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当Blogは恋愛小説家はまうず美恵の小説中心サイトです。
真昼、賭けをした。
賞品は『今日一日言うことを聞くこと』。
絶対に、絶対に負けない自信があったのに。
仕組まれたんじゃないか、という位にあっさりと俺は、負けてしまった。

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あと1時間で日付が変わろうとしている。

ホテルの部屋で、シワンは冷蔵庫から取り出したペットボトルの水を飲んでいた。

シワンにとって、今日は散々な一日だった。
賭けで負けたせいで、さんざんクァンヒのワガママに振り回された。
散々使いっ走りにされ、荷物を持たされ、食事の世話もさせられ、キスをされても拒否してはいけないし、それ以上の手を出されても文句は言えなかった。
あと1時間の辛抱。

「ねえシワン」
「何?」
「————。」

==================

せっかく部屋着に着替えていたのに、私服に着替えさせられた。
白いシャツにグレーのロングカーディガンを羽織り、下はチノパンを履く。
その格好でベッドに腰掛けて、と言われる。

「こんにちは」
「こ……こんにちは」
「可愛い顔してるね」
「……」
「何か言ってよ」

クァンヒは、手にカメラを持っていた。
正確に言えば、「動画も録画出来るミラーレス一眼カメラ」。

クァンヒの此の日最後の「言うこと」は恐らく此れになるのだろう。
弱者は、強者の命令に従うしかない。

「シワンです」
「違う、もうちょっと可愛く言って。シワンでぇ〜す、きゃは☆みたいな」
——吐き気がしそうだ。
「シワンでーす」
「……ねえそれ棒読み過ぎ。もうちょっと感情込めて、ね?」
「シワンです☆」

やっていて恥ずかしくて泣きたくなる。
これにしばらく付き合うのか……。

「いくつ?」
「23歳です」
「……違う、高校生設定だから若く言って」
「18歳です……」
「普段は何してるの?」
「普段……はダンスとか、やってます」
「へえ、アイドルなんだね」
「はい」

開始5分でへばる。

「……シワンやる気ある?」
録画ボタンを一時停止させて、クァンヒが首をひねって尋ねる。
「あるよ!AVだろ!早く撮れよ」
ベッドの上に座った『シワンくん(18)』が脚をばたばたさせた。
「勇ましいなあ。そんな全力でやる気あるって言われてもね」
「リクエスト多いよ!こんなのならまだやってるとこ普通に撮った方がマシ」
「シワンそれ大声で言うこと?」

——クァンヒからの本日最後の命令は、
「AVを撮る」
だった。
だから、そのお作法よろしくベッド上でのトークから始まったものの、流石に馬鹿らしくなってしまった。
正直、ああいうビデオに出ている女優も内心白けているのかな、と実感した。
押し黙っていると、時間は過ぎてしまう。
暖色系の照明の下で、クァンヒの持つカメラの液晶だけが青白く光っていた。取り敢えずこのシチュエーションは勘弁してほしい。

するとしても、普通が良い。アブノーマルなのは、嫌だ——。

「クァンヒぃ」
ベッドの縁に両手をつき、クァンヒを見上げる。
「言うこと聞いてあげるから、変な設定だけやめない?」

極力穏やかに言ったつもりだったが、かえってクァンヒが夢中になったのは言うまでもなかった。

==================

カメラを左手に持ち、時折ディスプレイを確認しながら、クァンヒはシワンに跨がった。
レンズをシワンの首元に近付けたり、顔のアップを撮ってみたり。
シワンが嫌がるのが分かっていて、わざと仕掛ける。

シワンの襟のボタンが上から3つ目まで外され、クァンヒの人差し指の第一関節が引っ掛けられてシャツを引かれた。
カメラのレンズがはだけた胸の辺りから自分の顎の下を捉えるように、向けられる。
「脱がないのも倒錯的だよね……」
クァンヒが液晶を覗き込む。彼の顔がライトで光る。
またボタンが外されて、シャツが全開になって白い肌が外気にさらされる。クァンヒが覆い被さったままの体勢で、ゆっくりとカメラを動かし、その身体を撮った。

視姦されてるみたいだ……。

クァンヒが無言でシワンの胸に掌を当てた。丁度心臓の位置あたりに当てられると、鼓動が速くなっているのが自分でも分かる。きっとクァンヒにも伝わっている。
シワンは何気なくその手の甲に自分の左手の掌を重ね合わせた。指を絡ませて持ち上げると、クァンヒを見つめながらクァンヒの指を口に含んだ。
口に含ませる直前に、舌を出す。歯で甘噛みする。
「うわ……」
途端にクァンヒのペースが崩れた。

やられっぱなしも、嫌。

シワンのスイッチが入る。

==================

シワンを脱がすと、クァンヒはカメラをシーツの上に置いて、自分も脱いだ。
いざ抱こう、とすると片方の手が塞がれるのは凄く不便だと思う。
何より、両手で触れていたい、と思う。

シワンが呼び寄せるようにクァンヒの頭を引き寄せる。
唇が重なる。
そのまま顎へとクァンヒの舌が移動して、喉仏をつつき、身体の真ん中を辿っていく。ベッドに仰向けになった格好のシワンの身体をなぞれば、当然、それに行き着く。
クァンヒは一度太腿の内側を舐めてから、付け根から先端までに舌を這わせた。あまり焦らしたりはしないから、期待通りの刺激に思わずシワンの声が漏れた。
「あっ……クァンヒ……」
思わず名前を呼んでしまった。
クァンヒは口のものが大きくなった気がしてシワンの方をちらりと見ると、シワンが逃げるように顔を背けた。
「ねえシワン」
先端を口に含んだまま、こもった声でクァンヒが言う。
「今度はシワンが撮って」
クァンヒが目線だけで促した先には、液晶が光ったままのカメラがあった。
「え……」
躊躇いながらもカメラに手を伸ばす。両手で支えてレンズを合わせてみる。
瞬間、カメラのレンズではなくシワンに向けられた鋭い目と、シワンの目が合った。
——ほら、見て。俺がどんな風に触れてるか。
いつも恥ずかしくてまともに見たことの無い光景を直視してしまい、慌ててカメラから手を離し、また別の方向を向く。今度はクァンヒの舌遣いが速くなって、身体が追い上げられる。
一回達しないと、力が抜けないから、まずは先にどうぞ。
この日も手順通り、まず一回舌で絶頂を見せてあげる。

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朦朧としていると、またカメラを構えたクァンヒに脚を持ち上げられて、開脚させられる。
指先が太腿の辺りを行ったり来たりするのと、自分の顔をクァンヒの構えたレンズがなぞっているのが分かって、ちょっと、嫌だった。
クァンヒが自分の指にたっぷりと唾液を絡ませてそれを引き抜いたところを見てしまった瞬間、シワンは慌てた。
「やめて、そうゆうの撮らないで」
奥まった場所に手を添えられ穴に指の爪辺りまで含ませられるのが分かる。
その場所をカメラが映している。
「あっ……それヤダ……」
指がまず一本入ってしまったのがわかる。
クァンヒはわざとその自分の右手のアップを撮影した。
「ちょっとそれ変態すぎ、やだって……」
「後でもっと凄いやつ撮るのに?」
そう言われながら中に入れられた指を折り曲げられれば、一回達してしまった身体でも凄く感じる。
「あああ、嫌、クァンヒ……やめて……」
「まだダメ」

==================

シワンの恐れていたことは現実になってしまった。

クァンヒが結合部分を撮影しようとしたので、流石にそれは嫌だと抵抗したのに、無理矢理に撮られてしまう。カメラのランプが付いているのを見るのが嫌だった。それが「録画中」だと知らせるから。
どんなに部屋が暗く、カメラの感度が悪くても、嫌。
「撮らないで……」
「そういう風に言ってる顔も最高」
「変態。ドエロ。エロ魔王。」
「シワン小学生みたい」
「小学生……は、こんなことしねーだろ……っあ、はあっ」
クァンヒのレンズが、自分の顔に向けられる。
片手で腰を支えられながら攻められれば、腰の動きだけでも狂いそうになる。
「やばいね。この絵……」
「あ……も、やだクァンヒ、ほんとカメラ置いて……」

両手が使えないせいで、触れ合っている場所が少なくなる。それがシワンは嫌だった。抱き締めてほしい。
最後に行くときくらいは、抱き合いたい。

何よりも、自分のあの顔だけは絶対に撮られたくない。

シワンは突かれながらも身体を起こしてクァンヒの腕を掴む。
「も、イきそ……だから、ちゃんと、抱いて」
カメラ置いて。

クァンヒがカメラを置き、そのランプがついていないことを気付かれないように確認すると、シワンは腕を回してクァンヒの背中に抱きついた。
ぴったりと胸を重ね合わせて、最後の合図。
耳許に唇を近付けて、もっと……とねだった。
その瞬間、クァンヒの腰の動きが酷いスピードになって、シワンは身体を仰け反らせて達した。
「あ……クァンヒ…好き」
朦朧とした意識の中で、演技ではない言葉が口からこぼれた。






シワンが枕元の隠しカメラに気付いてクァンヒをボコる夜明け前まで、
あと少し。

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天気予報は晴れを予測していたのに、スコールのように雨が降り出した。
さらさらと響いていた雨音は急にはげしくなり、ざあざあと鳴る。

「撮影中止かな?」
クァンヒがシワンの背中から声をかけた。
後ろから抱き締められる格好で、二人は横になって窓の方を見ている。

激しく抱き合った後の朝は少しだるくて、のんびりしたい気分。

シワンは頭をひねって「さあ」と相槌を打った。

窓から見える景色が雨に染まり、ぼやけて行く。

——トゥルルルル

内線電話の着信を知らせるランプが点滅する。

クァンヒの腕が離れて、シワンはベッドの上でひとりぼっちになる。

「——はい」
『おはよ。撮影、スタジオになるかもって。いまマネージャーがカメラマンと打合せ中だけど、ちょっと待機してて』
「うん、何時位に分かりそう?」
『分かんない。取り敢えず待ってて』
「了解」

ガチャ

「ジュニョン?」
シワンが声をかけると、「聞こえた?」と言われる。
「うん。何て?」
「予定変わるかもって」
ベッドに肘を付き、上半身裸のままのシワンがクァンヒの方へ向いた。
雨で曇った空からの光でも、朝の光が部屋の中へ入り込んでいて、シワンの背に差して逆光になる。
逆光の中でも、その身体の白さが際立っていた。
ドレッサーの上の電話を置いたクァンヒが、ベッドに戻りシワンを抱き締めた。
ゆるやかに、押し倒される。
「外から中になるかもってさ。」
「ふうん」
向き合ってベッドの上で抱き合う。お互いまだ裸。
着替える準備もしていない、と言ったら、リーダーは怒るんだろうか。
言われていた集合時間の一時間前にはシワンがクァンヒを起こしていたのに、結局だらだらと30分が過ぎていた。

テレビの下に置いてあるデジタル時計が06:59から07:00になった。

「あ」
先に気付いたのはシワンの方だった。
「ちょ、離れて」
「ヤダ」
クァンヒの腕の中でじたばたする。
「離して」
「シワン」
「なに……」
ちゅ、と口付けられる。
「好き」
「知ってる。だから離れて?」
一瞬にこりと笑顔を作ってから、真剣にクァンヒの腕から逃れようとする。
「文章変だよ」
クァンヒの手に力がこもり、腰を押し当てられれば反応してしまう。ひっ短く息を飲んで、クァンヒの顔を見ると、其の目に自分しか映っていないのが分かる。
「昨日しただろ」
流されないように、睨み返す。
「一日一回なんてルールは無いよ」
「朝からはヤダ。大体撮影あるってさっきゆってたばっかじゃん」
「朝から『は』ね」
シワンは黙った。
「……朝だろうが昼だろうが夜だろうがお前とはやらない!」
ぐいっとクァンヒをベッドの隅に押しやり、自分は枕を抱いてそっぽを向いてしまう。

——あーあ。

クァンヒはくすくす笑った。

可愛いなあ。
ゆうべはあんなに無防備に絡み付いてきたのに、一夜終えれば、こうだ。

ちらり、と枕を抱き締めたシワンがクァンヒの様子を窺う。
「クァンヒ気持ち悪い」
言い放ってまた背中を向けて窓の方を向いた。

白い、肌。
剥いた卵のように白く、なめらかで、触れていれば時間なんて忘れてしまう。
女の子のように華奢で、色白で、けれど最近鍛え始めた腕が少し男らしい。これ以上鍛えないで、なんて言ったらむきになってプロテインの量を倍にしていたのを思い出す。
この身体を前にしたら、自分は何回でも欲情してしまう。
綺麗な顔に綺麗な肌、そこに男の性が備わっているのが、最高に罪深い気分になる。

追い掛けてくるのが分かっていて少しずつ逃げて行く猫のようだ。
追い掛けると逃げ、一瞬止まり、こちらの様子を窺ってまた逃げる。其の繰り返し。

逃げ回っているのが、結局飼い馴らされているケージの中だって、何で気付いてないの?
ちなみにそのケージ、君は猫じゃなくて人間だから、ドアを開けたり、壊したりすることだって出来るんだよ?

クァンヒは一瞬ベッドを離れて、ドレッサーの前に移動した。

「ジュニョン居る?あ、もしもし。あのさ、今から30分、電話しないで」
『————俺からは、ね』

確かにな、と思いながら受話器を戻す。
ベッドの方へ向き直ると、シワンがこちらを見ていたらしく、物凄い勢いで元の姿勢に戻った。
小さい身体が、一人分のベッドの端っこに転がっている。

「ウンジェ」
本名で呼ばれる。

「しよ」

そのままシワンの枕を持ち上げて奪い取って床に落とし、所在なくなった身体をベッドに横たえる。
——大した抵抗もしないんだ。

朝の光の中で抱き合えば、ビデオを見ているような感覚になる。

何で世の中に出ているあの類いのビデオは、明るい光の中なんだろう、とか考えていたら、シワンに頭部をホールドされ噛み付くようにキスをされた。
口を開くよう促されて、下で歯列をなぞられる。
——他のこと考えてるんじゃねーぞ。
言葉は無くても分かる気がした。

舌と舌が絡まってざらりとする。

30分は短かったかな、と申請時間を後悔しながら、朝の光の中で、抱き合う。

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香港に発つ前、メンバーがレストランを借り切って、パーティーをしてくれた。

「クァンヒ、センイルチュッカヘ!」

ごちそうをたらふく食べて、好きな飲み物をたらふく飲んで、沢山のプレゼントに囲まれて、喋って、笑って、こんな幸せな王様になった気分がずっと続けばいいのに、と思った。

一部首をひねりたくなるメンバーからのプレゼント(髭剃りや大量のAKB48の開封済みのCD等)もあったが、全体的に自分好みのプレゼントばかりでとても嬉しかった。何よりメンバーが自分に合うように選んでくれようと少しでも時間を使ってくれたのなら、それはとても嬉しいことだ、と思った。

中でもお気に入りはシワンのくれた腕時計。
DIESELの秀逸なデザインが際立つ、メタル素材のそれは、アクセサリーよりも自然に身に付けられる。シワンの精一杯の「デレ」の部分が垣間見えて、今でも口元が緩んでしまう。
クァンヒは、ホテルの窓からの海辺の夜景を見ながら、腕時計のバンドをそっと撫でた。

もう一つ特に気に入ったのが、ミヌのくれたデジタルハリネズミ。
手にすっぽりと納まってしまうほど小さく、形がまず可愛らしいデジタルカメラ。
試しにパーティーの様子を撮影してみると、画素は粗く壊れたカメラで撮影したような独特の写真が撮れた。

港に向かって、そっとカメラを構えてみる。
小さなファインダーに、ジオラマのようにガラス越しの夜景が収まる。
——此処に、君が、居れば良いのに。
冷たいガラスに手を付いて、夜景を撮影する。

ふと、電子音が部屋にやけに大きく響いた。
此の部屋は一人で使うには大き過ぎる。

「もしもし」
「終わった?お疲れ」
ぶっきらぼうな声が響く。電話をしてきたのはそっちだし、聞こえて来る言葉は労りの言葉なのに、愛想が無い。
でも、ずっと聞きたかった声だった。いまちょうど、思い出していたんだ。
——以心伝心、ってやつ?
「疲れたよ。もうクタクタ。司会って結構気使って大変だったよ」
「お疲れさん。じゃあ、そんなクァンヒ君にはもう一個疲れて貰おう」
「え?何?」
「開けてよ」
「え?」

ピンポーン。
耳元で鳴った音と、部屋に響いた音が同じもの。

がたん、と扉を開けて、視線を少し下げて其処に居た相手に言う。
「——男前過ぎるでしょ」

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服を着たまま広いベッドの上で抱き合っていた。
「難しかったんじゃないの、チケットとかさ」
「楽勝だよ。イム家の息子ナメんな」
「にしたって、びっくりしたよ」
ゆったりとした時間が流れて行く。
此の後に続くことは暗黙の了解で分かっているのだけど、いつもよりもずっと穏やかな気持ち。焦りも無く、急ぐこともなく、ただゆらゆらと抱き締め合う。
「でも……間に合うかどうかは……微妙だったかな……」
体を少し離し、シワンがクァンヒの左腕を掴み、腕時計を覗き込む。
クロノグラフに付いた、カレンダーが「24」示していることを確認する。
時計は、23時を少し回ったところだった。
「——誕生日、おめでと」
腕を掴んだまま、シワンはクァンヒに言った。
「ありがとう」

Tシャツの裾から手を入れて、皮膚に直に触れると、シワンが腕の中で身をよじった。
「ん……」
だんだん、止められなくなる。
肌をなぞってその存在を確かめる。
腕に触れたときに、筋肉の弾力を感じる。
「もう鍛えちゃダメだよ。俺がりがりなのが好きなんだから……」
「なら、もっとプロテイン飲んで筋トレするさ」
今の状況に置かれてもなお色気を排除しようとするシワン。
「ダメです」
そう言って唇を近付ける。躾のなっていない子供をあやすようにキスをする。
はぁ、とどちらとも分からない息が漏れる。
此の先への、スイッチが入ったのが分かった。

「来てくれてありがとう」
Tシャツをたくし上げ、薄い胸に触れる。小さな乳首に舌を這わせて、反応を窺う。
「別に……飛行機代はあとで返せよ」
目を閉じて感覚に身を任せているシワンの様子が、余りに綺麗で、もっと先に行きたくてたまらなくなる。
「逢いたかった?」
鼻の頭を舐め、額と額をくっつけて問い掛ける。
細く華奢なおとがいに右手を這わせ、視線を交わらせる。
「別に」
「別にって言うの禁止」
そして、キス。
「ねえ、逢いたかった?」
「…………」
だんまりを決め込んだシワンをベッドに押し倒す。力が抜けていたシワンは大人しくベッドに寝そべった。
そのままTシャツに手を入れ、脱いで、と目で訴える。

真っ白な肌が、白雪姫を想像させた。
おとぎ話の、お姫様。

「俺は寂しかったよ?ちょっとの間だって、顔見られないから」
「ふーん」
皮膚の薄い部分を集中的に攻めると、シワンが喘ぐ。
エアコンの規則正しく稼働する音だけが響く。
ベッドライトだけをつけた部屋に、窓からの夜の青白い光が差し込む。
「びっくりしたよほんとに。嬉しかった」
ドアを開けたら、其処には携帯電話を耳に当てたままの格好のシワンが立っていた。
香港にはクァンヒとドンジュンだけが来たはずだったのに、一体どうやってマネージャーや事務所の人間を言いくるめ、飛行機に乗って一人で来たのだろう。
あらゆる意味で現実味が無かった。
「夢かと思った」
シワンのジーンズに手を掛け、でも、触れない。反応が見たいのだ。
彼は顔を枕に埋め、その手が自分を追い上げてくれるのを待っている。
「誕生日って、良いね」

「あ!あん……」
指を入れられただけでも感じてしまう。
静かな部屋に、自分の声が響く。
目を閉じてやり過ごそうとすれば、肌のこすれる音が意識に飛び込んで来る。
クァンヒがわざと無言でいるから、余計にいやらしい気分が盛り上がる。
こうなると、シワンはいつも陥落させられる。
「あ……もっと」
「もっと……何……?」
耳を噛まれる。
「欲しい」
自らクァンヒの背に手を回して、両腕で体を引き寄せる。

指だけでも達しそうになっていたシワンと体勢を入れ替え、クァンヒは自分がベッドに寝そべった。
「上」
「うん」
素直に跨がる。
下から見上げるその様子はとても綺麗。中性的で、色素の薄い、アンドロイドみたい。
「あ、ちょっと待って」
シワンがそのままクァンヒの胸に倒れこんだ。体の中心が当たって、シワンは腰に鈍い快感を感じた。
「何」
早くしろ、と言うと、焦るなよ、と嗜められる。

パシャッ

クァンヒが小さなカメラを構えていた。
「シワンのエロ顔」
ミヌからのプレゼントのデジタルカメラがシワンの顔を捉えていた。

「ちょ、やめろよ」
「ヤダ」
「変態、やめろって」
「これ動画も撮れるんだよ」
「だから嫌なんだって」
しばらく腹の上に乗ったシワンとクァンヒの間で攻防が続く。シワンがカメラを奪おうとすると、クァンヒは枕の下に隠してみたり、もう片方の手で弄んだりと逃げる。
たまに構えて、シャッターを切る。
「やめろって!何で今撮るんだよ」
「記念★」
ぱしっ
一瞬の隙をついて、シワンがカメラを奪った。素早く画面を操作し、手ぶれした画像を消す。
「はい削除」
画像が削除される時の電子音がカメラから響き、あー、とクァンヒが残念がる。
シワンは、相手をコントロールする術は心得ていた。
ベッドの足元側の端っこに落ちないようにカメラを置き、クァンヒに顔を近付ける。
「クァンヒ……画像とか動画とかのが良いの?」
「え?」
「俺が、居るでしょ?香港にだって来たんだよ?」
クァンヒは迷わず体勢を入れ替えた。

あ、と言う間もなく貫かれて、シワンは腹部に異物感を感じた。
クァンヒが仰け反った自分の首に唇を当てて、痛いくらいに強く吸う。体中に種類の異なる感覚を一度に与えられ、シワンはぎゅっとクァンヒにしがみついていないと不安になった。
「クァンヒ……」
「何?」
「今日は、好きにしていいよ……」
——お前の、誕生日だから。



Fin

拍手[14回]

騒音。ひたすらの騒音と、極彩色のネオン。
ここはバンコク。

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プロモーションの為に微笑みの国タイに来たメンバーだったが、夏の入りの季節だった国から常夏の国へ移動したため、初日は少し疲れがあった。
最近、気候も変わらず移動時間も極端に短い日本でのプロモーションが増えていたせいか、たった5、6時間の移動時間すら長く感じられてしまうし、疲れも溜まる。
事務所も流石にそれを考慮して、飛行機は現地16時に到着したがその日は一日仕事は無かった。
空港で出迎えてくれるファンに愛嬌を振りまき、集まっている国内外のメディアに深々とお辞儀をして今日の「仕事」が終了。

移動のバンの中で窓の景色を眺めながら、クァンヒはテンションが高かった。
「あ!王様の祭壇!」
「あれ祭壇じゃないって」
やや長かったフライトと愛想をふりまく仕事で少し疲れていたシワンだったが、横の席を確保して窓を見てはしゃぐ男に律儀に突っ込んだ。
「じゃ、何て言うの?」
「知らない」
神様じゃないから祭壇とは言わないだろう、という認識だが正式名称まで知らない。
でも何となく間違いは正したい、という生真面目な性格が出てしまう。
「前も来ただろ……何でそんなテンション高いんだよ」
「だって今日はオフだよオフ!観光しようね」
「は?俺?しないし」
オーバー過ぎるほど落胆した表情でシワンを見る。
何となくS心が動く。
「少なくともお前とはな」
そう言って首からぶら下げていたヘッドホンを耳に当て、手元の文庫本のページをめくる。耳元でクァンヒが何か言っているが、洋楽の爆音に消されてよく聞こえない。
聞こえない、話しかけるな、という態度を手を払う仕草で示すと、クァンヒはシワンにかまうのに飽きたらしく、窓の外を見るため体を完全に窓の側に向けた。ガラスに顔をくっつけるようにして外を見ている。

読みかけの本を閉じる。
バンの運転手がやたら荒い運転で舗装されていない(もしくはそれが崩れた)道を飛ばして行くものだから、本を読んでいたら酔いそうだし、前の座席に頭をぶつけさせられる気がした。韓国のタクシーも確かに運転が荒い人も居るが、この国は道ががたがたしているから尚荒い印象があるな、と思う。
ヘッドホンからは相変わらず、ダンスミュージックが流れている。タイでクラブくらいは行ってみたいかも、とふと思う。
バンコク。世界最大の歓楽街のある街。
興味が無いと言ったら嘘になる。

====================

ホテルへ移動して荷物を置いたことは、覚えてる。

渡り蟹のカレー粉炒めが食べたいというマンネラインのリクエストで、地元の有名なタイ料理店へ行った。それも覚えてる。

カレー粉炒め、食べた。美味かった。本当に美味かった。
エビ、食べた。普通だった。
川魚のソテー、食べた。生臭かった。
鶏肉、食べた。味がしなかった。
ビール、飲んだ。薄かった。
マンゴー食べた。不味かった。
いや、そのあたりは全然記憶があるのだ。

でも、
でも。

なぜお前が隣で寝ているんだ。

記憶が飛び過ぎている。

ひどく頭が痛む。

バンコクの朝。

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薄い酒というのは恐ろしいと思う。
クァンヒは隣でがぶがぶビールを飲むシワンを見てかなり心配になった。
元々強くはないのに、暑いし水が不味いからとビールを飲んでしまうシワン。自分は何度も水かジュースにしよう、と薦めたのに。

料理店で、シワンはビールをひたすら飲み続けた。そのときから呂律は回らないし、顔は真っ赤だし、足取りもふらふらしていた。正直その酔い方で次の日の仕事ができるのか?と心配になるくらい。
スタッフも呆れ返っていたし少々怒ってもいたが、酔いどれの特権のグダグダ感と自己中心っぷりで我侭を押し通そうとする。
料理店の外でタクシーを待っていたが、いざ乗ろうとするとシワンがいやいやをしてまだ遊ぶと言って聞かない。
「ヒョン……普段、よっぽど我慢してるんだね……」
ヒョンシクのフォローを聞いてジュニョンは「Oh!」なんて感動しているし、ケビンは「俺には吐き出せよ?」と口説きモードに突入して目がヤバい。
このアホ兄貴たち——。
クァンヒはたまに自分が物凄く常識人に感じることがある。
自分はそれほど飲めないし、初日だからとセーブして飲んでいたから、既に酔いは冷めていた。スタッフ含めても自分はまだ冷静な判断力が残っていたと思う。

此の街の空気は危険だ。特に夜は危ない。通常よりもゆっくり時間が流れているようで、足を踏み入れたら底なし沼のように沈んでいってしまう。

せっかく停車したタクシーが、一向に乗ろうとしない酔いどれ軍団を早々に見捨てて走り去った。
激しいピンク色に塗られたタクシーのテールランプが、ネオンの中で見えなくなる。

次に止まった緑色のタクシーに、
「酔ってないしまだ飲める!ジュニョン!ミヌ!俺も行く!」
とか何とか言っている細くて軽い体を押し込み、スタッフとともにホテルへ戻った。
後部座席でしばらく暴れていたが、タクシーが急発進したタイミングで胃の位置がおかしくなったのか、急に黙り込んだ。
がたがた揺れるタクシーが、夜のバンコクを猛スピードで走り抜けて行く。

====================

いくら細くて軽くて華奢でも、意思を持って動いてくれない体を運ぶのは辛い。
スタッフと二人掛かりでシワンを部屋に連れて行くと、
「何か心配だから一緒に居てあげて。水とか買ってこようか」
とその大人の男性スタッフに言われる。
「いや、大丈夫です。あとはルームサービスとかで何とかしますし……エレベータのとこ、自販機もありましたよね?」
あったよ、と言い、スタッフはまだ心配そうだったが結局クァンヒに介抱を頼んで出て行った。何かあれば、電話してと。
正直、自分達のような若いアイドルを連れて行動しなければならないスタッフも大変だろうな、と思う。彼も疲れた表情をしていた。
最近自分1人の仕事が多くて、年の離れた大人に混じって行動することが増えたせいか、クァンヒはそれなりにスタッフに気を遣う癖が付いていた。

シワンの体を放り投げたベッドと同じベッドに腰掛け、俯せになった横顔を見る。汗をかいて暑いのか、Tシャツがはだけている。目は閉じられ口が半開きで、まだ意識はあるようだ。
「水飲む?」
「ビール……」
シーツに唇を触れさせながら、シワンが答える。
勿論飲ませない。
「口移しでなら」
「あ、いらないです」
其の手には乗らない、と酔っぱらいが言う。変なとこ可愛くない、が、これも想定通りの会話。自分達なりの戯れ合い。

「なあ……」
シワンが俯せから横向きになり、自分の足の当たりに腰掛けているクァンヒを見上げる格好になった。
「何?」
シワンと目が合う。シワンの手がおもむろに座った自分のTシャツの裾を引っ張った。
「あ、いや……」
引っ張った手はそのまま、瞳が揺れる。
「何?言って?」
会話のテンションを同じレベルに保つよう、目を細めて笑顔を作る。
「いや……」
手を離し、クァンヒから目を逸らすよう体を丸めてうつむくシワン。
クァンヒは、可愛い小動物を見ている気がして仕方が無かった。たまに見せる、甘えたのシワンの表情がたまらない。
「言いかけたなら言ってよ。気になる」
わざと体を倒してベッドに肘を付き、シワンの頭に手をかけて持ち上げ、目を合わさせる。潤んだ瞳と、視線がかち合う。

「手、出さないの?」
怪し気に目を細めて、シワンが言った。

理性がぶっ飛ぶかと思った。

「何で?」
ギリギリのところで冷静さを保つよう、抑えた声で尋ねる。ダメだ。ここでいつものように「愛してる!」なんて飛びつくようじゃ。というか、何か今日はそういう弾けた雰囲気じゃない。しかも相手は酔っ払っいだし。自分は変にずっと冷静だ。昼間はあんなに楽しかったのに、此の国の夜に飲み込まれたくなくて、何かを保とうとしているんだ。
「何でって……理由聞くやつが居るかよ……」
「うん。聞きたい」
「俺がお前に抱かれたいって思ったらダメなのか?」

今度こそ、理性が飛んだ。

行為の最中、シワンはそれは可愛く鳴いた。
積極的に服を脱ぎ、頼んでもいないのに全身に唇を這わせて、キスをして。
過去に体を重ねたときよりも大胆に腰を使って動いて、喘ぎ声も隠さなかった。

「お酒の力を借りないと、素直になれないの……?」

少し不安になって、腰を動かすのをやめてクァンヒが問う。
シワンはシーツに投げ出された肢体を少しくねらせて、右手の手の甲で顔を隠しながら言った。
「そうだよ……今だけ言ってやる」
荒くなった息を整えながら、手を外してクァンヒを見上げて言う。

アイシテル。

====================

窓からの光と酷い頭痛でシワンは目を覚ました。

朝?
何で?

次に腰回りの鈍く重い痛みと、脚のべたべたした感じにびっくりする。動こう、としたら腰をがっちりホールドされていて、それが人間の手でクァンヒの腕だと知って卒倒しそうになった。

記憶が無い。

ぶっちゃけ、クァンヒとは既にそういう関係になってしまったものだから、其処は驚くポイントでは無かったが、行為の記憶も、どうしてそうなったかも覚えていない。

バンコクのナイトライフを楽しんだ記憶も、無い。
料理のメニューしか思い出せない。

====================

「あ、シワン、起きたの?おはよ」
と言ってがっつりチューをしてこようとする鬱陶しい顔を張り倒す。
「お前うざい!ってか何でこんなことになってんだよ!」
「うっわ酷いな。まさか覚えてないの?」
「覚えてない!」
「自信満々に言い切らないでよー」
クァンヒは反撃とばかりに言い出す。
「昨日は超可愛かったのになぁー」
「は?」
「俺に愛してるって言ってくれたんだよ!うるうるな感じで!超可愛くてぶっ倒れるかと思った」
「は?」
「本当だよ……まあ、信じないならいいけど。そんなこと無かったって思えばいいじゃん」
突き放した言い方をされると、人間、不安になるものだ。
「え、マジで?」
「さあね」
「ちょ、教えろよ」
「覚えてない方が悪いよ」

「おーいお前らいい加減支度しろよーフロントに合鍵借りてくるぞー」

ドアの向こうからケビンの声がした。
真っ裸の男子が二人、目を合わせる。
やばい。
仕事仕事。

その日シワンは一日中頭痛と腰痛とだるさに加え、心に悩みを負って晴れない顔で取材を受ける羽目になった。

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