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2012年4月4日10時33分

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通天閣になれまっか 酒井隆史さんとスカイツリーへ

写真:「街中では、意外とツリーが見えない場所も多いですね」と酒井隆史さん=小内慎司撮影拡大「街中では、意外とツリーが見えない場所も多いですね」と酒井隆史さん=小内慎司撮影

写真:通天閣の立つ新世界は、今や巨大ビリケンが増殖する串カツの街拡大通天閣の立つ新世界は、今や巨大ビリケンが増殖する串カツの街

地図:  拡大  

 「世界一」東京スカイツリーのお披露目の日が近づいている。高塔にひかれるのは人間のサガだが、すぐに飽きるのも人間。あの白い巨木は、だいじょうぶ? 通天閣が地元民に百年愛されている秘密を解き明かした本の著者、酒井隆史さんに、墨東の下町を歩きながら問うてみた。

    ◇

 なにはともあれ「とうきょうスカイツリー駅」へ。錦糸町から大横川親水公園に入ると、右手中空に白い巨体がヌッと立った。

 「シュールだなあ」。酒井さんの最初のつぶやき。

 「新しい塔は、見慣れた景色を一変させますね」。スカイツリー駅は塔直下にホームがあり、のしかかられるようだ。

■通天閣との比較その1

 東京スカイツリー(東京都墨田区押上)は高さ634メートル。自立式電波塔として世界一を誇る。こんなに高くしたのは、地上デジタル放送の電波をくまなく届けるため。

 初代通天閣は1912年に興行施設「ルナパーク」の目玉として誕生した。現在の通天閣(大阪市浪速区恵美須東)は2代目で、高さ103メートル。天気予報と時刻の表示が精いっぱい。

 「初代通天閣とスカイツリーは、両方大林組の施工です」

 電車に乗り東向島駅まで。玉の井の跡地を目指す。永井荷風の小説「●東綺譚(ぼくとうきだん=●はさんずいに墨の異体字)」や滝田ゆうの漫画で描かれてきた私娼(ししょう)街。戦前の帝都の深部だ。

■通天閣との比較その2

 玉の井は、近代日本の代表的高塔「浅草十二階」こと「凌雲閣」(1890年完成)の根元にあった私娼街から派生したとされる。戦火で消失し、戦後も以前の隆盛は戻らなかった。

 初代通天閣の周辺「新世界」も、すぐに妖しい歓楽街へと変貌(へんぼう)する。1916年、500メートル南の飛田遊郭が認可される。西には労働者の街、釜ケ崎。

 「スカイツリーは逆に、すでに役割を終えた元私娼街、民衆の街に突然どーんと現れたわけですね」

 だが、旧玉の井も今は大部分が健全な下町のたたずまい。「ぬけられます」の看板があるわけもなく、曳舟駅近くの旧赤線「鳩(はと)の街通り」へ。ここには「カフェー建築」と呼ばれるハイカラな造りの家が残っていたが、「最後の色街」飛田の、時間が止まったような現役感バリバリのわいざつさとはほど遠い。

 「興行施設として失敗した初代通天閣は、結果として街拡大の牽引車(けんいんしゃ)になった。大阪の代表的繁華街キタともミナミとも違う、民衆の街が出来ていった」

 戦後、通天閣の再建が叶(かな)ったのは、ここに住み、塔を求めた一人ひとりが資金集めに奔走したからだ。

 「近代の高塔はほとんどが行政や資本主導で作られているのに……そのユニークさに、彼らの都市住民としての成熟を感じます」

 隅田川を渡って対岸の浅草へ。平日なのに、吾妻橋では、炎のオブジェとスカイツリーが並ぶ「異景」を撮ろうとする人が並び、浅草寺へと向かう仲見世通りは人でごった返していた。下町めぐりの観光客も、大多数はまだ浅草どまりか。

 ツリー下に戻り撮影していると、人なつこそうな商店主が「レフ板使う?」と声をかけてきた。「ツリー開業? 関係ないだろうね。通りに名物の食べ物とかあればいいんだけど」

 酒井さんにその話をすると「新世界は数年前から串カツの街として活況を呈してます。人気店の前には、昼前から人が並ぶ。通天閣も混んでます」。

 墨東にも、ツリー効果でいい波がきませんか。

 「語られることもまれだった地域に注目が集まり、新しい東京ガイドが書かれるかもしれません。ただ、スカイツリー自体は、巨大で新しいモノ、新名所を絶えず造り続けないと不幸になるという、今では根拠の薄い、20世紀型開発思想の延長線上にある気がする」

 最後に両国の江戸東京博物館で、タイムリーな特別展「ザ・タワー」を見た。

 「エッフェル塔でさえ建つ前はパリの恥と言われ、建った後は破壊案や改造案にさらされてたんですね」

 東京タワーや太陽の塔の建設時より、スカイツリーは歓迎ムードが強い気が。

 「批判に力がないのは、肯定する力も弱いことと表裏じゃないでしょうか。どんな塔も2年もすれば昇りたがる人が減る。見られる存在になった時、スカイツリーがどう人の生活に溶け込み、どんな意味を与えられるか。そこに興味があります」(編集委員・鈴木繁)

    ◇

 さかい・たかし 65年熊本県生まれ。早稲田大大学院博士課程満期退学。大阪府立大准教授(社会思想史、社会学)。昨年末に大著『通天閣』が刊行された。

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