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「産業の軸」をもう一度立て直そう

2012/5/1付
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 日本の産業の軸が大きく揺らいでいる。日本の技術力の象徴だった電機産業は、2012年3月期にパナソニック、ソニー、シャープの家電大手3社が合計で約1兆6800億円の巨額の最終赤字を計上する見通しだ。

 円高や震災による生産の混乱など外部要因が足を引っ張っただけではない。得意だったはずの技術開発でも、次世代テレビの本命とされる有機ELパネルの開発などで韓国勢に大きく出遅れ、海外との実力差は広がりつつある。

揺らぐ電機と自動車

 「強い日本製品」の代名詞だった自動車も厳しい。それを端的に示すのが国内事業の収益を表す単独決算。トヨタ自動車はリーマン・ショック以降、一度も黒字を出せず、累積の営業赤字額は約1.5兆円に膨らんだ。しかも円高などもあり、年を追うごとに赤字幅が拡大しているのが実情だ。

 他社も事情は似たり寄ったりで、今の為替水準が劇的に変わらない限り、国内での自動車産業の存在感は縮む方向だろう。

 クルマと電機。日本の「2本柱」ともいえる2つの産業の足場が揺らぐ中で、どんな企業、どんな産業が21世紀の日本の駆動力になるのだろうか。若干の期待も込めながら、次の主役候補の顔ぶれを予想してみたい。

 金融危機や震災、円高など過去数年の激動を経て、危機に強い企業の共通点が改めて浮かび上がった。ごく当然の結論ではあるが、世界シェアがずぬけて高い強力な商品を擁していることだ。

 例えば今期最高益を更新する見通しのブリヂストンはタイヤ市場で世界首位。2位の仏ミシュランとの差も過去10年でじわじわと広がり、原料のゴム市況が高騰しても、それを製品価格に転嫁できる市場の盟主としての力がある。

 建設機械大手のコマツのドル箱は、石炭などの採掘現場で活躍する鉱山機械。タイヤの直径が人の背より高い超大型トラックは同社と米キャタピラーの2社の独壇場で、他の侵食を許さない。

 化学中堅のクラレは営業利益率が15%とかなり高いが、それを支えるのが世界供給をほぼ一手に握る液晶関連の特殊化学材料だ。

 米ゼネラル・エレクトリックのジャック・ウェルチ前会長はかつて「世界シェアが1位か2位でない事業は要らない」と述べたが、この原則は今も当てはまる。

 自らが持つ強い技術、強い製品に磨きをかけて、世界市場で主導権を握る。過当競争の市場では内外企業との再編を模索し、事業基盤を立て直す。それが勝ち残りの要件であり、時間を浪費すれば再生のチャンスは遠のくだろう。

 「企業数が多すぎる」と長年いわれながら、自主経営にこだわるあまり、再編統合に及び腰で競争力を失った電機業界は、貴重な反面教師である。

 もう一つ期待したいのは、サービスやIT(情報技術)など新たな分野から、新たな成長プレーヤーが登場することだ。例えば「ユニクロ」ブランドを展開するファーストリテイリングはアジアを中心に1日1店舗弱、年間200~300店舗の出店攻勢をかける。

 柳井正会長兼社長は中間層が爆発的に増えるアジアの現状を「ゴールドラッシュ」と表現し、限りない成長機会が広がっていると強調する。去年後半にはソウルや台北の目抜き通りに旗艦店を開店。米アップルの「アップルストア」の向こうを張るような、思い切ったブランド構築投資である。

活気づくスマホ産業

 スマートフォン(高機能携帯電話)向けのソフトでは、NHNジャパン(東京・品川)の開発した無料通話ソフト「LINE」は今年中に利用者が世界で1億人を突破する見通しだ。スマホ時代の到来で、ゲームなどの関連サービス市場も活気づく。「日本はベンチャー不毛の地」という常識がひっくり返るかもしれない。

 世界で活躍する企業の裾野が広がれば、日本への資金還流や本社機能の拡充で国内の雇用にも好影響が及ぶだろう。自動車や電機の国際化は欧米市場が中心だったが、これから外に出る企業はアジアなど成長性豊かな新興市場に的を絞るケースが多く、世界の活力を日本に取り込むパイプラインともなりそうだ。

 むろん、その実現には外国人の登用など経営改革も必要、時にリストラなどの痛みを伴う決断も必要、政府の仕事としては法人税率の引き下げや電力の安定供給の確保も必要だ。課題は数多く、情勢は厳しいが、うつむくばかりが能ではない。日本企業は一歩前に踏み出すときである。

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