「サムスン 最強の秘密」

技術より“人づくり”で負けた日本

元常務が語る「サムスン社員が必死に働く理由」

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2010年7月6日(火)

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 半導体、薄型テレビ、携帯電話などで、世界トップクラスのシェアに君臨する韓国のサムスン電子。後追いでも日本メーカーに圧勝する原動力は、厳しい競争の中で鍛え上げられた社員たちだ。サムスン流の人材活用術にはどんな秘密があるのか。

 サムスン電子の日本人の元常務が内側から見た強さと死角を語る。

(聞き手は山崎良兵=日経ビジネス記者)

吉川良三(よしかわ・りょうぞう)
1940年生まれ。64年日立製作所に入社後、ソフトウエア開発を担当し、CAD/CAMに関する論文を多数発表した。日本鋼管(現JFEホールディングス)を経て、94年に韓国サムスン電子に入社。常務としてデジタル技術を活用した設計・開発の業務革新を担当した。帰国後、2004年より東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センター特任研究員として、日本と海外の製造業を比較研究している。 主な著書に『危機の経営〜サムスンを世界一企業に変えた3つのイノベーション』(講談社、畑村洋太郎氏との共著)。(写真:中村 宏)
―― サムスン電子の役員として約10年間働いた経験をお持ちです。成長が続くサムスンの人材育成にはどのような特徴があるのでしょうか。

 吉川 実はサムスンの人材育成は、日本企業に学んだ社員教育の手法が基盤になっています。サムスングループの創業者であるイ・ビョンチョル氏の指示で、教育担当の幹部が、様々な日本メーカーの施設やプログラムを調べて回りました。

 例えば、サムスングループの人材育成の心臓部に当たる「人力開発院」は、ある日本メーカーの研修所をイメージして作ったものです。1960年代末以降、電機や半導体分野に参入する過程で、技術だけでなく、人づくりも日本に学ぼうとしたのです。

 日本企業が30年前にしていたような研修を、今でもサムスンは実践している。例えば、人力開発院で1カ月近くにわたって実施される厳しい新人研修は有名です。サムスンの創業者の理念、経営哲学、チームワーク、礼儀などを徹底的に教育する。

サムスンが新入社員に理念とチームワークを叩き込む「人力開発院」

 しかし私が日立製作所に入社した1960年代半ばには、11カ月にもわたる厳しい研修がありました。今は10日ほどで終わるそうですが、昔の日本企業は同じような研修を当たり前にやっていた。多くの日本企業が忘れてしまったような時間とお金をかけた人材教育をサムスンは重視しています。

 ―― サムスンの社員は猛烈な働きぶりで知られています。

土日も深夜もなく全力で働く

 いったん目標を決めたら、達成するために全力を尽くす。それがサムスンの社風です。社員には実質的な休みがないと思うくらいです。土曜も日曜もなく本当に熱心に働きます。

 私がサムスンの役員だった2000年代前半のことです。週末にゴルフをした帰りに、開発拠点がある水原(スウォン)事業所に行くと、普段どおり出社して働いている社員が常にたくさんいました。

 サムスンでは目標を達成しないといけないので、感覚的に土日がない。そういう風土が本当にすごい。年俸制なので、休日出勤には手当てがつきませんがそれでも働く。日本企業なら、こうはいかないでしょう。

 こんな経験もあります。私が開発部門で工数管理をしようと思って、社員の労働時間を調べましたが、とらえるのが難しかった。

 普通なら1日8時間労働で考えるのですが、サムスンには午前2時、3時まで働いてもへっちゃらな社員がたくさんいる。「どうしてここまでサムスンの人は働くのか」「土日の感覚があるのか」と本当に驚きました。

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このコラムについて

サムスン 最強の秘密

日本の電機大手をシェアと収益力で圧倒する韓国サムスン電子。強みは「逆張り投資」「マーケティング」「オーナー経営」とされる。しかし、後発で参入しても勝ち続けられる原動力はほかにもある。情熱を持ち、不可能はないと信じ、必死で戦略を実行する社員だ。かつて日本が得意とした「理念を叩き込む経営」をサムスンは重視する。社員が持つ能力を徹底的に引き出して、活用する仕組みを解剖する。

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