東京タワーが完成したのは1958年。その年の11月末、皇太子さま(現天皇陛下)のご婚約相手が発表された。お相手は、「民間」の「日清製粉社長の長女、正田美智子さん」(現皇后陛下)で、世間では美智子さまの服装などをまねする「ミッチーブーム」が巻き起こった。
当時のご婚約発表の新聞記事は、「報道協定」のためタイミングは横並びだったが、著名評論家から「ずば抜けて、あざやかであった」と評された記事があった。朝日新聞の11月27日付夕刊に載った「正田家を見つめて六カ月」だ。
東京スカイツリーが開業予定の2012年、この記事を書いた元朝日新聞記者で、54年前の当時「お妃選び取材班」だった佐伯晋さん(81)に2部にわたって話を聞く。第1部は、数十年を経て見つかった当時の取材ノートをもとに、「正田家に入る秘密のルート」を築き上げる過程など、佐伯さんらの取材の悪戦苦闘ぶりに焦点をあてる。
佐伯さんが「お妃選び取材班」担当になる話に入る前に、インタビュー第1回では、ご婚約発表(報道解禁と同日)を翌日に控えた1958年11月26日に、佐伯さんの「特ダネ写真」を目にした美智子さまが「泣き崩れた」エピソードを取り上げる。
――詳しくは追って伺いますが、佐伯さんは美智子さまのご実家、正田家とのいち早い接触やいくつもの偶然が重なった結果、ご婚約発表直前の正田家前には、中に入れない大勢の報道陣がいる中、美智子さまのご家族の信頼を得て特別に「正田家に入る秘密のルート」をもっていたそうですね。
佐伯さんはそのルートを生かし、ご婚約発表後の朝日新聞の号外を飾ることになる美智子さまの特ダネ写真の撮影に成功しています。
佐伯 その写真は、美智子さんが天皇陛下(昭和天皇)に婚約のご挨拶に伺うときに着るドレスを試着した姿を写したものです。婚約発表予定の(1958年)11月27日の日中に配る号外に載せることが決まったので、前日の26日にすでに印刷された号外を美智子さんの自宅に届けに行きました。
写真は、26日の2、3日前に東京・五反田の高台にある正田邸内で撮ったものです。「いつもの秘密のルート」を使って午後の早い時間帯に正田邸に入ったところ、ちょうどドレスが三越から届いて、美智子さんがお手伝いさんと一緒に試着し終わっており、その部屋へ通されたのです。1階の応接室の隣室だったかな。
(続く)
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