2011年03月19日

東京に放射能がくる

「最悪」の事態なら「チェルノブイリ」に

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編集部 岡本 進、伊藤隆太郎

「福島の原子力発電所から放射線が放出されています。つきましては、各研究室においてご注意ください。特に換気扇やエアコンを停止し、窓を開けないよう宜しくお願いします」

 放射能の危険を煽るチェーンメールが一部で飛び交っているが、このメールの出どころは、はっきりしていた。

 東京大学のある研究室が、ほかの研究室に出したものだ。

 東大では「環境放射線対策プロジェクト」という緊急組織を発足させ、キャンパスがある東京・本郷と駒場、千葉・柏での1時間ごとの放射線量の測定を実施している。メールを読んだ職員は、不安を募らせる。

 長崎大学の山下俊一教授は電話先で驚きの声を上げた。

「なにー」

「臨界」が福島原発で起きている可能性もゼロではないと東京電力の担当者が認めたとの一報を伝えたときだ。原発は核燃料が核分裂を起こすことでエネルギーを得ている。核分裂の連鎖反応が持続している状況を臨界という。だが、それは制御されたもとでは安全だが、想定外の偶発事が起きれば制御が不能となる場合もある。原子力事故で最も恐れられている現象だ。

 山下教授は被ばく医療の専門家。ほんの1時間前の取材では、

「チェルノブイリ原発の事故のように、核分裂が起きているわけではない。仮に炉内で爆発が起きて放射性物質が放出されても、どんなに高く見積もってもチェルノブイリの千分の1とか、1万分の1のレベルの量だ」

 として、落ち着くようにと記者を諭した。

 山下教授は「最悪」の事態が仮に起きても、

「作業員はともかく、一般住民への健康被害はない」

 と言い切っていた。

 この「最悪」は、格納容器が爆発し、炉内の放射性物質が大量に飛び散る場合だ。

 大地震を受け、6基ある東京電力福島第一原子力発電所の原子炉は次々に損壊。「起こるはずがない」とされていた「炉心溶融」が起きている可能性が指摘され、格納容器の爆発も懸念されている。

 ただ、東京大大学院工学系研究科の野村貴美特任准教授(放射線管理学)は、こう話す。

「格納容器の圧力は極めて高い。核燃料棒が溶けて水素爆発が炉内で起きたとしても、配管が損傷を受けるだろうが、格納容器自体が吹き飛ぶことは考えにくい」

 だが、本当の最悪である臨界事故は起きないのか。

 政府や東電、そして原子力の多くの専門家たちは、

「炉心溶融が起きたとしても、さすがに臨界だけは起きない」

 とみている。山下教授も、そう考える一人だ。

 しかし、その「臨界」の可能性までも現実のものとなったーー。

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