余録:「北朝鮮の政治が間違っていて、こんなふうに…
毎日新聞 2012年04月28日 23時58分(最終更新 04月29日 00時37分)
「北朝鮮の政治が間違っていて、こんなふうに生きなければならないことを悔しいと思っています」「ただ、今は子どもたちにはもう少しよい未来があるはずだと思いながら、一生懸命生きるしかありません」▲新刊の「北朝鮮のリアル」(趙允英=チョ・ユニョン=著、東洋経済新報社)から引用した。話し手は、わいろを使って中国に行き、韓国の古着を仕入れる北朝鮮女性だ。闇商売で稼げるのはむしろ幸運としても、やるせないのも事実だろう▲このように往来する北朝鮮住民、中国に潜む脱北者、韓国や日本に定住した脱北者など約1000人の証言を得たという著者である。ソウルの女子大で学び、韓国に亡命した朝鮮労働党幹部の秘書も務めた。そんな女性が今は早稲田大の博士課程で日朝関係を研究している。以前なら想像もできなかったことだ▲一方、権力の3代世襲を成し遂げた北朝鮮指導部は代わり映えがしない。国民の大半が事実上の闇市や無許可で開墾した畑に、多かれ少なかれ依存している。政府は国民の生命・財産を守る責任を放棄したも同然だが、住民を統制する恐怖政治のシステムは確固としている▲人工衛星打ち上げと予告して失敗した事実上のミサイル発射実験も、いつでも強行できる状態とされる3度目の核実験も、食いつなぐのに懸命な人々の目にはむなしく冷酷な戯画と映るに違いない▲冒頭の引用以外にも数々の証言がある。絶対権力を受け渡す親子の方針が違うことはありえないという趣旨の指摘も見える。「それは北朝鮮に暮らしてみなければ分からないことだ」という断言に、さもありなんと思いつつ、暗い気持ちになる。