コラム
宇都宮徹壱
スポーツナビ

杭州緑城・岡田監督の早期解任はあり得ない (1/2)
日本人指揮官を迎えたクラブの狙い

2012年5月2日(水)

■「岡田監督にはもっと時間をあげてほしい!」

今季より中国スーパーリーグの杭州緑城を率いる岡田武史監督。チームは現在最下位に沈んでいる
今季より中国スーパーリーグの杭州緑城を率いる岡田武史監督。チームは現在最下位に沈んでいる【宇都宮徹壱】

 欧州各国のリーグがフィナーレを迎えつつある中、異国での苦しい戦いを続けている日本人がいる。今季より中国スーパーリーグ、杭州緑城足球倶楽部を率いている岡田武史監督である。4月28日にホームで行われた第8節の大連実徳戦では、後半26分にマゾーラ(元浦和)のゴールで同点に追いついたものの、どうしても勝ち越すことができず、そのまま1−1でタイムアップ。対戦相手の実徳は、かつては名門として知られていたものの今季は大きく出遅れてしまい、現在15位と低迷。その下の16位(つまり最下位)の緑城にとっては、ぜひとも浮上のきっかけをつかみたいところだったが、結果として最下位脱出はならなかった。

 すでに日本では、J1とJ2で4人の監督が解任されている。中国でも、大連のもう1つのクラブである大連阿爾濱(あるびん)の韓国人指揮官、張外龍が解任第1号となり、上海申花が中国最高額となる300万ユーロ(約3億2000万円)で招へいしたジャン・ティガナも、成績不振を理由にわずか4カ月でチームを去ることとなった。現在の中国スーパーリーグは「不動産リーグ」と揶揄(やゆ)されるくらい、大手デベロッパー企業のオーナーたちによる支配が続いている。彼らのすべてが「サッカー好き」というわけでは決してなく、中にはクラブを「単なるコマーシャルの道具」としか思っていないオーナーも少なくない。そんな彼らが、結果を残せない指揮官をさっさとお払い箱にすることに、さほどためらいを感じることはないだろう。

 では岡田監督の場合、このまま成績が上向かないと、志半ばにして解任となってしまうのだろうか。現地の大手スポーツ紙『体壇周報』のジャーナリスト、応虹霞氏に問い合わせたところ、現地の報道では解任のうわさはないという。中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」でも「解任すべし」という意見はごく少数派で、中には「岡田監督にはもっと時間をあげてほしい!」という呼びかけも見られるらしい。緑城のオーナーである宋衛平氏も、このように発言している。

「引き続き、若い選手を使ってほしい。(そのためには)たとえ降格しても構わない。降格しても、来年また昇格すればいい。われわれにとって、今シーズンの目標は若手の成長にある。そのためには時間と忍耐が必要だ。私は監督の仕事に満足している」

■「降格しても構わない」発言の背景にあるもの

緑城の若き副GM、鮑仲良。「岡田さんが最もこのクラブに良いものをもたらすと判断した」と語る
緑城の若き副GM、鮑仲良。「岡田さんが最もこのクラブに良いものをもたらすと判断した」と語る【宇都宮徹壱】

「たとえ降格しても構わない」という会長の発言は、日本の感覚ではかなり奇異に聞こえる。もちろん中国国内でも、非常にまれな考え方であるのは間違いない。換言するなら緑城は、中国でも極めてユニークなフィロソフィー(哲学)を持ったクラブなのである。岡田監督の中国でのチャレンジを理解するためには、その前に緑城というクラブのフィロソフィーを理解する必要があるだろう。

 4月上旬、私は杭州を訪れて緑城のホームゲームを取材し、併せてクラブのフロントにもインタビューしている。取材に応じてくれたのは、鮑(ばう)仲良氏。36歳の副GM(ゼネラルマネジャー)である。第4節が終了した時点での緑城は1勝1分け2敗で13位。スタートダッシュが遅れたことについての評価を尋ねてみると、このような前向きな答えが返ってきた。

「今はまだ勝ち点4だが、われわれはそれなりに覚悟していた。というのも、序盤戦は強い相手との試合ばかりだった。たとえ勝ち点ゼロでも構わないと思っていたので、4ポイントはそれなりに評価できると思う。また試合内容や、若い選手の成長のスピードも上がっていったと判断している」

 緑城もご多分に漏れず、デベロッパー企業に支えられたクラブである。しかし、多くのオーナーが札束をちらつかせて国内外のタレントをかき集める中、緑城は身の丈に合った経営を基本姿勢とし、育成に力を注ぐことで長期的にクラブを強化していこうとしている。昨今の中国サッカー界では、日本の育成システムに注目が集まっており「日本サッカーに学ぼう」という気運が高まっている。だが、実際にそれを実践しようとしているクラブとなると、トップリーグでは緑城と山東魯能泰山(ろのうたいさん)くらいしか見当たらない。緑城が三顧の礼をもって岡田監督を迎えたのも、クラブとしての明確な方向性に則した、極めて理にかなったものだったのである。再び、鮑氏。

「岡田さんには、目先の勝利よりも、もっと長い目でチームを良い方向に導いてくれることを望んでいる。この国の国内リーグは20年近い歴史があるが、クラブの作り方、トレーニングの方法、育成、いずれも世界に遅れをとっている。外国人のコーチを呼ぶという発想は以前からあったが、誰もがこのクラブを成長させてくれるわけではない。いろいろと検討した結果、やはり岡田さんが最もこのクラブに良いものをもたらすと判断した。岡田さんが就任してから、クラブ全体がわれわれの望んでいた方向に進んでいる。岡田さんの仕事ぶりは、スタッフや選手のみならず、ファンやサポーター、さらには杭州市民からも全面的に信頼と評価を受けている」

 <続く>


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