三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

第108回 日本国債を買い進める海外の中央銀行(1/3)

 先日の6月25日、日本経済新聞に大変興味深い記事が掲載された。


『2011年6月25日 日本経済新聞「海外中銀、円資産35兆円に 4年で倍増、円高要因」

 海外の中央銀行が保有する日本国債など円建て資産の合計が昨年末時点で約35兆円となり、1年前よりも24.6%(約7兆円)増えたことがわかった。最近4年で2倍以上の増加。海外中銀の円資産を管理する日銀が、日本経済新聞の情報開示請求を受けて、資料を一部開示した。海外中銀の円資産保有の大枠が明らかになったのは初めて。

 海外中銀は米ドルに偏っていた外貨準備の構成を見直しており、円建て資産の積み増しもその一環。円高傾向の要因のひとつになっている。』


 さて、日本国内では各マスコミや評論家たちが口を揃えて、
「日本は財政破綻する(だから消費税アップが必要)」
「日本は財政破綻し、円が暴落する(だから消費税アップが必要)」
「日本国債は紙くずになる(だから消費税アップが必要)」
 などと叫んでいるわけだが、外国の中央銀行は淡々と日本国債などに投資し、円建て資産を増やし続けているわけだ。「財政破綻する!」はずの日本国債を購入することを続けているなど、外国の中央銀行も愚かなことだ。しかも、「暴落する!」はずの日本円建てである。 


【図108-1 主要国長期金利の推移(単位:%)】
20110628_01.png
出典:外務省


 さらに言えば、図108-1の通り、世界主要国と比べて極端に低金利の日本国債を、外国の中央銀行は買い進めているわけだ。主要国の長期金利は、概ね3%から6%の枠内で推移している。

 それに対し、日本国債の金利は1%強と、「超低金利」状態が続いている。現時点において、世界で最も安い資金コストで市場から資金を調達(=借りる)することが可能な組織体は、日本政府なのである。

 なぜ、外国の中央銀行が円建ての日本国債の資産残高を増やしているのかといえば、もちろん、誰も「日本が財政破綻する」「日本円が暴落する」などの日本破綻論を信じていないためだ。さもなければ、ここまで超低金利の日本国債を「円建て」で購入するはずがない(日本政府は現在は外貨建て国債を発行していないため、日本国債への投資は自動的に円建てになるわけだが)。

 
 ちなみに、長期の国債ではなく、短期の株式について見ても、外国人は震災後でさえ「日本買い」を進めていった。こちらは中央銀行ではなく、一般投資家の話になるわけだが。

 東京証券取引所が5月26日に発表した投資家別売買動向によると、外国人投資家は昨年の11月、すなわちアメリカの量的緩和策発表以降、何と29週も連続で日本株の買い越しを続けていたのだ。震災直後の株価暴落局面においても、外国人が日本株を買い続けていた傾向に変化はない。震災後の日本の株価暴落は、外国人の「日本売り」ではなく、国内投資家の投げ売りに起因していることが分かる。外国人投資家たちは、あの震災後の混乱状態の中においてさえ、日本への投資を続けていたわけである。

 長年(すでに十五年間という長きに渡る期間!)日本の「破綻」を待ち望んでいるかに見える国内マスコミと比較し、外国の中央銀行や投資家が、恐ろしく冷徹な視線で、我が国の経済を観察していることが伺える。

 改めて「数値データ」を基に考えてみれば、世界最大の対外純資産国(=世界一のお金持ち国家)の国債や通貨が暴落するような局面が、近々に発生することは考えられない。各国の中央銀行が「安全への投資先」として、日本円建ての日本国債を選んだとしても、不思議でも何でもないのだ。

(2/3に続く)


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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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