赤い丘より新たな世界へ4
放課後になったので、とりあえず遠坂と一緒に学園長室へ向かう。
住居のことはもちろん、お金などの今後のことについて話さなければいけないからだ。
コンコン
「失礼します」
「どうぞ」
机で書類に何か書いている学園長。
「まぁ、座りなさい」
学園長の言葉に従い、俺たちは応接用のソファーに座る。その対面に学園長が座った。
「さて、今ここには誰もおらんし聞いてもいないから、何でも聞きなさい。
住居などの件については後ほどな」
その言葉に遠坂が反応した。
「そうですね。小さいことは後にします。今は、現状の把握が先なので」
遠坂の言葉に、俺は気を引き締めた。ここは異世界だ。いまがどのような状況なのか把握しなければならない。
「まず、此方の魔術体系はどのようなものかお聞きかせください。
それと魔術協会と聖堂教会についても」
「っ!」
遠坂の言葉に俺は衝撃を感じた。そう、俺たちは一級指名手配として魔術協会と聖堂教会に追われていたのだ。
もしこちらの世界の奴等に俺たちの存在が嗅ぎ付けられれば、最悪この学園は戦場になる。俺の心に嫌な思いが溢れる。
すると学園長が不思議そうに言った。
「魔術? 魔術協会に聖堂教会? おぬしら何を言っとるんだ?」
「「えっ!」」
俺たちはその言葉に驚いた。
出会った時から学園長が強力な魔術師であるとは分かっていたが。
もしかしてあまり裏にかかわりがないのか?と思っていると、
「この世界にはそんな組織は存在せんぞ。あるのは魔法協会じゃな。日本には関東魔法協会と関西呪術協会がある。
ちなみにわしは、関東魔法協会の理事をしておる」
「「魔法!?」」
「むっ、おぬしたちは魔法使いじゃないのか?」
学園長の発言に俺も遠坂も驚いた。
「待ってください!俺たちは魔法使いじゃなくてですね」
「待って士郎。私たちは別の世界から来たのよ。ここは平行世界、私たちの世界とは根幹から違うのかもしれないわ」
なるほど、遠坂の言葉は分かる。しかし、だからといって油断は出来ない。
「学園長。此方での[魔術師]、いえ魔法使いはどのようなことをするのですか?」
マギステル・マギ
「魔法学校で魔法を習い修行をし、最終的には立派な魔法使いになり困っている人のために働くのじゃ」
その言葉に驚愕した俺は学園長にたずねた。
「つまりそれは、この世界の[正義の味方]見たいなものということですか?」
「まぁ、そんなもんじゃな。公にはなっておらんがな」
それを聴いた瞬間、笑いが起こる。
「ふっ・・・ふふふ。あっははははは」
「? 何がおかしいんじゃ、士郎君」
「士郎・・・・・・」
[正義の味方]それは俺が目指した憧れの的。
切嗣から受け継いだまがい物の理想。
俺はそれを目指して戦ってきた。大切な人をも巻き込んでまでも。
困っている人の味方をして戦い、そして裏切られた。
それでも俺は救い続けた。
いつでも、どこでも困っている人のために。
だが、いつしか自分のその行動は世間には悪とされた。
そして世界を敵に回したのだ。世界は俺を危険と判断し、処分しようとしたのだ。
それでも助け続けた俺は、あの赤い丘にたどり着いたのだ。最後と思っていた終着点に・・・・・・
笑った後、黙り込む俺に遠坂が言った。
「大丈夫よ士郎。貴方は間違っていなかったわ。昔も今も。少なくと私はそう思っている。貴方が目指した・・・・・・」
遠坂の言葉を遮り俺は言う。
「遠坂。俺は自分の理想のために戦ってきた。それもお前を巻き込んでだ」
「・・・・・・」
「だけど、後悔はない。あの世界で正義の味方としてやってきたことに、俺は絶対に後悔しない。
だから俺は、あの丘で死んでもかまわなかったんだ」
「士郎・・・・・・」
「それに俺は、お前がいてくれたからアーチャーになることはなかったからな」
「っ!」
「今、俺たちは新しい世界で生きている。
そしてこの世界には俺たちと同じ考えの人たちがたくさんいることが分かった。
俺にはそれがうれしいよ、遠坂。
だから俺はこの世界で精一杯、また正義の味方を目指すよ」
「そうね。貴方の言うとおりだわ。私も後悔してない。だから貴方とこの世界でも生きるわ」
「ありがとう。遠坂」
見つめ合う遠坂と俺。
うっおほん!
「あ〜悪いんじゃが、らぶし〜んは後回しにしてくれんかの」
ぼんっ!遠坂の顔が真っ赤に染まる。
「すっすいません!あのっそのっ」
「まぁまぁ、よいよい。若いんじゃから」
ふぉふぉふぉと笑う学園長。意地が悪い。
その後、一通りこの世界について聞いた。裏社会はあっちの世界と大分変わるが、表社会はそんなに変化はないみたいだ。
「さて、質問はこれぐらいでいいかの?」
「はい。ありがとうございました。後はこちらで調べます」
「そうか。分からないことがあったら、裏社会については高畑君に聞けばよい」
「分かりました。そうします」
この世界については大体のことが分かった。遠坂もそれに納得したようだ。
「それでの、お金についてだがすでに振り込んである。給料の前払いじゃ。これで必要なものを買いなさい」
そう言うと学園長がカードを二枚渡してきた。
「仕事についてだが、朝も行ったとおり衛宮君には先生として、遠坂くんは生徒としてネギ君らの補佐及び警護を頼みたい。
理由は分かるじゃろ?」
学園長の問いにうなずく。ネギ君の体から感じる、あの異常なほどまでの魔力の事だろう。
しかしもう一人魔力が高い生徒がいたようだが、
「それともう一人、わしの孫の木乃香の護衛もじゃ。
あの子も膨大な魔力を秘めておる。 それが悪用されることだけは避けたい」
やっぱり。
「分かりました。
こちらも助けていただいてる身ですから、出来るだけのことはやります」
「うむ。ありがとう。それと警備員の仕事については後ほど教えよう。
実際に行ったほうが分かるじゃろうからな。その時になったら、こちらから連絡する」
「分かりました。いろいろとありがとうございます」
俺は学園長に礼を言った。この世界で、いろいろ便宜を図ってくれる学園長の気持ちが有難かった。
「いやいや、いいんじゃよ。こちらも警備員が欲しかったからの。それにゼルレッチのお願いとあれば、聞かんわけにもいかんじゃろ」
「いえ、それでも感謝しています。見ず知らずの俺たちを助けて頂いたのですから」
俺の言葉にさすがに学園長は何も言えず、次の話に移った。
「それでじゃの。遠坂さんには女子寮に入ってもらうとして、衛宮君は寮の敷地内にある管理人の小屋でネギ君と一緒に住んでくれ」
「えっ。ネギ君とですか?」
「そうじゃ。あの子はまだ子供だからの。何かと保護者がいるじゃろて」
「はぁ、まあそう言うことなら」
学園長の言うことはもっともだったので、俺は特に反論しなかった。しかし
「意義あり!」
「何じゃろ?遠坂君は反対かの?」
「反対です!士郎は恋人の私と一緒に住むんです!
それに、子供には父親役と母親役が必要です!」
どっか〜ん!遠坂さんの爆弾発言炸裂!
「うっう〜む。しかし、木乃香の護衛のために寮に入ってくれないと困るんじゃが」
「だめ!却下!」
猛烈に反発する遠坂に、俺は言った。
「しょうがないだろ遠坂。こっちは助けて貰ってるんだから。わがまま言うなよ」
「何! 士郎は私と一緒に暮らしたくないの?」
「いや、そう言うことじゃないだろ! これも仕事なんだから。
それに生徒と教師が同居ってだめだろ」
「別にいいじゃない! 向こうでは一緒に住んでたんだから」
ギャーギャー言い争う俺たちに学園長が言った。
「しかしネギ君が女の子と一緒というのは、さすがに嫌がると思うんじゃが」
それを聞いた遠坂は、
「だったら、ネギ君の了承を得たらいいですね。学園長?」
「うっうむ、それならばかまわんが」
「ちょっと待ってください! いくらなんでも恋人だからといって、生徒と教師が一緒に住んで
へブっ!」
「分かりました。学園長、ネギ君から了解を取ってきます」
そう言うと光のごとく遠坂は学園長室から出て行った。俺の屍を残して。
しばらくして戻ってきた遠坂の腕の中には、真っ白になったネギ君と神楽坂がぶら下がっていた。
「学園長!ネギ君から了承取りましたので、衛宮君との同居認めてくれますね」にっこり
悪魔の笑顔で学園長に迫る。
「か、かまわんが木乃香の護衛はどうするんじゃ?」
「ご安心ください。衛宮君と私の生活のために女子寮にはネコ一匹通しませんから」
「「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」」
学園長と遠坂の交渉を他所に、遠坂の一撃から目を覚ました俺は部屋の隅で白くなったネギ君となぜかいる神楽坂に同情していた。
学園長の説明も終わり、何とか復活したネギ君と神楽坂と一緒に部屋を出る。
「ネギ君これから一緒に住むことになったからよろしくね」
「はいっ!衛宮さんもよろしくお願いします」
「士郎でいいよ。おれもネギ君て呼ぶからね」
「はい。士郎さんも遠坂さんもよろしくお願いします」
「ごめんねネギ君。さっきはちょっと怖い思いをさせたみたいだから」
思い出したのか震えだすネギ君。おいおい何をした遠坂。
「いえ、大丈夫です・・・・・・」
そんなネギ君と俺たちのやり取りをじっと見ている神楽坂。
「ん?どうした神楽坂?」
「あの、衛宮先生と遠坂さんも魔法使いなんですか?」
何ですと!
「どっどうしてかな?」
「さっきネギが魔法使ったの見ちゃて、その時にネギが衛宮さんたちからすごい魔力を感じるって言っていたから」
おいおいネギ君や初日からばれてどうするんだ。
ちろっとネギ君を見るとすまなそうな顔して言った。
「ごめんなさい。宮崎さんが階段から落ちそうになったのを見て、つい魔法を使ったら明日菜さんに見られてしまいました」
「そっか。それじゃあしょうがないな。
神楽坂に言っておくけどこの事は内密にな。大変なことになるから」
「分かりました。
でも、もう大変なことになってます!まったくパンツを消され・・・・・・」
「まぁ分かってくれてるならそれでいいよ。でもパン」
その時、地獄からの声で遠坂が言った。
「士郎」
「はい!」
「忘れてあげなさい」
「イエッサァー!」
いろいろ話している時に神楽坂から歓迎会があるからといわれ、教室で2−Aのみんなから歓迎会をしてもらった。
帰り道
疲れてしまったのか寝てしまったネギ君をおんぶした俺と遠坂は、家に向かっていた。
「ふふっ。そうしてると士郎、お父さんみたいね」
「何だよいまさら。お前が自分で言ってただろ。父親役と母親役が必要だって」
「あっ!あれは・・・・・・」
学園長室でのことを思い出して顔を赤くする遠坂。結構、問題発言していたことを思い出したみたいだ。
「しかし、そうだな。いつか俺たちもこんな子供が出来たらいいな」
ネギ君の顔を見ながら言う。
「しっ士郎! そっそれって。 っ!」
その時だった。俺たちに向かって強力な殺気を放ってくるやつが現れたのは。
「誰だ!」
「ふふふ。お前たちが爺が雇った護衛者か。少しお手合わせ願おう」
振り向くと街灯の上にマントをまとった人影がいた。
はい、第4話でした。どうでしたか?
原作のネギまではネギは明日菜と一緒に住んでいましたが、この小説では士郎たちと一緒に住むことになりました。