「ネギ君は?」
「あそこだ」
校舎の屋根の上では睨み合うネギ君とエヴァンジェリンの姿があった。
赤い丘より新たな世界へ15
俺は学園長への報告が終わった遠坂と合流して、ネギ君がいる場所から少しはなれた建物の屋上にいる。
「へー、追い詰めているみたいじゃない。これなら大丈夫ね」
「いや、見ろ。エヴァンジェリンには協力者がいるみたいだ」
校舎の上では何故か下着姿になっているエヴァンジェリンとネギ君が何か話している。
とそこへ、何処からともなく現れた人影が彼女を守るように立ちはだかった。
「あの子は・・・・・・」
「出席番号10番の絡繰 茶々丸。エヴァンジェリンの仲間みたいだな」
「なるほど、ミニステル・マギ(魔法使いの従者)ということね」
聞きなれない言葉を遠坂が言った。
「何だそのミニなんとかというの?」
「ミニステル・マギ(魔法使いの従者)よ。学園長に借りた本にあったわ。
魔法使いは呪文詠唱中は完全に無防備になるの。だから、その間に攻撃を受ければ致命傷になるし、呪文も完成できない。
そこで考え出されたのがミニステル・マギ(魔法使いの従者)ってわけ。
ミニステル・マギ(魔法使いの従者)は、詠唱中の魔法使いの盾となり剣となって主人を守るのよ。
あの様子からすると、たぶん絡繰さんがエヴァンジェリンの従者みたいね」
遠坂のミニステル・マギについての説明の後、普通に俺は思った。
「ということはネギ君危なくないか?
彼にはミニステル・マギ(魔法使いの従者)がいないんだからさ」
し〜んと一瞬その場の空気が固まった。
「・・・・・・ちょっとやばいかも?」
「ちゃ、茶々丸さんがエヴァンジェリンさんのパートナーなんですか!」
ネギの目の前に現れた茶々丸は、マスターであるエヴァンジェリンを守るように構える。
そして、エヴァンジェリンは勝利の笑みを浮かべた。
「残念だったな坊や。これで私の勝ちだ」
「申し訳ありませんネギ先生。マスターのご命令ですので」
「くっ、パートナーがいなくたって!風の精霊 11人・・・・・・あぶぶぶ」
ネギが呪文を唱えようとするとすかさず茶々丸が妨害する。と言っても軽くはたいたり、頬を抓る程度の攻撃だ。
何度もネギは攻撃しようとするが、そのたびに茶々丸が妨害し、ついに羽交い絞めにされた。
「ふふふ、ようやくこの日が来た。奴が私にかけた呪いを解く日が!」
そう言いながらエヴァンジェリンは茶々丸に捕まったネギにゆっくりと近づく。
「え・・・の、呪いですか!?」
突然の事に驚くネギへエヴァンジェリンは、嬉しさを隠し切れないのか顔をニヤニヤ笑わせながら言った。
「そうだ!お前の・・・・・・お前の父親であるサウザンドマスターに敗れて以来、私は魔力を極限まで封じられて、15年間もノー天気な女子中学生と一緒にお勉強させられているんだよ!」
「そ、そんな事を急に僕に言われても〜」
「・・・・・・この呪いを解くには奴の血縁たるお前の血が大量に必要なんだよ。
だから悪いが死ぬまで吸わせてもらうぞ」
エヴァンジェリンの口から吸血行為のための異様に長い犬歯がギラリと覗く。
その迫力にネギは恐怖に駆られ叫んだ。
「うわ〜ん、誰か助けて〜!」
「――――同調、開始」
先ほどよりさらに視力を強化し、精神を標的に集中させる。この一撃ははずせない。
「――――投影、開始」
投影するのは漆黒の弓と先端が吸盤になっている玩具の矢を投影する。
「士郎」
「わかっている。軽く脅しをするだけだ。害はないさ」
キリリと弦を引くと俺は矢を放った。
銀の閃光が夜空を切り裂き、標的へ一直線に走る。
「あ〜ん、カプッ」
「あぅ・・・あっあぁ・・・・あ」
ネギの首筋にエヴァンジェリンは噛みつき、チューチューと血を吸すっているとそこへ
「コラーこの変質者ども―――っ!!ウチの担任に何すんのよ――――ッ!!」
ドカッ
「はぶぶぅっ」
突然現れた乱入者に、エヴァンジェリンはとび蹴りを貰い茶々丸と一緒に屋根の端まで飛ばされた。
だが腐っても真祖、この事態に混乱しながらもすぐさま起き上がる。
とそこである事に気がつき驚愕した。
「ま、魔法障壁を破っただと!?」
戦闘中は常時展開しているはずの魔法障壁をいとも簡単に乱入者は破ったのだ。
力が弱くなっているとはいえ、簡単には破れないはずなのに。
「い、一体だれが・・・・・」
乱入者を確かめようとエヴァは振り向くと
そこはカオスだった。
「あ、明日菜さん、しっかりしてください!傷は浅いです!」
「神楽坂、すまない。お前が飛び込んでくるとは・・・・・・」
「明日菜ちゃんしっかり!死んじゃダメよ!」
なぜか額から玩具の矢を生やし、目を回して気絶している神楽坂明日菜と、いつの間にか現れた衛宮士郎と遠坂凛がいた。
突然降って沸いた映画のワンシーンの様な光景にエヴァンジェリンの頭は混乱した。
「明日菜さん、明日菜さん!」
「あ〜高畑先生だ〜、タカハタせんせい〜」
ネギの呼ぶ声に明日菜は訳の分からない事を言いながらネギに抱きつく。
「や、やばい。幻覚症状だ。おいしっかりしろ神楽坂!」
「明日菜ちゃん、気をしっかり持って!」
ギャーギャーと騒ぎまくるネギたちに、ハッと混乱した頭からようやく抜け出したエヴァンジェリンは、自分の存在を無視している士郎たちに向かって叫ぶ。
「おい、お前ら!私を無視するな!」
その叫びに見向きもしない士郎たち。
すかさず茶々丸がつっこむ。
「残念ながらマスター、彼らはまったく聞いていません」
「くっ」
エヴァはズカズカと近づき、士郎たちに己の存在を知らせようとした。
「おい、聞けお前ら」
「くっ、完全に気絶した。・・・・・・あの場合は仕方がないよな?」
明日菜の頬をペチペチ叩きながら、士郎は遠坂にいい訳をする。
「そうね。仕方ないといえば仕方ないわよ。
まぁ脳震盪だと思うから、そんなに心配しなくても大丈夫よネギ君」
「で、でも。さっき死ぬな!とか言ってませんでしたか?」
「冗談に決まってるでしょうネギ君。これでも私はそこらの医者以上に人体には詳しいのよ。とりあえず安静にしていれば大丈夫だから」
明日菜を診断した遠坂がオロオロするネギに言う。
それを聞いたネギはホッと胸を撫で下ろした。
「あ〜だけど起きたらやばいかもな」
突然士郎が頭を抱える。
「何でですか?」
「だってこの矢を射ったのが俺だとわかったら」
明日菜のおでこに張り付いていた玩具の矢をプラプラと振りながら士郎が言った。
ちなみに明日菜のおでこにはくっきりと円形の吸盤による痣がついていた。
「確実に怒るわね。よくてグー1発、悪くて半殺しかしら。私は半殺しにかけるけどね、明日菜の性格なら」
「はぁ〜だよな〜。・・・・・・よし、ネギ君後はまかせた。先生としてちゃんと寮まで送るんだよ」
さわやかスマイルでネギ君の肩に手を置きながら士郎が言う。
「え、なんで僕が!」
「だって君は彼女の担任だろう?」
そんなほのぼの?とした3人のやり取りに、ついにエヴァンジェリンは我慢できなくなり、あらん限りの叫びを上げた。
「い、いい加減にしろ〜お前ら!私を無視するな〜〜!!」
ピタッ
ようやくエヴァンジェリンの存在に気がついた士郎たちは動きを止め、そちらを見る。
「はぁ、はぁ、お前ら私を無視するとはいい度胸だな。この屈辱忘れんぞ」
荒い息を吐きながら何処となく目も潤ませながらエヴァンジェリンがこちらを睨んでいた。
遠坂は明日菜をネギに預けるとエヴァに言った。
「あらエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさん、こんばんわ。
こんな時間にこんな所で何をしていらっしゃるのかしら、子供はそろそろ寝る時間よ?」
完全にあかいあくま猫かぶりバージョンである。
「ふん、どうせ見ていたのだろう、この狸が。だいたい貴様の方が私より子供だろうが、この貧乳の小便くさい小娘が」
エヴァンジェリンの挑発に遠坂は我を忘れて激怒した。
無理もないだろう。ロンドンにいるころに、桜に匹敵するぐらいまで成長した胸が、今では昔以上に・・・・・・。
「ひ、貧乳ですって!そ、それを言うなら貴方もでしょうが!
だいたい貴方は私より600歳ぐらい年上なんでしょう。
真祖だろうがなんだろうがしらないけど私からすれば、しょせんあんたなんかただの皺くちゃのババァよ!」
「な、なんだと。私の何処が皺くちゃババァだ!まだピチピチなのだぞ。見ろこの柔肌をこれでもババァだと言うのかこの小娘が〜!」
「お、落ち着けよ二人とも。今そんな話をする事ないだろ」
喧嘩を始めた二人をなだめ様と士郎は声をかけた。
『アァ?そんな話〜ぃ?』
二人同時に振り向き、視線で人を殺すどころか神を殺せるぐらいの眼光で士郎を睨む。
「い、いえ。なんでもありませんです。はい。なんでもありません」
全身に冷や汗をかきながら、士郎は再び壮絶な口喧嘩を始めた二人を見て思った。
魔術や魔法を使わない事だけはありがたいと思っておこう。
「あの、士郎さん僕はどうしたらいいんでしょうか?」
二人の壮絶な口喧嘩を不安そうに見ながらネギは士郎に尋ねる。腕の中には相変わらずおでこに間抜けな痣を残して、気絶している神楽坂。
「あ〜、とりあえず神楽坂を寮まで運んで上げてくれ。確か近衛と同室だったと思うから」
「分かりました。士郎さんはどうするんですか?」
「・・・・・・とりあえずあの二人を止めて、学園長の所へ報告に行ってくる。遅くなると思うから先に帰って寝てて」
「分かりました。・・・・・・生きて帰ってきてくださいね」
「うっ、善処するよ。ほら、早く行かないとまた捕まるよ」
ネギは明日菜を抱えると杖に乗り、女子寮を目指して一目散に飛んで行った。余程エヴァンジェリンの事が怖かったのだろう。
いや、二人の争いに巻き込まれたくないだけかもしれない。
そんな事を考えながら、残された俺は今だ口喧嘩を続ける二人を見てため息を吐く。
「この貧乳の××××が!おまえなど女の魅力のカケラもないわ!ほれ見ろ、このダイナマイトボディの私を」
とエヴァンジェリンはドロンと先日襲ってきた金髪の美女に姿を変えた。確かにダイナマイトだ。
「何馬鹿な事を言ってるのよ。そんなの幻影じゃない。
大体魅力がないですって?チャンチャラおかしいわね。だって士郎は私の魅力にメロメロなのよ!」
「あぁん〜お前の魅力にメロメロだと言うのかあの男は。だったらあいつはロリコンだな。そしてその変態を魅了して喜ぶお前も変態だ」
「な、な、な、なんですって〜。よりにもよってなんて事を言うのよ!」
エヴァンジェリンの言葉にさらに逆上する遠坂。さすがに俺もそんな事を言われれば黙っていられない。
「オイ、勝手に人をロリコンだとか、変態とかいうな!俺はいたって健全だ!」
するといつの間にか士郎の横に茶々丸が立ち、妙に冷静な口調でつっこむ。
「いえ、士郎先生。遠坂さんに手を出している時点で貴方はロリコンです」
「うっ・・・・・・と、とにかく二人とも口喧嘩はそこまでにしておけって、明日も学校があるんだぞ?早く帰って寝ろ、子供は寝る時間だぞ」
士郎の説得にエヴァンジェリンは絶対零度の冷ややかな視線を向けて言い放った。
「黙れロリコン。貴様の指図はうけない」
「士郎。ここまで言われたら私も引き下がれないわ」
睨み合う遠坂とエヴァンジェリン。二人の間には壮絶な火花が散っていた。
その光景に何を言っても無駄だなと悟った士郎はため息を尽きながら言う。
「・・・・・・はぁ、もう勝手にしてくれ」
そしてそれが始まりの合図となった。
はい第15話の終了です!
明日菜ごめんよ。君の一瞬の輝かしい活躍は忘れない。
それと明日菜に矢が当たる前に投影した矢を消せばいいなどの指摘はご勘弁をm(__)m
そして茶々丸、お前はツッコミ役に決定だよ。
という感じの15話でした。
そして次回こそはカモ君が出演します!お楽しみに。
おまけ
「どうぞ士郎先生」
「あ、わるいなお茶なんか貰って」
「いいえ。構いません」
遠坂とエヴァンジェリンの壮絶な口喧嘩を前に、少し距離をとり、何処からかもって来た茣蓙の上に座り、お茶で和む士郎と茶々丸。
「そろそろ夜が明けるな」
「そうですね」
「早く終わると良いな」
「そうですね」
「ちょっと止めてきてくれない?」
「すみません無理です」
一体何時まで続くのか乙女のバトル!
おわれ!