【1月15日、『脱原発世界会議』に参加した井戸川町長がOurPlanetTVのインタビューに応じた】
かみさんのホームページ『阿部りつ子の女川町（おながわちょう）便り』
全ての原発立地地域は井戸川双葉町長の悲痛な叫びに耳を傾けよ！
前書き
確かに福島県双葉町や大熊町などは原発を誘致した。
そして、電源3法に基づく交付金や東京電力からの寄付金など、原発マネーに依存し多くの箱物（公共施設）を造ったが故に、そのランニングコスト（維持費）に苦しみ、財政難に陥る事を恐れ次から次との原発増設を積極的に望んだ。
途中からは、東京電力のデータ偽造や事故隠しなどの醜い隠ぺい体質が何度も明らかになり、その度に原子炉を停止せざるを得なかった事もあったが、それでも東京電力は福島に固執していたし、地元も容認してきたのは事実である。
しかし、だからと言ってそんな彼らを責める事が、この国の誰にできるだろうか。
況や、福島からの電力供給で不夜城を築き上げた地域の人たちには、その資格などあるわけがないし、『流浪の民』と化した福島県民の苦境に、積極的に手を差し伸べるべきである。
ところが驚くことに、福島県民だから、という理由で首都圏で差別（いじめも）されて、泣く泣く福島に戻ったという人たちの報に接すると、胸が締め付けられる思いである。
私は、昔から原発反対を貫いてきたが、我が女川町も双葉町同様である。
そうは言っても、そんな私が彼らを責める事などできるわけがない。
地方の原発推進派の人々は、原子力ムラ（政府・電力会社・関連する鉄鋼会社やプラントメーカーやゼネコン等・政治家・御用学者・マスメディア幹部等々）の言う、「世界一の技術で絶対安全」との『安全神話』を信じたのであり、過酷事故が起こった現在は、いろいろ議論はあるだろうが紛れもなく福島の彼らは、責任を問われてはならない被害者なのである。
今は、井戸川双葉町長の魂の悲痛な叫びに耳を傾ける時であり、間違っても原発再稼働の道を歩んではいけないと断ずる・・・・・！
何故なら、東京電力を監視・指導できなかったばかりでなく、震災対策に関する外部の警告も無視して過酷事故を招いたのは、経産省原子力安全・保安院と原子力安全委員会と言っても過言ではないからである。
そんな彼らが、以前に問題を起こした関西電力の大飯原発のストレステストをして安全を確認したといっても、国民の多くはそれは形だけのアリバイ作りのセレモニーにしか過ぎないと見抜いていて、頭から信用なぞしていない。
それなのに、政府及び電力会社（電気事業連合会）、そして経産省原子力安全・保安院、内閣府原子力安全委員会の、信用失墜悪玉4人組は、前のめりになって原発再稼働に突き進もうとしている。
福島の事故は現在も進行中であり、事故の本当の原因・全貌が何一つ解っていないのであり、検証など先の先の話であるから、仮に再稼働するにしても、それらをクリアしてからであるのは、私でも考える工程である。
現状での再稼働は許されないし、一部マスコミも加わって始まった今夏の電力不足の大宣伝を利用しての原発再稼働の策動に、惑わされてはならない。
私には理解できない動き
【昨年3.11、津波から僅か80ｃｍの差で難を逃れ、外部電力も1系統だけの綱渡りだった女川原発】
さて、私の住む原発のある町、女川町で、３月1日から中旬にかけて町議会が開催された。
遅まきながら国は復興庁を設置し、『復興元年』と言われる大事な一年の予算案の審議が中心であった。
そんな中、一本の請願書が提出されたが否決された。
予想通りとはいえ、私は失望した。
その請願書とは、『女川原発の再稼働をさせない事を求める請願書』であった。
請願人は、宮城県大崎市と加美町在住の、女川原発周辺自治体住民である。
紹介議員は昨秋初当選した女性議員であったが、それは内容とは無関係であり、現今の社会情勢を観れば、採択する事こそ道理ある態度だと私は思ったが、現実はそうはならなかった。
もっとも、本来なら私のような女川町在住の住民が提出して然るべき性質の請願であるのだが、それをしななかった。
否、正直に言おう。
請願を出したって、どうせ通らないだろうという考えがあった私自身に忸怩たる思いが残り、何とも後味の悪い気持ちと羞恥心を抱いてこれを書いている。
原子力ムラの焦りと、財界に奉仕する野田首相と枝野経産大臣
全国に５４基ある原発の内、昨日まで稼働していたのは、東京電力柏崎刈羽原発6号機と北海道電力泊原発３号機の僅か２基だけであった。
しかし、その２基も柏崎刈羽原発6号機は今日（26日）未明に停止し、泊原発3号機は5月5日に定期検査のため停止する。
5月5日まで再稼働する原発がなければ、稼働原発ゼロになるのである。
原子力ムラの焦りは相当なものと想像され、その圧力に屈した形の内閣府原子力安全委員会の斑目委員長発言のいい加減さは目に余るものがあり、正視に耐えられない醜態と思うのは、独り私だけではないだろう。
関西電力大飯原発３・４号機のストレステスト結果に関し、「１次だけでは不十分で、２次まできちんとやってほしい。安全性の確認は保安院が責任をもってやるべきで、安全委はその確認をするだけ。再稼働の判断をするのは政府だ」と、私の頭では理解できない事を言って、再稼働へ事実上のゴーサインを出した。
呆れるばかりの無責任さだが、まだある。
野田内閣には枝野経産大臣がいるが、彼の発する言葉は国民を混乱に導き、愚弄するものばかりである。
菅内閣の官房長官時代には、事故発生からの彼の「ただちに健康に影響のあることはない」の発言で、福島県民の避難が遅れて余計放射能に晒し、その罪は大きいのに、原発再稼働推進の立場の経産大臣に就任した。
そして、「原発の再稼働がなくても今夏は乗り切れる」と発言したが、その場限りの発言であり現実は大飯原発の再稼働に踏み切る腹積もりなのは目に見えている。
しかし、ことは彼らの思い通りに進むとは思えない。
地元の福井県知事が慎重な姿勢である上、同県越前市議会は「福島原発事故の真相究明を待たずに再稼働はあり得ない」という、極めて常識的な判断で全会一致の決議をしたし、隣県の滋賀県議会も決議を上げ、知事も現状では反対の姿勢である。
私は、それらの報道に接すると、我が女川町議会の判断を残念に思うのである。
いずれにしても簡単に再稼働とはいかない情勢であり、ここに来て四国電力伊方原発の再稼働を優先させる案が浮上してきた。
しかし、女川町を含む全国の原発立地自治体の首長や議員は、福島第一原発の立地自治体の首長である井戸川双葉町長の、悲痛な魂の叫びに真摯に耳を傾けるべきである。
氏の嘆きと苦悩から学ばなければ、人の上に立つ指導者とは到底言えないと断ずる。
以下は長くなるが、埼玉県加須市に町民が集団避難している井戸川町長の発言と、手記からの引用である。（手記引用元＝河北新報）
【悪夢の連鎖、世界が息を飲んだ光景】
原子力ムラの全員が加害者、そして、うそつきがいる＝井戸川町長の話
「あんなに交付金をもらって、いい思いをして何だ、とお叱りを受ける。確かに交付金でいろいろ整備したが、全部置いてきた。失ったものはあまりに膨大だ。全国の立地地域は、ぜひ目を閉ざさないで現実を見に来てほしい」
と以前から語っていた井戸川町長だったが、手記では次のように綴っている。
「3月11日午後2時46分、突然地球が怒った。安全だと私たちにうそをついてきた『原子力ムラの正体』を、世に知らしめることになった。それを地球が私たちに注意をしたんだと思う」
「私たちは、真面目に電力を首都圏に送る事を誇りに思っていた。それがなんとも切ない、罰当たりなことだった」
「世界最大の被害者になってしまったことは大変つらい。終わりの見えない旅。『避難指示』だけの言葉で故郷を離れている。慰問に来られた方が歌う『ふるさと』は、私たちにはとても耐えられない。悲しい歌になっていることが、皆さんには分かってもらえない」
「恥ずかしいのは、いまだにうそをついている人たち。事故は終わっていません。今も微妙なバランスの中で安定化させている。事故の収束宣言は、とんでもないことと思う。私は認めるわけにはいかない」
「（放射性物質の）除去もできず住む希望も持てない一番ひどい地域とされる双葉町と大熊町が、事故の最大の被害者。ここに（中間貯蔵）施設を造れということを、誰にも言われたくない。私たちは誰よりも早く帰りたい気持ちがあり、『放射能をどこかに持っていけ』と、加害者に声を大にして言いたい」
「私たちに『日本は世界一の技術で絶対安全』と言い続けてきた『原子力ムラ』の全員が加害者であると思っています。この人たちが罪を償うこともなく、中間貯蔵施設で新たな職場を造ろうとしています」
※ところで野田政権は原発プラントの海外輸出を加速している。
ベトナム、トルコ、ヨルダン、インドなど・・・昨年10月末、ベトナムのグエン首相との会談で、原発の輸出を確認した。
それを念頭に、井戸川町長の話
「私たちは昨年3月11日から、被ばくを繰り返している。これほどの被ばく者を出し続けていて、世界から原子力輸出国として認証されるのか疑問です。国家の恥だと思っています」
「地域の自然と同様、人間そのものを除染しなければ。（がんを）発症するかしないかの議論で罪隠しにはならない。自然界以外の被ばくのすべては、要求しない迷惑なものを浴びせられていることになる。専門家と称する多くの方たちの安全基準は、まったく意味がない。被ばくについて安全と言った人たちに、賠償を求めなければなりません。皆さん、団結しましょう」
私たち立地自治体住民のみならず、全国民が学ばなければならない事
井戸川町長の言葉は以上であるが、私たちはこれらの言葉から多くのことを学ばなければならない。
まず、私たち人間のやる事に100％ということ、つまり絶対はない、と言う事を肝に銘じなければならない。
「絶対安全」とは、良心のある科学者だったら、それこそ絶対言えないはずなのである。
しかし事故以前の御用学者たちは、私みたいな大衆を相手にすると、その不遜さがにょきにょき頭をもたげ、「お前たちに何が解る？」の態度が見え見えで、「絶対事故は起きない」と断言していたが、事故後は沈黙をしている。
そんな彼らは、国民の前で自らの不遜さと嘘を詫びねばならないが、もちろんそれで彼らの罪が免罪される訳ではないのは、言うまでもない。
そして、福島の事故で明らかになったのは、この先原発を再稼働させたら、事故を起こしても起こさなくても、強烈な放射能を帯びた物質（使用済み核燃料等）の持って行き場がない事を、多くの国民が認識した事である。
それが如何に深刻な危険を孕んでいるかを、4号機が証明しているのであり、正面から原発問題を考え始めた多くの国民は、原発の再稼働に懸念もしくは反対の姿勢を示しだしたのは、各種の世論調査から明らかである。
4号機の原子炉には核燃料は入っていないが、使用済み核燃料とともに原子炉建屋内の貯蔵プールに保管されている。
しかし、大きく破壊された4号機の原子炉建屋はかろうじて建っている状態なので、今度大きな揺れが来たら崩壊し、再臨界の恐れが高いと専門家は警告しているのであるから、我々はそうした事態にならない事を祈るばかりである。
もし、そうした事態になったら、放射能の封じ込めは不可能であり、より広域に深刻で破滅的な厄災を招くであろう。
今、野田政権は、関西電力の大飯原発３・４号機の再稼働を目論んでいるが、もう立地自治体だけの判断での同意で、原発の再稼働を認めるのは難しいと言えるであろう。
過酷事故が起きれば、非常に広範な地域が汚染される事が証明され、それは思いもよらぬ地域に被害が出る事を国民は目にし、毎日口にする水や食料の汚染に敏感になっているし、それは当然のことである。
いくら低レベルの被ばくだから心配しなくて良いと言われても、低レベル被ばく者の晩発性疾病のリスクは無視できないのである。
家などの建物や市街地はおろか、農地も森林も地下水も空も川も海も、ありとあらゆるものが汚染され、それは食物連鎖などを通して濃縮と拡散をし続けるのである。
従って、今50�匏�内と言われている周辺自治体は、私見ではあるが少なくともアメリカの50マイル基準に倣って、80�匏�内の周辺自治体の同意が必要であろうと思うが、それでも不十分かも知れない。
もちろん県境などないのである。
また、原子力ムラの人たちは、原発の発電コストについて、どの燃料よりも勝っているとの優位性を常に口にしていて、それは今も変わらない。
しかし、福島の過酷事故の被害は尚拡大中（例えば、茨城や宮城の魚）であり、おらゆる被害に賠償責任がある。
その金額は天文学的数字になるだろうし、到底東京電力だけで負い切れるものではないのは誰の目にも明らかである。
今後それらも当然発電コストに含まれ、結局は東京電力への公的資金（税金）の投入であり、電気料金の値上げという形で、国民にツケを回すのである。
であるからどう考えても、後世まで過酷な被害を出し続ける事を考慮すれば、原発の発電コストは商業的にペイする代物ではないのは明白であるのは論を待たないと私は思う。
まだ論点はあるが最後に、原発立地自治体自体の問題を書いておく。
原子力ムラからの原発マネーを当てにしての自治体経営は、既にその有用性が失われていると言っても過言ではない事である。
時が経てば原発は当然古くなり立地自治体に入る税が大きく減るから、次の施設を求めるようになるし、事実どこの立地自治体もそうしてきた。
大分以前から、双葉町や大熊町の財政は逼迫し、原発マネーに依存した体質が問われていたが、その事実は電力を享受する人々の目に入らず耳には届いていなかったのである。
私の住む町、女川も例に漏れず言葉は悪いが、麻薬中毒と同じである。
私はついこの間、中堅どころの若い役場職員と話す機会があった。
驚く事にと言うか残念な事に、福島の惨状を知っているにも関わらずその職員は、平然として「町の財政的な面から原発は必要だ」と言ったのである。
その場は法事の場であったので議論はしなかったが、私は結構大きな衝撃を受けたのである。
何を言うか、である。
原発マネーという苦労もしないで大金が入る自治体体質を、当然の事として刷り込まれている考えは容易に変わらない現実を知ったが、私は一言だけ言った。
「全国の大多数の自治体は原発マネーなしで経営しており、それでも女川町より先進的な施策を実現している町や村もけっこうあるのだよ」と。
そしてどうしても言っておかねばならない事。
それは原発の立地自治体は、放射性物質の中間貯蔵施設にしても最終処分場にしても、引き受ける覚悟が要ると言う事である。
先行きの見えない再処理工場のある青森県だって、最終処分場を引き受けているのではない。
であるから「最終処分場は原発立地自治体に」、の論議は必至であろう。
交付金目当ての安易な原発容認は、言葉を変えれば『厚い札束でほっぺたを張られ』、その金で自分たちの代の生活が多少良くなったとしても、それは子孫に対しての大いなる負の遺産に他ならないのだということを、胸に深く刻み込む必要があるであろう。
井戸川町長の深い悲しみと嘆きは、突き詰めればそこにあると思う。
子孫に、美しく清らかな故郷を残せなかった無念は察して余りあるし、日本人の原風景を歌った「ふるさと」に耳を閉ざさざるを得ないその心は、あまりにも辛すぎる。
私たちの町女川も、今なら・・・・引き返せないとしても、再稼働をやめれば少なくともこれ以上増やす愚を犯さないで済む。
井戸川町長へのインタビュー＝反面教師にしてほしい
福島第一原子力発電所のある福島県双葉町の井戸川町長は1月15日、脱原発世界会議に参加。OurPlanetTVのインタビューに応じた。