コリア国際学園 中等部・高等部 境界をまたぐ「越境人」に
メッセージ

人と人との間を線引きしない人間性を。

 在日1世は日常生活の中で日本語を使う必要性がなかったわけですが、それとは逆に在日2世の私は日常生活の中で朝鮮語を使う必要性がなかったのです。それは現在も変わりありませんが、そのことが、私たちのナショナル・アイデンティティの二重性をもたらしているのです。自我形成のプロセスで、私たちはたえず自分は朝鮮・韓国人なのか日本人なのか、それともなに人なのかを反問し、その二律背反に引き裂かれるのです。私は日本で生まれ、日本で育ち、母国語もろくに話せませんが、れっきとしたコ
リアンであると自負しています。しかし同時に、人と人との間を線引きしたことはありません。なぜなら人と人との間を線引きする根拠は何もないからです。人と人との間を線引きする縛られた意識ーそれこそが20 世紀において絶えずくり返されてきた植民地主義、民族紛争、そして戦争による人間性の破壊でした。それは21 世紀においても続いています。「KIS」は、人と人との間を線引きしない人間性を形成する学び舎です。精神の自由と自立心と豊かな愛を育成していくことをめざしているのです。「KIS」を卒業した生徒たちは、将来、そのことを実証してくれるものと確信しています。


やん・そぎる ● 作家。29 歳のときに事業に失敗し、大阪を出奔して各地放浪の末、東京でタクシー運転手を10 年間勤める。著書に「タクシー狂騒曲」(映画「月はどっちに出ている」の原作)、「族譜の果て」、「夜を賭けて」(映画化)、「血と骨」(第11 回山本周五郎賞/映画化)、「ニューヨーク地下共和国」、「闇の子供たち」(映画化)など多数。

新しい「共生」の生き方のモデルを。

 19世紀から20世紀にかけては競争の時代であったと言えるのではないでしょうか。ある覇権国家が軍事力によって世界を支配すれば戦争がなくなり、第2次世界大戦後は、経済力によって世界を支配する国が出現すれば、平和がもたらせると。しかし今、それがまったく間違っていたことが、はっきりしてきています。食料もエネルギー資源も有限であることはもちろん、2050年までに世界全体が環境問題をめぐって有効な手立てをうてなければ、地球自体が危ないとさえ言われています。21世紀は、世界各国がそれぞれの役割を担い、協調・共生することによって、人類の平和と人々の幸福を実現していかなければならない時代なのです。KISが目指しているのは、東アジアから、そうした考え方を持った「越境人」を育てていくことです。KISの生徒には、時代変化に取り残されない「生き抜く力」を育んでいくとともに、そのレベルを超えて「越境人」としての新しい生き方のモデルを示してほしい。KISがチャレンジしようとする教育とは、まさに21世紀の未来を先取りした教育だと思います。


てらわき・けん 学校法人コリア国際学園理事。現在、京都造形芸術大学教授。東京大学法学部卒。75年文部省入省。文部省初等中等教育局職業教育課長、広島県教育長、大臣官房審議官などを歴任。著書に「それでもゆとり教育は間違っていない」「韓国映画ベスト100」「2050年に向けて生きぬく力」など多数。

東北アジアの架け橋となる存在に。

 コリア国際学園(KIS)の建学の精神である「境界をまたぐ越境人」とは、日本、韓国、朝鮮民主主義人民共和国の3 つの国家のどれか1つのアイデンティティに拠って自己回復を図るのではなく、むしろそのハイブリッド性を生かして、3つの国家領域にまたがり、活躍しようとするディアスポラ(離散)の戦略でもあります。KIS が目指しているのは国籍や民族、イデオロギーによって細分化されることなく、東北アジアの域内にまたがって存在できる個性やアイデンティティを育むことです。民族や国家という装いを借りなくとも単独者として社会の責任を引き受け、外部とのネットワークを形成し、共生できる個人と表現してもいいでしょう。同時に「越境人」は、3つの国家によって寸断されてきた東北アジアの架け橋となる存在です。KIS を巣立つ生徒にはいつかEU(ヨーロッパ連合)のような国家を超えた東北アジも込められています。KIS の発展が在日コリアン社会だけでなく、東北アジアの国々の教育シーンにささやかな一石を投じることになればと願っています。


かん・そん ● ルポライター。2004 年〜05 年度文化庁芸術文化アドバイザー(日韓交流担当)。定住外国人ボランティア円卓会議世話人。在日外国人問題、サッカーワールドカップなどを題材に執筆。著書に「越境人たち 6 月の祭り(」開高建ノンフィクション賞優秀賞)「、5グラムの攻防戦」など。