「遠坂さん。この感じは・・・・・・」

「ええ、魔力を感じるわね」






赤い丘より新たな世界へ14







ほのかに消毒液の匂いがする保健室のベットには、佐々木まき絵はスヤスヤと眠っていた。
しずな先生が言うには、昨日桜通りで寝ているのを発見されたとの事だ。

「甘酒飲んで寝てたんじゃないの〜」

と暢気に椎名桜子が言う。
周りには3-Aの面々が、狭い保健室の中に、まき絵を心配して押しかけていた。
それぞれ口々にまき絵について、ガヤガヤと口々に喋って騒がしい。

そんな面々を後ろに、遠坂とネギ君がひそひそと何か話していた。

「どうしたんだ?」

「それが『魔力の痕跡があるわ』・・・・・・そうなんです」

ネギ君の台詞を遮り、遠坂が俺に言った。
眠っている佐々木の首を指差して、状況説明をしだした。

「まき絵さんの首周りを見て。傷が二つあるわ。ここを中心に微かだけど魔力を感じる。それにこの傷の感じは・・・・・・でもこれは・・・・・・」

ブツブツと思考の渦にはまり込んでいく遠坂。俺も指摘された傷を見たときに気づいた。
そう、吸血鬼に噛まれた時の傷と似ていた。遠坂もそれに気づいたのだろう。
こちらの世界では吸血鬼というのが、どのような物か判らないが佐々木を見た感じは普通に眠っている。
噛まれたとしたら死徒に、または死者になっているはずである。
佐々木からそのどちらの感じもしないのが、遠坂は疑問に思っているのだろう。
だが、この首の傷から見て吸血鬼に噛まれたという可能性は高い。
何時、どの様な事が起こっても大丈夫な様に、俺は武器の設計図を造っておく。隣の遠坂も険しい表情をしている。おそらく同じ考えなんだろう。
でも、もしもの時は俺が・・・・・・

「どうしたんですか?」

心配そうにネギ君が見上げている。俺の表情が硬くなっているのに気がついたのだろう。

「いや、なんでもないよ」

この子には教えられないなと思った。
自分の生徒というより友人に近いかも知れないが、それを殺すかもしれないことになるなんて、絶対に教える事は出来ない。

とその時

「失礼するぞい」

学園長が保健室に来た。生徒の1人が倒れていたと聞いてやって来たのだろう。

「おっと、みんな来ておるのか。あ〜申し訳ないんじゃが衛宮先生と遠坂さん以外は教室に戻りなさい」

「衛宮先生はわかるけど、なんで遠坂さんもなのですか?」

学園長の言葉に綾瀬夕映が疑問を持つ。

「事情は話せないんじゃ。ネギ君、生徒を教室まで連れて行きなさい」

「えっ!僕もダメなんですか?」

「すまないな。衛宮先生たちだけと話しをしたいんじゃよ」

「・・・・・・判りました。皆さん教室に戻りましょう」

ネギ君は学園長の雰囲気から何かを感じ取ったのだろう。
それ以上何もいわずに、ブーブー文句を言う生徒達を保健室から外に押し出して、自分も最後に出て行った。

「で、話は吸血鬼の事ですか?」

遠坂が先に学園長に聞く。

「まぁ、そうなんじゃが。・・・・・・2人とも何をピリピリしておる?」

「学園長、1つお聞きしたいのですが」

「なんじゃ?」

「吸血鬼に噛まれたらどうなりますか?この世界でも、やはり死徒または死者になるんですか?」

俺が最も聞きたい事を遠坂が学園長に尋ねた。

「死徒というのが何かは判らんが、吸血鬼に噛まれたら、吸血鬼になるわけではないぞ。この世界で吸血鬼と言うのは、失われた秘術で吸血鬼になった者のことを言うのじゃ。
 そっちの世界ではどうなるかは知らんが、そんなに警戒せんでも大丈夫じゃよ。
 まぁ、操られたりするがそれも解呪できるからの」

学園長の言葉に俺達はホッと胸を撫で下ろす。とりあえずは佐々木は大丈夫みたいだ。用意していた設計図を霧散させる。

「それでじゃがな。今回のこの事件についてなんじゃが・・・・・・実は犯人は判っておる」

「犯人がわかっている?どういうことですか?」

ズイッと遠坂が学園長に迫る。さすがにこれは俺も頭にきた。判っているのなら、何故止めないのか、何故捕まえないのか、学園長の考えがまったくわからない。

「う、うむ。まぁそう興奮しなさんな。多少は血が減るがそこまで害は無いし、それにこの事件の犯人は生徒なんじゃよ」

「「生徒?」」

「2-Aにエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルという子がおるじゃろ?あの子は事情があって、この学園に封印されている真祖の吸血鬼じゃ」

「「真祖!」」

真祖とは、世界の意思によって生み出された精霊に近い存在。はっきり言って、あの聖杯戦争の時のサーヴァントでも勝てないだろう。

「そっ、そんなのがこの学園に封印してあるの?」

「いまは封印の影響で人間と変わらんがな。満月になるか血を吸えば多少は魔法を使えるようじゃが」

「・・・・・・つまりそれ程は危険ではないという事かしら?」

「まぁ封印が解ければ並みの魔法使いでは太刀打ちできんじゃろ。ほれ、衛宮君達が襲われたと言っておったじゃろ。
 君達を襲ったのも彼女じゃよ。まぁ、あの時は4割ぐらいの力だと思うんじゃが・・・・・・」

「はぁ、よかった。こっちの世界では真祖ってその程度なんだ」

「まったくだ。あのアルクェイドさんみたいな人だったらどうしようかと思ったよ」

アルクェイド・ブリュンスタッド、向こうの世界でただ1人になってしまった真祖の姫君。今は眼鏡の騎士と一緒にお城でラブラブしてると思うが、あの人と出会ったときは凄かった。本気で死にそうになった。

「その程度なんてエヴァに聞かれたら大変じゃ。そんなにそっちの世界の真祖は凄いのかの?」

「凄いなんてもんじゃないですよ。本気出したら地球最後の日です」

「なんと!」

俺の話に学園長の目が見開かれた。そうと驚いているようだ。

「ふむ、やはり世界が違うというの根本が違うというか・・・・・・あ〜でだ、話を戻すぞい、エヴァが何をしているかと言う事じゃが、エヴァの封印はネギ君の父親が行ったものでの、その名も『登校地獄』と言う。
 でこの封印まぁ呪いのほうが正しいかの。これを破るためには呪いをかけた者の血縁者か、本人の血で解けるみたいなんじゃよ。
 だから、今のうちに他の者の血を吸って魔力を蓄えてから、ネギ君を襲うつもりなんじゃろ」

なんかすごい呪いだな。登校地獄なんて誰が考えたんだ?横を見ると遠坂の顔も少し引きつっている。ネーミングセンス最悪だし。

「つまり私達に、ネギ君の周りを注意しろと言う事ですか?」

「いや、逆じゃ。手を出さないで欲しい」

「それはどうしてですか?」

「あの子の成長のためじゃよ。まだ今は子供じゃが何時かは大人になる。それにあの子の父親は裏の世界では余りに有名すぎる。その事であの子自身に何らかの危害が加えられる事があるじゃろう。
 いつまでも誰かが守ってやる訳にはいかん。ネギ君はいつか自分の力で生きていかなくてはいけなくなる。そのための試練じゃよ」

「・・・・・・そうですね。俺もそれには同意です。ですが、過保護かもしれませんが、本当にネギ君が危ないと感じた時は介入させてもらいます」

「それはかまわんよ。・・・・・・本当に君達はネギ君を大事にしとるの」

「当たり前じゃないですか家族なんですから」

「そうか、家族か・・・・・・」

そう言って学園長は、よっこらしょと腰を上げて保健室のドアに向かった。

「衛宮君と遠坂君、あの子の事をよろしく頼むぞ」

「はい」

そして学園長が出て行った保健室には、俺と遠坂とまだ眠りこけている佐々木だけが取り残された。

「さて、とりあえずはどうする?」

「とりあえずは様子を見ましょう。そのうち何らかのアクションを向こうから起こすと思うから」

「そうだな。じゃ、俺はまだ仕事があるから。遠坂は授業がまだ残っているだろ」

「そうね。あ〜あ、中学生の授業なんてつまんないわ」

そんなことを遠坂はぼやきながら保健室から出て行った。そして俺も仕事に戻るために保健室から出た。






夜、桜通り

ざわざわと少し強い風に揺られて、桜通りには花びらが舞っていた。
頼りない街灯と月明かりに照らされた、そんな通りを宮崎のどかは歩いていた。
先ほど明日菜たちと別れて1人で寮に向う途中である。

「か、風強いですねーーちょっと急ごうかな〜」

のどかの頭の中には今日の話が思い浮かんでいた。
吸血鬼なんていないと思っていても、薄暗い夜道を1人で歩くのはかなり心細い。
ザワッと木々が風に揺られるたびにビクッと体をふるわせる。

「こ・・・・・・怖くない〜、・・・・・・怖くないです〜・・・恐くないかもぉ〜・・・・・・」

心細さを紛らわせようと、即興の鼻歌を歌ってみるが、逆に周りに誰もいないと言う事を再認識させるだけだった。

「ちょっと急ごうかなー」

誰もいない空間にそう言うと、さっきより早歩きになって寮に急ぐ。
とその時

「27番宮崎のどかか・・・・・・悪いけど少しだけその血を分けてもらうよ」

「えっ!」

突然、何処からか声が聞こえると、のどかの頭上を黒い影が覆った。






校舎屋上

「で、どうする?さっそく相手が動き出したぞ」

「大丈夫よ。ほらネギ君が向かってるわ」

「でも、その後ろの方から神楽坂達も向かっているんだが?」

「・・・・・・士郎、行って来なさい!」

「何で俺だけなんだ?」

「あんた1人でも大丈夫でしょ。学園長に報告してから、私もすぐに行くから先に行って」

「・・・・・・りょ〜かい」

そうして2つの赤い影が消えた。






桜通り

「まてー!ぼ、僕の生徒に何するんですかーっ!」

『ラス・テル マ・スキル マギステル 風の精霊11人 縛鎖となりて 敵を捕まえろ 魔法の射手・戒めの風矢!!』

今まさに宮崎のどかの首筋に噛み付こうとした吸血鬼に向かって、ネギは捕縛魔法を使った。

「ちっ、もう気づいたか。氷楯・・・・・・」

すぐさまネギの存在に気づいた吸血鬼は、小瓶を投げつけてネギの呪文をはじき返した。
しかしさすがに勢いまでは止められず、はじきとばされる。
そして月明かりに照らされた吸血鬼の顔をネギは知っていた。

「き、君はうちのクラスの、エヴァンジェリンさん!?」

「フフフ、10歳にしてこの力。さすがに奴の息子だけはあるな」

そう言ってエヴァンジェリンはニヤリと笑った。
黒いマントを風にたなびかせながら、ゆっくりとネギに歩み寄る。

「な・・・・・・何者なんですかあなたはっ!
 僕と同じ魔法使いのくせに何故こんな事を!?」

ネギの叫びが夜の桜通りに響く。
その叫びをエヴァンジェリンはマントの下から小瓶を取り出しながら答えた。

「この世には・・・・・・良い魔法使いと悪い魔法使いとがいるんだよ、ネギ先生」
『 氷結 武装解除! 』





「ネギ君!!」

俺が桜通りについた時、黒い影が遠ざかっていくところだった。既に現場には神楽坂たちがいた。

「士郎さん!彼女達をお願いします!」

「え?あ、ちょっと!」

それだけを言うと、俺の呼び止める声も聞かずに、ネギは風の様に走り出して、あっという間に見えなくなった。

「私もちょっと行ってくる!」

「ちょ、明日菜〜」

「ま、待て、神楽坂」

その後を神楽坂が、ものすごいスピードで追い駆けて行ってしまった。
その場に残された、俺と近衛は呆然としてしまった。追い駆けようにも、すでに目では見えないくらい遠くに行ってしまった。

「と、とりあえずはどうしようか?てっ、何で宮崎は裸なんだよ」

近衛の腕に抱かれていた宮崎は見事に素っ裸だった。

「うちもよう分からへん。ここに来た時はもう服が脱げてた」

「そ、そっか。とりあえずこれを着せとこう」

俺は赤い聖骸布のコートを脱ぐと宮崎にかけた。

「さてどうしたらいいものか」

事態が思わぬ方向に動いているなぁと思いつつ、これからの事を俺は考え始めた。





はい、14話の終了です!はしょりすぎました!ごめんなさい!
今回の話は書くのが大変だった。設定も考えるのが大変でした。
仕事の合間にちょくちょく書いていたので、読み直して見ると、誤字・脱字多数です。
また、ネギまの世界で、吸血鬼が生まれる方法の明確な設定が分からず、とりあえず某所から引用しました。間違ってたらごめんなさい!
今回の話は、いろいろと変な所があるかもしれません。またまた、ごめんなさい。
あ、あと前に「雪広」を「雪平」などと書いてしまったので、ネギま辞書というのを導入しました。
これで少しは誤字が減るかな?
次回をお楽しみに!





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