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【夜回り先生のエッセー】

歌 傲慢さより自然の美

 子どもたち、君たちは、歌が好きですか。いろいろな歌があります。でも、歌には、四つの種類があることに気づいていますか。

 まずは、一人称の歌、「私は、俺は…」自分の思いを語っている歌。私は、いつも一人称の歌を聴くとこう思います。「勝手にそう語ればいい。好きにしろ。でも、人に押しつけるな」と。いつも、一人称の自分を語る歌には、その人の傲慢(ごうまん)さを感じます。

 次に、二人称の歌。「君は、あなたは…」誰かに対して、歌を通じて何かを伝えようとする歌。私は、二人称の歌を聴くとこう思います。「歌う前に叫べばいい。遊ぶなよ。かっこつけるな。弱い奴(やつ)だな」と。

 三人称の歌もあります。特に三人称でも、「みんな」を歌う歌には、嫌悪を感じます。「君の勝手な思いで、人に何かを求めるなよ。君の傲慢さで人を動かさないでくれ」と。

 でも、最後に、自然を歌う歌があります。目の前に、歌われた美しい景色や花が広がってきます。そして、こころを癒やしてくれる。君たちは、たくさん学校で歌ってきたと思います。そんな歌を聴くといつもほっとします。

 子どもたち、君たちは、どんな歌が好きですか。

 子どもたち、今回は、私は、厳しいことを書いています。それには、理由があります。私のもとには、数多くのメールや、自分の思いを詩集にした本が、届きます。そのほとんどが、自分の思いやだれかへの思いを書き綴(つづ)ったものです。過去に捕(と)らわれ、今に苦しみ、それを、だれかに向かって吐き出したものです。私は、いつもそれらを読んで哀(かな)しくなります。

 ちょっと外に出て、周りを見渡せば、桜や数多くの花が、私たちのこころを温かくしようと、必死に咲き誇っているのに、見ていない。外に出れば、ウグイスや多くの鳥たちが、私たちを励まそうと、必死に美しい歌を歌ってくれているのに、聞いていない。ただ、暗い部屋で、こころを閉ざし、その苦しみをだれかに押しつける。

 君たちは、どうですか、そんなメールをだれかに送ったことがありませんか。相手を苦しめることも考えず、ただ自分のその時の感情のままに。

 子どもたち、お願いがあります。今は、春、自然がその美しさを一年の中で最も誇る季節です。しばらくの間、歌を聴くことを止(や)めませんか。家でも、移動するときでも。そして、花や鳥の美しさに寄りそってみませんか。

 子どもたち、しばらくの間、メールやネットに自分の思いや人への気持ちを書くことを止めよう。そのかわり、君がその日出会った、美しい花や鳥の声のことを、できるだけていねいに書こう。そして、多くの人に知らせよう。それが、君のこころを癒やし、君の周りの人を幸せにしてくれます。

(水谷 修)

 

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