December 27, 2009
posted by honowo
路線バスのだんご運転(2)
テーマ:バス
「路線バスのだんご運転(1)」の続きです。
さて、だんご運転に関する古典的な考察として、物理学者にして、乗り鉄の始祖、内田百閒氏の(文学上の)兄弟子でもある寺田寅彦氏の「電車の混雑について」が著名です。題名の通り、この論考では、当時東京中に路線網を張りめぐらしていた路面電車に関して取り扱っていますが、ここでの議論はそのまま、頻繁運転の路線バスにも適用できます。しかし、寺田氏が混雑を避けるために先行便を見送って、空いてる車両に乗車すべきだと結論づけたのに対し、筆者は旅客がわざわざ対価を支払って乗り物に乗る以上、先を急ぐのは当然のことだと考えます。そこで、事業者側に運行システムを見直させて運転間隔を均等化させることにより、混雑の緩和と所要時間の短縮を実現させるというアプローチをとります。
まず、だんご運転の原因と発生メカニズムについてですが、この点につきましては前述の寺田氏の論考で詳細に述べられておりますので、ここでは省きます。そこで、発生した、あるいは発生しそうなだんご運転を解消、予防するにはどのようにすればよいのでしょうか。ここで結論を箇条書きにして述べます。
(1) バスロケーションシステムの導入
これについてはすでに全国の多数の事業者によって導入が進められており、近年ではアメリカ軍の運用するグローバルポジショニングシステム(GPS)と携帯電話網の活用により、それ以前の各停留所のポールに専用システムを内蔵する方式と比べて安価にシステムを構築できるようです。筆者が批判する事業者においても導入しているのですが、業界最大手なのにもかかわらず一部の営業所管内(注1)のみでの導入にとどまっています。
このシステムによって旅客が自らの待つ車両の到着時刻を予測できるようになれば、下記(3)の考察と併せて、停留所における発車時刻の案内を廃止して、営業時間と時間帯別の標準運転間隔のみを掲示することができ、それによって運行体制の合理化に道を開けるようになります。
(2) 車両・営業所間での無線ネットワークの整備
これについても、手もとの参考文献のpp.130-140によれば、在来の業務無線システムが多くの事業者によって導入されているとのことです(注1)。また、前項のGPSを利用したAVM(注2)システムを導入すれば、営業所でリアルタイムに各車両の運行状況を把握でき、最適な配車や運行指示を行えるようになります。
たとえば、東京空港交通さんではこのようなシステムを利用して機動的な迂回路の手配を行っているそうです。
(3) ダイヤグラムの見直し等
筆者が利用者として観察したところでは、現行の路線バスの運行ダイヤは、通信業界でいうところのギャランティ方式の考えに沿って編成されているようです。つまり、事故や渋滞、多客等による運行遅延のそしりを免れるために、あらかじめ予想される(相対的に低い)運行速度を前提にダイヤを作成し、可能な限り「定時運転」を実現させようとするやり方です。この方式によって、(名目上の)定時運行率は向上しますが、一方、前回記事で述べたようなだんご運転が発生しやすくなります。しかも、渋滞もなく乗客の少ない時間帯においても「時間調整」の名目で乗降客の存在しない中間バス停に数十秒から数分間停車し、乗客の神経を逆なでします。また、以上のような考え方でダイヤを編成しているにもかかわらず、遅延したときの回復運転は基本的に想定していないようです。こうすることによって、交通手段を自弁できる階層は路線バスから離れ、採算が悪化し、新自由主義者に前回記事の冒頭に追記したような暴言を吐かれるまでになるのです。
そこで筆者は、ベストエフォート方式のダイヤ編成を提案します。すなわち、最閑散時間帯の道路状況を前提にダイヤを組むのです。もちろん、こうすると遅延が恒常化しますが、そこは旅客に対するフォローとしては上記(1)で論じたリアルタイムな運行情報を提供し、運行管理面では上記(1), (2)を活用して混雑する先行車両に客扱いをやめさせて通過運転を行い、空いてる車両に旅客を誘導します。もちろん先行車が停留所で降車扱いを行わなければならない場合は、続行車は通過します。また、閑散時間帯において無駄な途中停車をやめさせることで、競合する原動機付自転車をしのぐだけの表定速度を実現させます。場合によってはあらかじめ平行する短絡経路で運行する免許を取得することによって、デマンドバスの手法を活用して合法的な停留所飛ばしを可能ならしめます。
(4) 賃金体系の見直し
現在、路線バス運転手の賃金体系は日給月給制と時間給制が主流になっており、より速く運転させるためのインセンティブが存在しません。そこで、運転手が勤務時間中に営業運転した距離を積算し、これに賃率を乗じて報酬を計算するようにすれば、限られた時間内にできるだけ長い距離を(注3)運転できるように努力し、結果として表定速度の向上につながります。また、折り返しの待ち時間が無給扱いとなることから、バスターミナルで旅客が長蛇の列をなしながら運転手が油を売るというような光景も姿を消すことでしょう。もちろん、安全運転は当然の前提ですから、万一の事故には相応の懲戒処分を下すことになります。
また、(2)で述べたような機動的な配車を行うことで勤務成績の良好な運転手にできるだけ多くの仕業を任せ、そうでない運転手を「干す」ことで、運行コストの削減と優秀な従業員の待遇改善とを同時に実現できるようになります。
以上の提案を採用することで、自転車や(注4)バイクに流れた潜在顧客を誘致できるのはもちろん、上記(4)で触れたような効率化と従業員の動機付けの3点を同時に実現することにより、路線バス事業者の経営改善と地球環境問題の取り組みに資するものと確信します。
(注1) 筆者の地元では導入しておりません
(注2) Automatic Vehicle Monitoringの略
(注3) もちろんタクシーと違って恣意的な迂回運転は不可能です
(注4) 多段変速機付きのスポーツ車であれば、上り坂以外で路線バスをしのぐ表定速度を達成できます
さて、だんご運転に関する古典的な考察として、物理学者にして、乗り鉄の始祖、内田百閒氏の(文学上の)兄弟子でもある寺田寅彦氏の「電車の混雑について」が著名です。題名の通り、この論考では、当時東京中に路線網を張りめぐらしていた路面電車に関して取り扱っていますが、ここでの議論はそのまま、頻繁運転の路線バスにも適用できます。しかし、寺田氏が混雑を避けるために先行便を見送って、空いてる車両に乗車すべきだと結論づけたのに対し、筆者は旅客がわざわざ対価を支払って乗り物に乗る以上、先を急ぐのは当然のことだと考えます。そこで、事業者側に運行システムを見直させて運転間隔を均等化させることにより、混雑の緩和と所要時間の短縮を実現させるというアプローチをとります。
まず、だんご運転の原因と発生メカニズムについてですが、この点につきましては前述の寺田氏の論考で詳細に述べられておりますので、ここでは省きます。そこで、発生した、あるいは発生しそうなだんご運転を解消、予防するにはどのようにすればよいのでしょうか。ここで結論を箇条書きにして述べます。
(1) バスロケーションシステムの導入
これについてはすでに全国の多数の事業者によって導入が進められており、近年ではアメリカ軍の運用するグローバルポジショニングシステム(GPS)と携帯電話網の活用により、それ以前の各停留所のポールに専用システムを内蔵する方式と比べて安価にシステムを構築できるようです。筆者が批判する事業者においても導入しているのですが、業界最大手なのにもかかわらず一部の営業所管内(注1)のみでの導入にとどまっています。
このシステムによって旅客が自らの待つ車両の到着時刻を予測できるようになれば、下記(3)の考察と併せて、停留所における発車時刻の案内を廃止して、営業時間と時間帯別の標準運転間隔のみを掲示することができ、それによって運行体制の合理化に道を開けるようになります。
(2) 車両・営業所間での無線ネットワークの整備
これについても、手もとの参考文献のpp.130-140によれば、在来の業務無線システムが多くの事業者によって導入されているとのことです(注1)。また、前項のGPSを利用したAVM(注2)システムを導入すれば、営業所でリアルタイムに各車両の運行状況を把握でき、最適な配車や運行指示を行えるようになります。
たとえば、東京空港交通さんではこのようなシステムを利用して機動的な迂回路の手配を行っているそうです。
(3) ダイヤグラムの見直し等
筆者が利用者として観察したところでは、現行の路線バスの運行ダイヤは、通信業界でいうところのギャランティ方式の考えに沿って編成されているようです。つまり、事故や渋滞、多客等による運行遅延のそしりを免れるために、あらかじめ予想される(相対的に低い)運行速度を前提にダイヤを作成し、可能な限り「定時運転」を実現させようとするやり方です。この方式によって、(名目上の)定時運行率は向上しますが、一方、前回記事で述べたようなだんご運転が発生しやすくなります。しかも、渋滞もなく乗客の少ない時間帯においても「時間調整」の名目で乗降客の存在しない中間バス停に数十秒から数分間停車し、乗客の神経を逆なでします。また、以上のような考え方でダイヤを編成しているにもかかわらず、遅延したときの回復運転は基本的に想定していないようです。こうすることによって、交通手段を自弁できる階層は路線バスから離れ、採算が悪化し、新自由主義者に前回記事の冒頭に追記したような暴言を吐かれるまでになるのです。
そこで筆者は、ベストエフォート方式のダイヤ編成を提案します。すなわち、最閑散時間帯の道路状況を前提にダイヤを組むのです。もちろん、こうすると遅延が恒常化しますが、そこは旅客に対するフォローとしては上記(1)で論じたリアルタイムな運行情報を提供し、運行管理面では上記(1), (2)を活用して混雑する先行車両に客扱いをやめさせて通過運転を行い、空いてる車両に旅客を誘導します。もちろん先行車が停留所で降車扱いを行わなければならない場合は、続行車は通過します。また、閑散時間帯において無駄な途中停車をやめさせることで、競合する原動機付自転車をしのぐだけの表定速度を実現させます。場合によってはあらかじめ平行する短絡経路で運行する免許を取得することによって、デマンドバスの手法を活用して合法的な停留所飛ばしを可能ならしめます。
(4) 賃金体系の見直し
現在、路線バス運転手の賃金体系は日給月給制と時間給制が主流になっており、より速く運転させるためのインセンティブが存在しません。そこで、運転手が勤務時間中に営業運転した距離を積算し、これに賃率を乗じて報酬を計算するようにすれば、限られた時間内にできるだけ長い距離を(注3)運転できるように努力し、結果として表定速度の向上につながります。また、折り返しの待ち時間が無給扱いとなることから、バスターミナルで旅客が長蛇の列をなしながら運転手が油を売るというような光景も姿を消すことでしょう。もちろん、安全運転は当然の前提ですから、万一の事故には相応の懲戒処分を下すことになります。
また、(2)で述べたような機動的な配車を行うことで勤務成績の良好な運転手にできるだけ多くの仕業を任せ、そうでない運転手を「干す」ことで、運行コストの削減と優秀な従業員の待遇改善とを同時に実現できるようになります。
以上の提案を採用することで、自転車や(注4)バイクに流れた潜在顧客を誘致できるのはもちろん、上記(4)で触れたような効率化と従業員の動機付けの3点を同時に実現することにより、路線バス事業者の経営改善と地球環境問題の取り組みに資するものと確信します。
(注1) 筆者の地元では導入しておりません
(注2) Automatic Vehicle Monitoringの略
(注3) もちろんタクシーと違って恣意的な迂回運転は不可能です
(注4) 多段変速機付きのスポーツ車であれば、上り坂以外で路線バスをしのぐ表定速度を達成できます