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石原慎太郎東京都知事が米ワシントン市内で講演し、尖閣諸島を買い取るため都が最終調整に入っていることを明らかにした。
民間の地権者と詰めの交渉を進めており、年内の取得を目指しているという。
尖閣諸島が歴史的にも国際法上も、わが国固有の領土であることは言うまでもない。
石原氏の狙いは何なのか。
国民の注目を集めるための石原氏一流の政治的パフォーマンスのようにも見えるが、日中双方に新たな混乱を招き、緊張感を高めることにつながらないか、危惧する。
都が購入する予定の尖閣諸島は、魚釣島、北小島、南小島の3島。現在、国が地権者と賃借契約を結び管理している。賃料は年間で計2450万円に上るという。
尖閣諸島は行政的に石垣市に属している。東京都が沖縄県、石垣市を飛び越えて買い取るのは釈然としない。都民の税金が使われるが、東京から遠く離れた尖閣諸島を購入することに理解が得られるだろうか。都は寄付を募り、国民運動的な広がりにしたい考えのようだ。
領土、領海に関しては国の専権事項である。仮に領土をめぐって中国とトラブルが起きたとしても東京都が何か手出しできるわけではない。
都の買い取り構想は唐突な感じは否めないが、国境の島を個人が所有することについては議論の余地がある。
領有権を主張する中国は「いかなる措置も不法で無効だ」とし、台湾も「全く認められない」と反発を強めている。
ことしは日中国交正常化から40周年を迎える記念すべき年であるのに、ぎくしゃくが続いている。
2010年9月には中国漁船衝突事件が起き、日中間は最悪の状態に陥った。
ことしに入ってからも河村たかし名古屋市長が「南京虐殺事件」はなかったと発言し、友好都市の南京市との交流が冷え込んでいる。
日本政府が尖閣の島々に名前を付けると、中国も対抗して独自の名称を付け、尖閣諸島を初めて「核心的利益」と位置付けるなど対立が激しくなっている。
漁業監視船が領海侵犯するなど海洋権益のため活動を活発化させる中国の行動はエスカレートする傾向にある。
石原氏は国民の一部にある中国への警戒感に火を付けようとしているのだろうか。それとも有効な手だてを打てないでいる民主党政権を覚醒させようとするつもりなのだろうか。都民からも戸惑いと評価の声が上がっている。
東シナ海でトラブルが起きた場合の危機管理を話し合う日中の「海洋協議」の初会合が5月に開かれ、解決の糸口を探ることになっていただけに、このタイミングでの石原氏の発言は残念だ。
低迷から抜け出せない経済など日本を覆う閉塞(へいそく)感のはけ口として領土ナショナリズムに向かっていくことにならないか懸念する。
中国もナショナリズムを刺激され、さらに対立が深まることになりかねない。政府には国民感情に配慮しながら慎重なかじ取りを求めたい。