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クローズアップ2012:ポリオ不活化ワクチン、9月導入へ 切り替え、やっと

 ◇厚労省、国内開発にこだわり

 ポリオ(小児まひ)感染の可能性がある生ワクチンに代わり、不活化ワクチンの製造販売の承認を内定していた厚生労働省は23日、導入に関する検討会を開いて、一斉切り替え時期を9月とし、計4回の接種を始めるなどのスケジュール案をまとめた。先進国で生ワクチンを定期接種に使い続けてきたのは日本だけ。安全性が高い不活化ワクチンへの切り替えが遅れた背景には、厚労省の「国内開発へのこだわり」も見え隠れする。【井崎憲、河内敏康、斎藤広子】

 日本ではポリオが大流行した1960年代前半、不活化ワクチン導入の動きがあったが、十分な効果を上げられず、生ワクチンで流行を抑え込んだ。その後、患者数は激減。81年以降、自然感染は確認されておらず、主流となった生ワクチンの接種が続いてきた。

 厚労省関係者によると、この間、国内の中小規模のメーカーが中心になって不活化ワクチンの開発に挑戦。02年には当時の坂口力厚労相が「不活化が望ましい」との意向を示したが、01年に製造承認を申請していたメーカー1社が05年に断念し、期待はしぼんだ。厚労省はなおも海外に頼ろうとせず、10年に大手も含めた国内メーカー4社に開発促進を要請。だが承認が内定したのはフランスのサノフィパスツール社だ。

 感染症対策の専門家は「国内でのワクチン開発にこだわりすぎた面もある。国としてさまざまな意見をまとめて導入する道筋が描けなかった」と漏らす。検討会内部にも同様の声がある。だが、厚労省結核感染症課の担当者は「結果的には遅れたが、不活化ワクチンが望ましいとして02年から検討を始めていた。諸外国も00年ごろ切り替えており日本が特に遅いわけではない。開発が進まなかっただけだ」と反論している。

 今回の決定で、不活化ワクチンは予防接種法上の「公的」なワクチンとして定期接種に用いられ、費用は公費負担となる。対象は生ワクチンと同じ生後3カ月からの乳幼児。導入済みの諸外国と同様、接種は計4回とする。最初の3回は20~56日の間隔を置き、最後は3回目から半年以上あけるとした。

 通常2回の接種だった生ワクチンを1回接種している場合、不活化ワクチンは3回接種。国内未承認の不活化ワクチンを3回まで接種している場合も計4回になるよう追加接種することを求める。

 厚労省は5月から接種規則の改正などの手続きに入り、各自治体にも周知を図る。不活化ワクチンは今月中には正式承認される見通し。供給量は十分という。またポリオの不活化ワクチンとジフテリア、百日ぜき、破傷風の4種混合ワクチンも11月に導入の見通し。

 ◇独自輸入の自治体歓迎

 不活化ワクチンへの切り替えは、国に先駆けて独自輸入したワクチンの接種を昨年12月にスタートさせている神奈川県などの自治体にも影響を与えそうだ。

 同県の独自接種は未承認の段階だったため、小宮山洋子厚労相から「救済制度もなく行政上望ましくない」と批判された。23日に示されたスケジュールを受け、同県の担当者は「国には前倒しを要望しており、そうした声を受けてのことだと思う」と歓迎。埼玉県の担当者は「生ワクチン投与による感染がなくなる意味ではよい方向。ただ、これから半年で対応するにはかなりタイトなスケジュールだ」と話した。

 ポリオの会の小山万里子代表はスケジュールを了承した検討会メンバーでもあり、「生ワクチンはすぐにやめてもらいたいが、不活化ワクチンの承認はずっと待っていたことでありがたい」と述べた。

 ◇まひ不安「生ワクチン控え」も

 ようやく国の予防接種として9月からポリオの不活化ワクチンが使えるようになった。その反動で、不活化ワクチン導入までの間、生ワクチンの接種を控える保護者が増える恐れもある。ごくまれに、生ワクチンが原因でまひが生じる恐れがあるためだ。

 国内では10年2月に神戸市で、乳幼児が生ワクチンによってポリオを発症したのをきっかけに、患者団体「ポリオの会」が同年、厚労省に不活化ワクチンの承認を求める要望書を提出。それ以降、接種率が低下している。生ワクチンの接種は毎年春と秋の時期に行われる。厚労省が23日公表した資料によると、接種率は11年度春に前年度同期比16・2ポイント減の84・2%、11年度秋も15・5ポイント減の76・2%に低下した。

 ポリオは、主に夏に流行するのが特徴だ。最近でも中国や中央アジアのタジキスタンで流行し、死者が出ている。岡部信彦・前国立感染症研究所感染症情報センター長(感染症学)は「海外からポリオウイルスが入ってくる危険性はそれほど高くないが、接種率が下がっている現状では、一旦入った場合に広がる可能性が高い。予防のため、ワクチン接種で免疫を持つ必要がある」と指摘する。

 また、生ワクチンを接種した子どもからは、便と共に大量のポリオウイルスが排出される。日本小児科学会によると、生ワクチン、不活化ワクチンのいずれも接種していない場合、生ワクチンを接種するよりも、他人からポリオウイルスをうつされ、まひを生じる危険性が高まるという。実際、子どもがワクチン接種を受けた後で、父親が感染したケースがある。

 福島県立医科大の細矢光亮教授(小児科学)は「今が春の生ワクチンの接種時期に当たるため、接種していない子どもは、接種した子どもからウイルスがうつる可能性がある。感染によるまひや流行を防ぐためにも、9月まで何もしないのではなく、生ワクチンの定期接種か、自己選択で不活化ワクチンを接種してほしい」と訴える。

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 ◇ポリオとワクチンを巡る動き◇

1960年ごろ  ポリオが国内で大流行

  61年    生ワクチンによる一斉予防接種を開始

  80年    国内で最後の自然感染を確認

2000年10月 世界保健機関が日本など西太平洋37カ国で野生株のポリオが根絶されたと宣言

  10年    厚労省が国内4社に不活化ワクチンの開発促進を要請

         患者団体「ポリオの会」が導入求め署名を厚労省に提出

  11年 8月 導入に向けた厚労省の検討会始まる

     10月 神奈川県が独自に接種を始めると公表

     12月 神奈川県が国内未承認のまま接種開始

  12年 2月 政府が「今秋までに導入」と方針を表明

         仏メーカーが製造販売の承認を申請

      3月 11年秋の生ワクチン接種率が前年比15ポイント低下したと判明

      4月 厚労省部会で仏メーカーの不活化ワクチン承認が内定

      9月 定期接種を開始予定

毎日新聞 2012年4月24日 東京朝刊

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