日銀が「緩和ありき」に満額回答、政策運営の柔軟性確保が狙いか
[東京 27日 ロイター] 日銀は27日に資産買入基金による長期国債10兆円の増額など、事前の市場期待に沿った内容の追加金融緩和を打ち出す一方、事実上の目標に掲げる消費者物価(CPI)の前年比上昇率1%に2014年度にも到達する可能性を示唆した。
「緩和ありき」の異例の環境下で膨らんだ市場の期待に対し、ほぼ満額のメニューで応じるのと引き換えに、金融政策運営の柔軟性を確保したい日銀の狙いが垣間見える。
日銀の決定を受けた直後の金融市場は、長期国債買い入れの10兆円増額や上場投資信託(ETF)などリスク性資産の購入拡大を好感し、円安・株高に反応した。今回の会合に向け、市場では早い段階から追加緩和観測が浮上。「緩和ありき」の異例の環境下での追加緩和にもかかわらず、市場は日銀の具体策をほぼ満額回答と受けとめた。
一方で日銀は、同日に公表した「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)において、「中長期的な物価安定の目途」で示したCPI1%に、2013年度後半以降「遠からず達する可能性が高い」と明記。会合後の会見で白川方明総裁は、経済・物価の明るい動きを強調し、1%達成の時期について「2014年度も含む」と言及、実質的なゼロ金利政策と基金による資産買い入れなど緩和策が2014年度までに転換する可能性があることを示唆した。
もっとも、総裁は同時に、デフレ脱却に向けて強力な金融緩和を推進していくことを強調するとともに、「副作用があるから、金融緩和するべきではないとは思っていない」とも発言。今回の追加緩和の理由について「経済・物価で起きているよいモメンタムを大事にし、(日本経済が)持続成長に復するがい然性をさらに確実にしたい」と説明。景気・物価が上向く中でも、必要に応じて緩和措置を実施していく考えをちりばめた。
日銀内では、2月の事実上のインフレ目標導入と合わせて実施した「サプライズ緩和」を受けて高まる一方の市場の緩和期待に対し、市場の期待にそのまま応えることは、期待を際限なく膨らませることになり、かえって市場と経済の変動を大きくしてしまうことを懸念する声が強かった。白川総裁自身も、18日の米ニューヨークでの講演で「中央銀行に対する期待や信認は連続的にコントロールできるものではない」と語っている。
それでも、あえて市場の期待に満額回答で応じたのは、短期的な市場の期待に沿うことで、市場の失望を回避し、中長期的な金融政策の柔軟性を確保する狙いがあったとみられる。白川総裁は会見で、今後の金融政策運営について、金融緩和を「毎月、やっていくということではない」と緩和期待をけん制。「経済・物価の展開や、金融政策の効果を冷静に、じっくり見極めたい」とも述べ、期待に押されるかたちでの緩和策に終止符を打ちたい本音もにじませた。
(ロイターニュース 伊藤純夫;編集 石田仁志)
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