こんなもんかな」
1時間ほどで作業は終了した。
ずっとかがみこんで作業していたので、うーんと背筋を伸ばしコリをほぐす。
と、そこで屋上に誰かいる事に気がついた。
日陰の部分で、誰かが壁に背を預けて寝ているようだ。さっきまで屈んで作業に集中していたから気がつかなかったらしい。
「あれ、いま授業中じゃないか。まったく、サボりだな」
そんなことに気づいた俺は授業をエスケープしてきた生徒を注意しようと近づく。
「君、授業をサボっておひるね……」
「ふわ〜あ。ん?」
しばし見詰め合う。
「「あ―――――!」」
そこで寝ていたのはエヴァンジェリンだった。
「貴様、ここで何をやっている!」
すかさず戦闘態勢のエヴァンジェリン。そんな彼女に呆れながら俺は言った。
「なにってなぁ。昨日のお前たちの戦闘の尻拭いだ」
「はぁ?」
「昨日の戦闘で貯水タンクのパイプが破損したんだよ」
先ほどまで流れ出していた水の跡を指差して言う。
「そうか、それはそれはすまなかったな」
反省の色をまったく見せない棒読みでエヴァンジェリンが言う。
「……おまえなぁ、少しは反省しろよな」
「何故私が反省しなければいけないのだ。この学園に封印したのが悪いのだ。私がそんな事知るか」
「……」
「大体だな、お前たちが……」
突然エヴァンジェリンが話の途中に黙り込んでしまい、顔を下げた。
「? どうした?」
「……小さいが、何か来たな。学園の結界を越えた者がいる」
唐突にポツリとかわいらしい唇から漏らした。
「なんだと」
黙り込んでいたのは結界に集中していたためらしい。
「侵入者だ。調べに行く」
それだけを言うとさっさっと屋上から出て行こうとする。
「あ、おいちょっと待て。俺も行く」
「必要ない」
「何言ってんだ。危ないかもしれないだろ」
「……貴様誰に向かってそんなことを言ってるんだ?
私は真祖の吸血鬼だぞ。そうそう遅れは取らん」
「お前こそ何を言っている。今は日中で、満月じゃない。昨日みたいに行かないぞ。
それに俺も学園の警備員だ」
「……フンッ。勝手にしろ」
そう言うと彼女は屋上から出て行った。
後書き
最近どうも筆が遅く、文がめちゃくちゃになる傾向が・・・・・・
少々気が緩んでいるのかもしれません。
初心に帰ってがんばります。